熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立文楽劇場・・・竹本織太夫襲名披露公演「摂州合邦辻」「平家女護島」ほか

2018年01月23日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   大阪の国立文楽劇場は、八代目竹本綱太夫 五十回忌追善および豊竹咲甫太夫改め 六代目竹本織太夫 襲名披露公演で賑わっている。
   東京でも、来月同じ公演が行われるのだが、私は、文楽の本拠地であるこの国立文楽劇場で、大阪弁が飛び交う雰囲気の中で鑑賞したくて、襲名や特別な文楽公演の時には、大阪に来ることにしている。

   来月東京では、「口上」と同時に、「花競四季寿」と、追善/襲名披露 狂言「摂州合邦辻 合邦住家の段」が、上演されるのだが、この大阪では、抱き合わせにして、「平家女護島 鬼界が島の段」が、上演されており、この近松作品を是非聴きたい観たいと思った。
   この「平家女護島」については、昨年2月に国立劇場で、「六波羅の段」「鬼界が島の段」「舟路の道行より敷名の浦の段」が上演されて間もないのだが、思い出深いのは、この大阪で、初代玉男の最後の俊寛を観たのである。
  尤も、体調がすぐれなかったのであろう、その時は、別れを惜しむ康頼、成経、千鳥を乗せて船が島を離れた後、俊寛が、岩によじ登って、松の木にしがみついて、茫然と立ち尽くして船を見送るラストシーンは、当時の玉女が、代役を務めた。

   この文楽の「平家女護島」については、先の文楽公演や歌舞伎の「平家女護島」の記事で、作品によって、俊寛の人間像の描写が違っていて興味深く、菊池寛や芥川龍之介の「俊寛」などについて書くなどかなり私見を述べたので、蛇足は避けるが、平家物語の「足摺」をシンプルに取り入れた能「俊寛」と比べると、近松門左衛門の創作が非常に興味深い。

   特に、鬼界ヶ島の海女で成経の妻千鳥と言う架空の女性を紡ぎ出して、清盛の強引なセクハラで、最愛の妻への思いを断ち切られた人間俊寛の義侠心と愛への絶望を描いて感動的である。
   この舞台では、都での成経との生活を夢見た喜びもつかの間、同行を許されなくなった千鳥の悲嘆のクドキが秀逸で、人間国宝簑助が、哀調を帯びた浄瑠璃と三味線の音に乗って、流れるように悲痛の絶頂を歌い上げながらクドキを舞う千鳥の姿は、感動の一語に尽きる。
   今回の俊寛僧都を遣ったのは、玉男で、先代譲りの剛直な芸を継承して、悲哀と愛情綯い交ぜの繊細で優しい人間俊寛を垣間見せて実に上手い。
   呂太夫の義太夫と清介の三味線が、舞台の素晴らしさをいや増して素晴らしい。

   口上は、咲太夫と織太夫と二人だけの雛壇であったが、文楽の場合には、襲名する本人は口上を述べないので、咲太夫が、八代目竹本綱太夫の偉大な業績や五十回忌追善の大切な意義や、芸の精進著しい豊竹咲甫太夫が六代目竹本織太夫を襲名して披露公演が実現できた喜びなどを語った。
   
   「合邦庵室の段」は、俊徳丸伝説に基づいた「摂州合邦辻」の最終段で、俊徳丸を思う玉手御前の嘘と不倫の恋がテーマとなっている凄まじい舞台のハッピーエンドである。
   同じ俊徳丸伝説でも、能「弱法師」とは、随分違った、実に、人間臭さいドロドロした物語だが、人間の強さと同時に、弱さ悲しさを抉り出していて凄い舞台である。

   玉手御前は、後継者争いで、命を狙われている次男の俊徳丸を救うために、毒酒を飲ませて醜くして後継を不可能にして、同時に、次郎丸の陰謀の発覚を隠して、義理の二人の息子を救うのだが、
   俊徳丸の病を治すために、義子俊徳丸に邪恋を仕掛けて、激しいモーションをかけて、父親合邦を怒らせて殺害させようと芝居を打つ。最愛の父の手で殺させて、寅ずくしの奇跡的な自分の生き血を俊徳丸に飲ませる。と言う歌舞伎常套の物語を綯い交ぜにした面白い物語である。

   俊徳丸(一輔)と浅香姫(簑二郎)の若い二人の中に割って入って俊徳丸に邪恋を仕掛けて激しく迫り、がらりと舞台が代わって、終幕の瀕死の状態で真実を打ち明けて苦悶する玉手御前を、勘十郎が実に巧みに演じていて素晴らしい。
   義理と人間の道一点張りの合邦を和生が、その女房を勘壽が、受けて立ち、凄い舞台を展開している。
   父は、人間の道を外れて息子に恋焦がれる娘を許せないが、母親は、「二十そこらの色盛り、歳よった左衛門様より、美しいお若衆様なら、惚れいでなんとするものぞ。」と言うあたりは、モダンで面白いのだが、とにかく、盛沢山の内容の詰まった芝居なので面白い。

   咲太夫と清治が、切場を演じた後、終幕の劇的な舞台を、襲名なった織太夫が絶好調で語りきり、燕三が、感動的な三味線で応える。
   日本の古典芸能の浄瑠璃の凄さ素晴らしさを実感させてくれる素晴らしい襲名披露公演であった。

   ロビーには、八代目竹本綱太夫 五十回忌と六代目竹本織太夫襲名祝いの場が設けられていた。
   毎年のにらみ鯛の飾りつけも同じであり、劇場全体が、東京の国立小劇場とはちょっと違った雰囲気があって面白い。
   
   
   
   
   
   
   
コメント
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