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河連法眼館の場で、静御前に付き従っていた忠信が、源九郎狐としての正体を現す華麗な舞台である。
河連法眼館の場も、法師団の登場以降後半が省略されているので、ストーリーとしては、重要な展開はないのだが、この舞台は、道行初音旅の華麗な舞踊と、源九郎狐の早変わりの面白さなど、見せて魅せる演出を楽しむ視覚芸術の世界である。
この舞台については、文楽を含めて、結構沢山観ている。
以前に、書いた私のブログを引用すると、
「川連法眼館」の場は、やはり、ここでは、主役の忠信・源九郎狐役者の力量が総てと言えるほど、狐忠信の芸が重要である。
外連味豊かで、正に見せて魅せる舞台を展開してくれた猿之助や、ロンドンやローマでも大成功を納めた海老蔵の素晴らしくアクロバチックでダイナミックな舞台や、勘三郎の人間味豊かな心温まる舞台などを見て来たが、何故か、菊五郎の舞台を見る機会が多かった所為もあろうが、この源九郎狐は、菊五郎の舞台だと言う気が強くしている。
威厳があって実に風格のある冒頭の佐藤忠信の登場から、菊五郎の芝居は異彩を放っているのだが、一転して、狐忠信として登場すると、もう、全身全霊、親を慕い憧れる子狐に生まれ変わって、ナイフを触れただけで血が迸り散るような命の鼓動を直に感じさせてくれる凄い芝居を見せてくれて、感動の連続である。
人間国宝の人間国宝たる至芸の成せる業であろうか。
今回の菊之助は、まさに、その素晴らしい菊五郎のコクのある至芸の継承であり、それに、溌剌とした若さの輝きが加わったというか、とにかく、美しくて感動的な舞台であった。
菊之助は、〈平知盛〉〈いがみの権太〉〈忠信・源九郎狐〉のキャラクターの全く違う三役を、一挙に、通し狂言で演じたわけだが、知盛は義父吉右衛門の、忠信狐は父菊五郎の指導よろしきを得て、権太は役を工夫しながら地で行ったという幸運はあったとしても、女形で華麗な美しい芸を披露することが多い菊之助としては、主役の立役の連続を無難に熟し得たのであるから、大変な快挙である。
『NINAGAWA十二夜』の琵琶姫/獅子丸と、『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』の迦楼奈/シヴァ神しか観ていないが、凄い新作歌舞伎にも意欲的に挑戦しており、二人の人間国宝の父と義父の芸の継承で、益々、芸の深化と芸域の広がりに邁進できるのであるから、楽しみである。
さて、道行初音旅は、次のようなストーリーだが、吉野桜であろうか、春爛漫に咲き乱れる春をバックにして踊り舞う静御前(時蔵)と菊之助の忠信の華麗な舞台が魅せる。
都に居た静御前は、義経恋しさに、義経が吉野にいるとの噂を聞き、吉野に向うのだが、義経より預かった初音の鼓を打っていると、佐藤忠信があらわれた。 忠信が義経より賜った鎧を出して敬うと、静はその上に義経の顔によそえて鼓を置いた。この鎧を賜ったのは、兄継信の忠勤であると言って、継信が屋島の戦いで能登守教経と戦って討死したことを物語る。静と忠信主従は芦原峠を越え、吉野山へ向かう。
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さて、河連法眼館の場の狐の段は、次の通り。
法眼と飛鳥のやりとりと義経登場の冒頭部分の後、
佐藤忠信が、河連法眼の館を訪ねてくる。義経は託した静御前の安否を尋ねるが忠信には憶えがない。静と忠信が到着したのだが、忠信は姿を消していない。不思議に思った静は、道中、初音の鼓を打つと必ず忠信が姿を現したことを思い出したので、義経はそれを手掛かりに真相の究明を命じる。静が鼓を打つと忠信が現れ、鼓の音色に聞き入り、鼓の前にひれ伏す。静が、刀を向けて迫ると、忠信は、桓武天皇の治世、雨乞いのために大和の国で千年の命を保ち、神通力を得た牝狐と牡狐の皮を用いて初音の鼓を作ったが、自分は、その鼓の子で、狐であると語った。狐は、鼓が義経の手に渡り静に託されたので、忠信の姿を借りて静警護で親に付き添うことができて幸せだったが、迷惑がかかるので、想いを断ち切り、義経から譲られた「源九郎義経」の名前を、自分の名前「源九郎義経」とすると言い残し、鼓に名残を惜しんで姿を消す。奥でその様子を聞いた義経は、生後間もなくの父親との死別、親同然の兄との不和という自身の肉親との縁の薄さに比べ、狐の愛情の深さに心動かされ、再び姿を現した狐に、静の供をした褒美として鼓を与える。喜んだ狐は横川覚範の夜襲を知らせ、神通力で援護すると約束し、鼓を持って飛ぶように姿をくらませる。
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独特の狐言葉、手足の仕草を微妙に変えて狐を演じる菊之助の細やかな芸の巧みさ、軽やかでアクロバティックな身のこなし、転げ回って小鼓にじゃれつく天真爛漫な子狐、
凜々しくて風格のある東北侍の忠信の貫禄から、一変した狐忠信と子狐の狐言葉は、柔らかい女方の子供言葉
これこそ、感激し続けた菊五郎の至芸そのものであると思った。
