熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ナシム・ニコラス・タレブ・・・ANTIFRAGILE(抗脆弱性)こそ発展のエンジン

2016年10月31日 | 政治・経済・社会
   先日、「Hitachi Social Innovation Forum 2016」で、ナシム ニコラス タレブ の「不確実性を富に変える逆転の発想~イノベーションの進め方~」を聴講した。 
   「The Black Swan」を読んで、興味を持ったので、出かけたのだが、今回は、新著「Antifragile: Things That Gain from Disorder」に関する内容の講演を行った。
 
   タレブは、著書「The Black Swan」で、この世界には、あらゆる分野において、非常にあり得ない様な、不確定な事象が存在することを説いた。
   白鳥は、すべて白い鳥だと思っていた人々の眼前に、ブラックスワンが現れたのである。
   ところが、この講演でタレブが説いたのは、このブラックスワンの出現こそ、人類の発展にとっては、恵みであって、この事象に立ち向かうANTIFRAGILE(抗脆弱性)こそが、FRAGILEの反対語のROBUSTよりも重要だと言う。
   ストレスや緊張によって人間の骨が強くなるように、人生においても、ストレス、ランダム性、無秩序、ボラティリティ、不確定、リスク、混乱などから益することがある。
   タレブは、人類が、このようなカオスから利益を得て、生き抜き繫栄するために役に立つ事象のカテゴリーを、ANTIFRAGILE(抗脆弱性)と称したのである。

   タレブは、風力発電の写真を示して、風は蠟燭を消し火を煽るが、必要だとして、ランダム性や不確定要素を好みはしないが、それが必要であり、見えない、不透明な、不可解なものを、如何に、自家籠薬化し、支配し、克服するかが重要だと語った。
   この考え方が、タレブのANTIFRAGILE論の基礎である。

   タレブのANTIFRAGILEは、外部からのリスクやストレスに抗するだけではなく、むしろ、リスクやストレスを好み、これらを加えられることでかえって強靭さを増すことを意味しており、このような構造とシステムを持った者こそ、イノベーションを生み出し、成長発展するとする。
   世界で最も倒産率の高いのは、シリコンバレーであって、それ故に、最も革新的企業が生まれ出て、イノベーションの坩堝を形成しているのである。
   ジョブズもゲイツも多くの偉大な多くのITイノベーターは、大学のドロップアウト組であり、ビジネス・プランに固守している会社はつぶれる、オプショナリティの高い企業の方が生き残るのだと言う、変転極まりない不確定要素の強い何が起こるか分からない時代の生きる知恵であろう。

   これまでも何度も書いてきたが、ルネサンス期のメディチ家が、彫刻家から科学者、詩人、哲学者、画家、建築家まで、幅広い分野の人材をフィレンツェに呼び集めて文化文明の十字路を形成し、創造的な爆発を現出した。多方面の専門分野が交わるところで新しいアイデアを生み出し、世界史上最も革新的な時代、ルネサンスを生み出した。
   これこそ、知の挑戦を受けて立った人々による真善美の創造の根源的エネルギーであって、知の激烈な衝突が、いわば、タレブの言うブラックスワンであり、イノベーションと新しい価値を生み出してきたのである。

   このタレブの理論は、アーノルド・トインビーが、70年以上も前に出版された「歴史の研究」で明確に述べている「挑戦と応戦」の理論の焼き直しである。
   四代文明が生まれたのは、恵まれた環境下にではなく、劣悪な自然環境や気候の変化や外敵の侵入などの圧力や困難と言った激烈な「挑戦(チャレンジ)」を受けて、それに「応戦(レスポンス)」して勝ち取った結果だと説いたのである。
   中国文明が、豊かで恵まれた揚子江の流域ではなく、自然環境が極めて劣悪な黄河流域で起こったことを見れば歴然としている。
   シンガポールやスイスもそうだが、何もないから素晴らしい成長を遂げたし、かってのカルタゴも同様で、何時沈むか分からないラグーナの上に築かれたベニスも最先端の繁栄と文化を謳歌した。

   また、このことは、ダーウィンの進化論でも、強いものが生き残るのではなく、適者生存だと言っているのとほぼ同じで、自然環境の変化にチャレンジして上手くレスポンスしたものが生き延び進化するということであろう。

   別に、声を大にして語っているタレブの講演を聞かなくても、すべて先刻承知なのだが、危機意識の欠如した凡人の悲しさ、虎穴に入る意思も能力もない凡庸な経営者を頂く会社の悲しさ。
   かわいい子には旅をさせよと言う先人の言葉や、イギリス貴族は子弟をグランドツアーにイタリアなど大陸ヨーロッパに送ったと言う話を、知っていても、過保護過保護で、子供をスポイルしている親が、如何に多いことか。
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