熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

イアン・ブレマ―の世界10大リスク:保護主義

2018年01月08日 | 政治・経済・社会
   昨日の日経朝刊の「パンゲアの扉 つながる世界」で、”保護主義の誤謬 相互依存の網は切れず”が掲載されていた。
   ブラジルの製薬会社が、米国では専門技術を持つ外国人用のHIBビザ取得が困難になったので、米国を避けてカナダのトロントに研究所を開所したこと、会計会社EYが、BRIZITを嫌って、スタッフをロンドンからフランクフルトやダブリンに移す予定だとかを紹介しながら、貿易赤字の削減、産業の保護、雇用確保などのために、多くの先進各国は、内向きになって、保護主義が台頭し始めている。
   しかし、グローバル化の進展で、国境を越えたヒト・モノ・カネの移動が活発になり、相互依存は網の目の様に張り巡らされおり、保護主義では立ち行かなくなり、自由貿易こそ、今後の人類の目指すべき方向である。と説いている。
   トランプの常軌を逸したアメリカファーストの保護主義が打ち上げられて以降、戦々恐々となった他の先進国の一般的な心境であろう。

   さて、イアン・ブレマーのユーラシアグループが発表した2018年の10大リスクのNO.8に、Protectionism 2.0 保護主義2.0が挙げられている。
   ポピュリストの圧力で、国家資本主義の拡大や進行中の地政学的リセッションが、寝ていた保護主義を起こしてしまった。先進国の反体制運動の台頭が、為政者をして、グローバル経済競争に対して更なる重商主義的アプローチを、そして 失われた雇用の回復を強いた。壁は、どんどん、高くなって行く。と言うのである。

   しかし、ブレマーの説くリスクは、一般論ではなく、特定分野のリスクである。
   まず、論じているのは、中国の戦略的な外国資産の積極的な取得買収の拡大増加。
   今日のGゼロとアメリカのリーダーシップの退潮下においては、このような急速な変化をマネッジするために、新しいゲームのルールを書く、あるいは、書き得るリーダーがいないので、益々速度を増しスケールが大きくなって行く国際的な財産や知的資産の移転が、深刻な政治的な対応の必要を迫ってくる。と言うのである。
   急速な経済力の拡大によって、世界の資産を手あたり次第に買収して覇権を確立しようとする中国の動向は、アメリカにとっては、正に、脅威であり、
   その中国が先鞭をつける前に、環太平洋地域の国際貿易ルールを確立しようと必死になったオバマの推進したTPPを、トランプがぶっ壊してしまったのだが、良否は兎も角、バキューム化するアジアの貿易秩序の確立が、遠のいたのは事実であろう。

   知的財産や国際競争の根幹となる重要なコンポーネント関連技術などに関わる、デジタル経済やイノベーション集約的産業に対する国家介入が強化される。
   保護貿易政策も、かってのような関税やクオーター制度とは違って、WTOを迂回するのではなく、企業への財政援助、補助金、現地調達比率などの非関税障壁を適応するようになって、現行のグローバル貿易ルールをアップデートし強化しながら集団的無力化に頼ろうとする。と言う。

   保護主義の新しい形態は、自国にとって政治的に敵対する相手国に対して取られる政策なので、益々、とげとげしく厳しくなって行く。
   直接投資が、問題の国からであったり、その投資が、国家のチャンピオン企業であったり国家にとって国益を犯すテクノロジーであったりすると、益々、政治問題を引き起こす。
   欧米対中国あるいはロシアともなれば、当然、疑惑の対象となる。

   以上のような状況が、2018年の貿易リスクとなる。
   まず、第1に、
   新しいグローバル貿易ルールは、管理者なしに、共通規範なしに、書かれるので、保護主義が台頭した時に、チェックしたりバランスを取る手段がない。
   第2に、
   この新しい保護主義は、進行中の地域自由貿易協定と共存しながら作用するので、グローバル貿易規制環境が、益々、複雑化し、矛盾や相反する。複雑化するサプライチェーンの適応、データフローや可視不能の事案など不測の事態が発生し困難とコストが増加する。
   第3に、  
   保護主義は、列強間の憤りを引き起こして、色々な外交問題を惹起することとなる。
   と、指摘している。

   保護主義の台頭が、2018年の経済情勢を、後ろ向きに複雑化して行くと言う論旨ながら、
   いずれにしても、イアン・ブレマーが問題としているのは、トランプが取っているアメリカファーストの保護主義貿易ではなく、アメリカにとって安全保障上重要な国家戦略的な保護主義で、むしろ、戦略的に重要なアメリカのチャンピオン企業や最先端イノベーション集約的テクノロジーや知的財産など国益に取って重要な国家財産の保護に対する保護主義を論じている。
   ブレマーは、コメントを避けているが、アメリカが、この保護主義を取ることが、アメリカにとっては、国際競争上、国家安全上、必須と考えられるならば、この保護主義は排撃すべきものではなく、むしろ、アメリカが、どのようにして保護政策を実施して、国益を守るかと言うこと、
   これに、失敗すると、アメリカ自身が危うくなるので、本来とは違った、逆の保護主義戦略の追求が求められることとなる。

   したがって、アメリカとしては、むしろ、トランプ流の保護主義は、百害あって一利なしだと言うことであったとしても、安全保障上あるいは国益維持上守るべき保護政策は、それなりに慎重を期して維持すべきと言うことであろう。

   さて、日本はどうであろうか。
   円安になって、トヨタの輸出が増えると喜び、貿易収支が上向くと経済浮揚だと喜ぶが、果たして、それだけで良いのであろうか。
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