静御前 時蔵(道行) 梅枝(河連法眼館)
義経 鴈治郎
河連法眼 権十郎
法眼妻飛鳥 萬次郎
河連法眼館の場も、法師団の登場以降後半が省略されているので、ストーリーとしては、重要な展開はないのだが、この舞台は、道行初音旅の華麗な舞踊と、源九郎狐の早変わりの面白さなど、見せて魅せる演出を楽しむ視覚芸術の世界である。
この舞台については、文楽を含めて、結構沢山観ている。
以前に、書いた私のブログを引用すると、
「川連法眼館」の場は、やはり、ここでは、主役の忠信・源九郎狐役者の力量が総てと言えるほど、狐忠信の芸が重要である。
外連味豊かで、正に見せて魅せる舞台を展開してくれた猿之助や、ロンドンやローマでも大成功を納めた海老蔵の素晴らしくアクロバチックでダイナミックな舞台や、勘三郎の人間味豊かな心温まる舞台などを見て来たが、何故か、菊五郎の舞台を見る機会が多かった所為もあろうが、この源九郎狐は、菊五郎の舞台だと言う気が強くしている。
威厳があって実に風格のある冒頭の佐藤忠信の登場から、菊五郎の芝居は異彩を放っているのだが、一転して、狐忠信として登場すると、もう、全身全霊、親を慕い憧れる子狐に生まれ変わって、ナイフを触れただけで血が迸り散るような命の鼓動を直に感じさせてくれる凄い芝居を見せてくれて、感動の連続である。
人間国宝の人間国宝たる至芸の成せる業であろうか。
今回の菊之助は、まさに、その素晴らしい菊五郎のコクのある至芸の継承であり、それに、溌剌とした若さの輝きが加わったというか、とにかく、美しくて感動的な舞台であった。
菊之助は、〈平知盛〉〈いがみの権太〉〈忠信・源九郎狐〉のキャラクターの全く違う三役を、一挙に、通し狂言で演じたわけだが、知盛は義父吉右衛門の、忠信狐は父菊五郎の指導よろしきを得て、権太は役を工夫しながら地で行ったという幸運はあったとしても、女形で華麗な美しい芸を披露することが多い菊之助としては、主役の立役の連続を無難に熟し得たのであるから、大変な快挙である。
『NINAGAWA十二夜』の琵琶姫/獅子丸と、『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』の迦楼奈/シヴァ神しか観ていないが、凄い新作歌舞伎にも意欲的に挑戦しており、二人の人間国宝の父と義父の芸の継承で、益々、芸の深化と芸域の広がりに邁進できるのであるから、楽しみである。
さて、道行初音旅は、次のようなストーリーだが、吉野桜であろうか、春爛漫に咲き乱れる春をバックにして踊り舞う静御前(時蔵)と菊之助の忠信の華麗な舞台が魅せる。
都に居た静御前は、義経恋しさに、義経が吉野にいるとの噂を聞き、吉野に向うのだが、義経より預かった初音の鼓を打っていると、佐藤忠信があらわれた。 忠信が義経より賜った鎧を出して敬うと、静はその上に義経の顔によそえて鼓を置いた。この鎧を賜ったのは、兄継信の忠勤であると言って、継信が屋島の戦いで能登守教経と戦って討死したことを物語る。静と忠信主従は芦原峠を越え、吉野山へ向かう。
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さて、河連法眼館の場の狐の段は、次の通り。
法眼と飛鳥のやりとりと義経登場の冒頭部分の後、
佐藤忠信が、河連法眼の館を訪ねてくる。義経は託した静御前の安否を尋ねるが忠信には憶えがない。静と忠信が到着したのだが、忠信は姿を消していない。不思議に思った静は、道中、初音の鼓を打つと必ず忠信が姿を現したことを思い出したので、義経はそれを手掛かりに真相の究明を命じる。静が鼓を打つと忠信が現れ、鼓の音色に聞き入り、鼓の前にひれ伏す。静が、刀を向けて迫ると、忠信は、桓武天皇の治世、雨乞いのために大和の国で千年の命を保ち、神通力を得た牝狐と牡狐の皮を用いて初音の鼓を作ったが、自分は、その鼓の子で、狐であると語った。狐は、鼓が義経の手に渡り静に託されたので、忠信の姿を借りて静警護で親に付き添うことができて幸せだったが、迷惑がかかるので、想いを断ち切り、義経から譲られた「源九郎義経」の名前を、自分の名前「源九郎義経」とすると言い残し、鼓に名残を惜しんで姿を消す。奥でその様子を聞いた義経は、生後間もなくの父親との死別、親同然の兄との不和という自身の肉親との縁の薄さに比べ、狐の愛情の深さに心動かされ、再び姿を現した狐に、静の供をした褒美として鼓を与える。喜んだ狐は横川覚範の夜襲を知らせ、神通力で援護すると約束し、鼓を持って飛ぶように姿をくらませる。
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独特の狐言葉、手足の仕草を微妙に変えて狐を演じる菊之助の細やかな芸の巧みさ、軽やかでアクロバティックな身のこなし、転げ回って小鼓にじゃれつく天真爛漫な子狐、
凜々しくて風格のある東北侍の忠信の貫禄から、一変した狐忠信と子狐の狐言葉は、柔らかい女方の子供言葉
これこそ、感激し続けた菊五郎の至芸そのものであると思った。
静御前 時蔵(道行) 梅枝(河連法眼館)
義経 鴈治郎
河連法眼 権十郎
法眼妻飛鳥 萬次郎