熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ジェフ・ダイヤー著「米中 世紀の競争 ―アメリカは中国の挑戦に打ち勝てるか」(1)

2015年07月22日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ケンブリッジとジョンズ・ホプキンズで学び、米中伯で特派員を務め、前北京支局長のFT記者の著書「THE CONTEST OF THE CENTURY」で、サブタイトルが、「中国との競争の新時代 アメリカはどのようにして勝利を収めるのか」と言う本であるから、非常に興味深く、日本が、アメリカや中国に対して、どのように向き合えば良いのか、考えさせられて面白い。

   今夕の日経には、「政府、中国ガス田開発の証拠写真を公表 計16基の構造物」と言う記事で、中国が日中間の合意に反し、東シナ海の「日中中間線」付近で一方的に新たなガス田開発を進めていると報じていた。
   また、中国の南沙諸島での一方的な浅瀬開発に危機感を募らせたアメリカが、南沙諸島の偵察を強化しており、これに対して中国が猛抗議して、「アメリカとの一戦は避けられない」と報じるなど、危機的な状況が起こっている。
   いずれにしろ、極最近まで、殆ど手さえ付けなかった東シナ海や南シナ海の無人諸島に、根拠のない(?)領有権を主張して、アグレッシブに実効支配に及ぼうとする中国の台頭が、国際舞台で物議を醸している。
   鄭和時代の領域を領土と主張し始めたら、東南アジアは元論、インド洋にまで及ぶ大変な中華帝国が現出する。

   この本で、ダイヤーは、米中の鬩ぎ合いについて、多くの側面から切り込んで、興味深い持論を展開しているのだが、今回は、太平洋におけるアメリカの位置づけについて、興味深いレポートを行っているので、まず、その点について考えてみたいと思う。

   例えば、オーストラリアの場合、中国との貿易が盛んになり、中国からの投資も増大して、中国経済との結びつきのお蔭で経済発展を遂げている筈なのだが、中国の軍事力増強がこの地域の経済の安定性を損なう可能性があると見て、アメリカとの軍事同盟を強化して、アメリカのプレゼンスこそが、そのような成り行きを避ける最良の手段であり、強力になった中国の最悪の本能を阻む防波堤だと考えている。
   一方、ベトナムは、中国と緊密で全く同じような体制を維持しながらも、実際には、中国の支配からの独立に明け暮れた歴史の再現を恐れており、そのために、アメリカの支援を求めるようになったのは、アメリカがこの地域でプレゼンスを増すことは、情勢の安定化に有功だと考えているからである。
   勿論、ベトナムは、アメリカを同盟国だとも、この地域を支配して貰いたい国だとも、中国を封じ込めるパートナーとも思っておらず、アメリカを純粋にパワーバランスの一要素と見ているだけだと言う。

   したがって、アメリカの最終目標は、この地域にゆるやかなで非公式な協力関係のネットワークが作られるように手を貸すこと、すなわち、「後方からの指導」、アジアで働くではなくてアジアと共に働く、ことだろう。
   しっかりと組織された同盟関係と言うより、必要に応じて準備する見えない連携のようなものになり、この関係は、共通の利害に基づいているため、いずれかの国が現状を覆すことは困難になる。
   特に有利なのは、重荷を中国の方に負わせられると言うことで、中国が近隣諸国を脅かさなければ力の均衡努力は穏健になり、逆に、不安を煽るなら、それに対抗する連繋はより強固形を取るであろうと言うのである。

   最近の中国は、尖閣諸島であれ、南沙諸島であれ、アジア各地で、積極的な役割を担おうと強引に動きすぎており、アジア諸国は一致協力してそれを阻もうとする兆候が表れている。
   アジアの各国政府は、これまでに中国とどういった歴史的な軋轢と重荷を抱えながら、現在の状況に至っているかを理解せずに、中国がアグレッシブな拡張政策を推し進めれば推し進める程、パワーバランスを取る方向に振り子が動く。
   アジア各国がアメリカの軍事的支援を求めるのは、中国を孤立させるためではなく、経済的利益などを得るべく中国と関わる上での安心を得たいからである。

   対中国政策よりも、アメリカが台頭するアジアの望むものをなるべく実現しようと言う姿勢を取れば、現状を変えようとする中国の試みを受け流すことはずっと容易になる。
   アメリカがアジアで促進したいと望むものは総て――自由貿易、高校の自由、投資の法的保護、太平洋をはさんだ経済統合、人権の尊重――アジアの殆どの政府が望むものであり、例え中国が何を望もうとも、これらの原則を覆す訳には行かない。ので、アメリカの国力が弱ろうとも有効な戦略だと言うことであろう。

   以上は非常に穏健なダイヤーの理論展開だが、この本では、色々なアメリカの戦略が語られており、たとえば、中国は、石油の輸入国であり、その大半が中東から来ているので、マラッカ海峡など5つの航路を海上封鎖すれば、一気に経済を壊滅状態に追い込めるだとか、結構興味深い。

   しかし、新たな冷戦の宣言に繋がるかも知れないような戦略が紹介されている。
   「エア・シー・バトル(空海戦闘)」と言う戦略で、ウォーゲーム・シュミレーションで、「中国のミサイルがこの地域にある米軍基地の多くをたちまち壊滅させ、さらに西太平洋に派遣されたアメリカの空母を数隻沈める」と言う結果が出てのだが、そうした想定への直接的対応だと言う。
   アメリカが今直面している新たな脅威――アメリカの戦艦の動きを制限できる長射程の精密照準ミサイル、新型潜水艦、サイバー戦争のスキル――に対するものであるから、当然、対中国戦略である。
   米中の戦闘を始めた場合、アメリカは中国のミサイルと高性能レーダーに対して「目つぶし攻撃」を行うべき、すなわち、アメリカの攻撃を阻止しようとする中国側のミサイル基地や地上用レーダーなどの監視装置を破壊するなど無力化するために、中国本土を広く爆撃すると言うことであるから、戦闘の速やかな激化を招き、外交交渉の余地など圧殺する危険極まりない戦争となる。
   尤も、馬鹿げているほど高くつく戦略なので、米中でこのような派手な軍拡競争が起きれば、アメリカの財政基盤が中国より強いかどうかであろう。
   ダイヤーは、このようなアメリカの戦略プランは、友好国や同盟国に安心感を与えるどころか、その関係を揺るがしかねない。としている。

   それよりも、米中戦えば、局地戦で止まる筈もなく、米中とも原爆保有国であるから、必ず、原爆に手を付ける筈であり、即、地球船宇宙号の壊滅に繋がる。
   両国とも、失うものがあるだけで、戦争で得るものは何もないのであるから、地球を廃墟に追い込むような愚行をすることはないであろう。
   しかし、一触即発の危機的な小競り合いや紛争は起こり得るであろうから、それを、如何に阻止し避けるかと言うことになろう。
   チキンレースなり、ゲームの理論なり、仮想空間での理論展開なら良いのだが、米中の競争が、覇権争いや戦争ではなく、平和な文化文明競争であって欲しいと思う。
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