Yahoo!などのトピックスで、イタリアの高級ファッションブランド・ヴァレンティノが「帯をハイヒールで踏みつけている」という動画や広告について、取り上げられている。
J-castニュース:ヴァレンティノ「ハイヒールで着物の帯踏む」広告が物議 写真・動画が削除…ブランド側は「確認中」
取り上げられた理由の一つに、モデル起用されているのがキムタクの二女であったということも大きいだろう、と想像している。
何と言っても、ご両親ともに芸能界で活躍をしている「二世タレント」で、デビューそのものも華々しいものだったし、メディアも別格扱いをしていたからだ。
彼女のモデル(「アンバサダー」という広告塔)起用については、以前から「(若すぎて)ブランドに合わないのでは?」という指摘がされているようだが、ヴァレンティノのショーに限らずパリやミラノに登場するモデルの中には、10代の少女がいる事を考えれば、「若いから」というのは理由にはならないと思う。
ただショーのステージに立った時、10代のモデルであってもその迫力や堂々たるポージング、歩き方などはキムタクのお嬢さんには無いものである、ということは確かだだろう。
それより今回問題になったのは、日本の伝統衣装である着物の帯をハイヒールで踏みつけている、という点だ。
既に削除されたらしい画像が、リンク先の記事にはありその写真を見てみると、ハッキリ言って広告として「いただけない」と感じる。
少なくとも、イタリアの高級ブランド・ヴァレンティノらしからぬ、写真だという印象がある。
撮影イメージとして、泉鏡花の「草迷宮」を映画化した寺山修司の作品を基にイメージしている、ということのようだが、とすればやはり起用するモデルはキムタクのお嬢さんではなかったはずだ。
泉鏡花や寺山修司の世界観は、もっと妖艶で人を惑わすような、世界観を表現が必要だからだ。
決定的なのは、背景がとても安っぽい。
背景に映り込んでいる、コンクリート造の支柱の数々。
一般住宅の一部も見える。
これらの背景に映り込んでいる風景を見ると、泉鏡花や寺山修司の世界観を理解して、ロケーションをしているとは思えないのだ。
あくまでも個人的なイメージだが、ロケーションをするのであれば、先日、国の有形文化財に登録されるのでは?話題になった、神戸の「廃墟の女王」と呼ばれる旧摩耶観光ホテルのような場所だと思うのだ。
そんな安っぽい背景に、帯をランウェイに見立てて、モデルを立たせている。
これでは帯そのものの美しさも伝わらないし、帯を使う意味も分からない。
もちろん、帯の上にハイヒールで立つなど、日本の服飾文化に対する敬意の無さの表れだと受け止められても、仕方ないだろう。
記事中に寺山修司が制作した映画「草迷路」の中に、帯の上を歩くというシーンがあるとされているが、歩いている場面でハイヒールを履いているのだろうか?
作品を観ていないので何とも言えないのだが、裸足で歩いているのでは?
映画の一部分を切り取り、「多様な価値観を表現したかった」と言われても、「(日本の美の集約の一つである着物の帯を)ぞんざいな扱いをした」と感じさせるだけで、広告表現としては失敗だったのでは?という気がしている。
そして、今日になりヴァレンティノ側がお詫びを発表している。
Huffpost:ヴァレンティノが物議醸した”帯の上を歩く”広告でお詫び。「日本文化を冒涜するような意図は全くなく」
残念ながら、このお詫びでヴァレンティノ側は「日本文化も日本の手工芸も知らない。泉鏡花も寺山修司の世界観も知らない。ただ売上が良い市場であるという認識しかしていなかった。」ということだけではなく、代理店が提案してきたコトに対して、自分たちに決定権があり、それがヴァレンティノの名前とブランド力に影響を与える、というマーケティングの基本を理解していない、ということを露呈させただけのような気がする。
私が初めて広告媒体の制作に携わった時、担当をしてくださったカメラマンの方から言われた言葉がある。
「広告は虚構の世界だからこそ、細部はリアルでなくてはいけない。嘘の世界であっても受け手には、豊かなイマジネーションを与えるリアルが必要だからだ」
この広告を制作した側は、果たしてこのような考えがあったのだろうか?
何となくだが、キムタクのお嬢さんを起用する、というところで思考が停止し、本当のクリエイティブとは何か?という、一番重要な点を忘れてしまっていたような気がしている。