熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ウォルター・アイザックソン著「イーロン・マスク上下」

2024年04月20日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ウォルター・アイザックソンの著作を読んだのは、「スティーブ・ジョブズ」と「レオナルド・ダ・ヴィンチ」と、この「イーロン・マスク」で3作目だが、イーロン・マスクを徹底的に調査研究して余すところなく現代屈指のイノベーター、アントレプレナーとしての偉大な足跡を活写していてまさに驚異を覚える。

   マスクの凄さ偉大さについて、一つだけ例証すれば十分で多言は要しないであろう。
   それは、火星に行きたいとして立ち上げたスペースXの物語である。
   2008年、艱難辛苦を乗り越えて、3回失敗し4回目の打ち上げで、ファルコン1が、民間が独自で開発したロケットとして初めて、地上から打ち上げて軌道に到達したのである。マスク以下、わずか500人で一から設計して、製造も総べて自分たちでやった(ボーイングは、当該部門だけで5万人を擁している)。外部に委託したところはないに等しい。資金も民間だ――大半はマスクのポケットマネーだから。NASAその他とミッション契約は結んでいるが、成功しなければお金は払われない。補助金もなければ実費精算という話もない。
   そして、マスクは、「これは長い道のりの第一歩にすぎない。来年はファルコンを軌道まで打ち上げる。宇宙船ドラゴンも開発する。そして、スペースシャトルの後継になるのだ。やることはまだある。火星にだって行かなければならない。」と言った。
   その年の12月、NASAから、国際宇宙ステーションまで12往復、16億ドルの契約がスペースXに与えられた。

   2020年5月、クルードラゴン宇宙船を頭に付けたファルコン9ロケットがNASAの宇宙飛行士を乗せて、国際宇宙船を飛び立った。
   宇宙飛行士を国際宇宙船まで運べるロケットを開発する契約をスペースXと結んだが、NASAは同日付で、同等の契約を予算60%増しでボーイング社と結んでいる。だが、このスペースXがミッションを達成した2020年、ボーイングは、国際宇宙船ステーションと宇宙船の無人ドッキング試験さえ出来ていなかった。

   マスクは、今や、このスペースXに加えて、テスラ、X Corp.(旧:Twitter)ほか幾多の最先端の企業を経営するイノベイティブな企業家でもあるが、壮大なミッションを掲げて、完遂するためにはドンドンハードルを引き上げて行き、一切の妥協や怠慢を許さず、スタッフを叱咤激励して、突っ走り続けている。
   若くして逝ったスティーブ・ジョブズと並ぶ希有の天才起業家だが、まだ、若いので、この21世紀をどのような別天地に変えてくれるのか、夢は尽きない。

   さて、私が強烈に感じたのは、前述の逸話から、マスクの事業から比べれば、ボーイングでさえ、ゾンビ企業に過ぎないと言うことである。況んや日本の企業をやである。
   現代資本主義が危機だと言われ、日本企業の凋落が問題視されているが、マスクを思えば、そんな悪夢は飛散霧消する。
   国際競争力を失墜しつつある日本企業の経営者が、せめても、このアイザックソンのマスクの本や「スティーブ・ジョブズ」を、ケーススタディの教材として、経営戦略や戦術を、真剣に練り直せば、如何に有効か。
   格好のイノベーション戦略論でもあり、攻撃の経営学本でもある。

   勿論、上下で900㌻にわたる大著なので、多くの驚異的な逸話やストーリーの連続で、マスクとビルゲイツやジョブズ、ベゾス等との絡みなども興味深く、マスクも凄いが、アイザックソンの博学多識の筆の確かさにも舌を巻く好著である。
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