≪最終一番勝負 第71譜 指始図≫ 7六歩まで
指し手 ▲7九香
[月の娘と森の娘~約束のキス]
月の娘は勇気をふりしぼります。
「わたしは空のむこうへ行きたい。だからわたしは、わたしを砕く」
森の娘も覚悟を決めました。
「わたしは空のむこうへ行きたい。だからわたしは、わたしを引き裂く」
「わたしのスキはほんもの!!」
「鏡」は一瞬にして砕け散りました。
そして見つけたのです。そのむこうに立つともだちを。
娘たちはゆっくりと歩みよると、ただ言葉もなく、約束のキスをともだちに与えあいました。
こうして約束のキスをはたしたふたりは、スキの星に導かれ、断絶をこえて、旅立ちました。
(アニメ『ユリ熊嵐』より)
<第71譜 17番目の扉を開く‼>
≪最終一番勝負 第70譜 指始図≫
我々終盤探検隊は、ついに前に進むための決断をした。
ここで7七歩なら、同歩成、7八歩、7六歩の「千日手ループ」の継続となるが、ここでそのループを崩す手を指したのである。
ついに、閉じられていた “時” が動きだした。
我々が選んだ手は、▲7九香 であった。
吉祥B図
【00】7七歩 → 同歩成で「吉祥A図」 → 千日手ループ
【1】3三歩成 (後手良し) → 先手良し
【2】3三香 (後手良し) → 後手良し
【3】8九香 (先手良し) → 先手良し
【4】2五香 (形勢不明) → 先手良し
【5】5四歩 (先手良し) → 先手良し
【6】2六香 (先手良し) → 先手良し
【7】2六飛 (先手良し) → 先手良し
【8】2五飛 (先手良し) → 先手良し
【9】3七桂 (先手良し) → 先手良し
【10】3八香 (後手良し) → 先手良し
【11】8一飛 (形勢不明) → 互角(形勢不明)
【12】1五歩 (後手良し) → 先手良し
【13】9八金 (後手良し) → 先手良し
【14】6五歩 (後手良し) → 先手良し
【15】3七飛 (先手良し) → 先手良し
(※ (灰色字) は「吉祥A図」の調査結果)
≪指始図≫=「吉祥B図」の調査結果(最新ソフトを使った戦後の調査)はこのような結果になっている。
しかし我々終盤探検隊が選んだ手は、この16通りの手の群の中にない、17番目の手
――――【16】7九香であった。
今回の報告は、なぜ我々がこの「最終一番勝負」のこの場面で、多くの候補手が考えられる中で、この【16】7九香を選んだのか、ということについて以下に述べていく。
吉祥B図(再掲)
我々は“相棒”として、「激指14」とともに闘っていたが、その「激指14」のこの図での評価は
1位【00】7七歩( 0 )、2位【3】8九香(-81)、【4】2五香(-139)、であった(カッコ内は評価値)
こうした評価は、調べる都度にPCの状態などの影響かで違う結果を出してくるのだが、おおむねこのような結果になっていた。つまり、最高値が【00】7七歩( 0 )で、後の手はマイナスの評価値―――すなわち後手有利―――と、「激指14」は見ているのである。
にもかかわらず、我々はこの図(吉祥B図)は、「ほんとうは先手良しなのだ」と考えていた。
というのは、それまでもずっと「激指」はこの戦いでマイナス評価(-600くらい)を示してきても、それでも頑張って調べていくと先手が良くなる手順が発見されてきたからである。
なぜそういうことが起こるのか。その理由をこれから述べる。
この図の状況は次のような状況である。
〔1〕後手玉よりも先手玉が薄く、しかし大駒はすべて先手側にある。後手の金銀はすべて使って盤上にある。つまり、後手玉のほうが堅い。
〔2〕後手には歩以外の駒が「桂」のみ。一方、先手は歩以外の駒は「飛金香」と三種類。つまり、先手のほうが手の選択肢が広い。
一般に、「大駒四枚(+金銀一枚)」と「金銀七枚」では、だいたいにおいて「金銀七枚」のほうが良いとされている。そういうケースの方が多いということだ。
しかしこの場合は、後手がその「金銀七枚」をすべて手離しているということと、先手は持駒を三種類(飛金香)持っているということで、少なくとも「互角」の均衡となっているのである。
そしてこの図の場合、正しくは「先手良し」なのだ。そのことは、「最新ソフト」を使った上の調査研究結果で証明されている。上の「調査結果」にある通り、「先手の勝ち筋」が、(戦後だが)いくつも確認されている。
実戦中は、我々は「激指」しか使えなかったのであるが、長く戦っている間に、こうした「激指」のクセのようなところも気づいてきていた。
一つは、「激指」は、玉の堅さを過大に評価するクセがある、ということだ。〔1〕の条件から、この図は、うすい先手玉を見て、後手にいくらか過大な評価をしていると我々は気づいていたのである。であるから、その「激指14」がゼロに近い「互角」の評価をしているなら、おそらくは最善手を探せば、先手良しになる道があるはずだ、と。それが、長い間この「激指14」とつきあってきたことで得られた我々の “感覚” だった。
もう一つ、〔2〕の条件から、「激指」もまだ発見できていない好手順が隠れている可能性が、先手側により大きい―――ということである。持駒が先手のほうが多いからだ。特に飛車を手に持っているのは大きく、先手側にはより多くの多彩な攻めのバリエーションが考えられる。
歩以外の駒で、先手には三種類(飛金香)の持駒がある。対して後手は一種類(桂)である。
ということで、後手の指し手はわかりやすいが、先手の指し手は、組み合わせが多い分だけ、発見することが難しい。
それは、先手には「新発見の可能性が高い」ということになる。つまり、「激指14」がまだ発見していない手の組み合わせが、たくさんの可能性として、先手の側に残っているということになるのである。「激指14」はその手順を発見できていないから、この図を後手良し(最善は千日手)としているが、実際には「勝ち筋」が先手に存在するはずなのだ、とわれわれは見ていた。
だからきっと、厳密には評価値+600くらいで先手良しなのではないか。―――我々は、そう考えていたのである。
「激指14」はまだその手順を、発見できていないだけなのだ。
だから、この「千日手ループ」は打開できるはずだし、この図はすでに「先手良し」なのだと、我々は確信していたのである(そのことを証明するためにもこの「吉祥A、B図」の戦後調査を徹底的に行ったのである)
しかし、問題は、具体的なその「勝ち筋」を探さなければならない、ということである。それができなければ、負けてしまう。
実戦中、「激指14」を相棒としている我々には、確かな「先手勝ちのルート」は見えてはいなかった。
どの手を選ぶか。「激指14」では読み切れないとなれば、ある程度は、“カン” に頼って、進めるしかない。「どの手を信じるか」というような気持ちの問題にもなってくる。
さて、「激指14」で、もう一度あらためてこの「吉祥B図」の評価を調べてみよう。
すると、次のようになった(考慮時間は1時間)
吉祥B図(再掲)
1.2五香 -60
2.2六香 -90
3.7七歩 -124
4.8九香 -171
5.3七桂 -210
6.7九香 -231
7.2六飛 -291
8.9八金 -412
9.3七香 -513
10.5四歩 -583 (考慮時間は1時間)
「2五香」や「2六香」や「2六飛」に期待していた我々終盤探検隊は、しかしその手の後の「勝ち筋」を見つけられていなかった。
期待していた「2五香」は、7五桂、9八金、6二金、2三香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛、7八とまでは読めたが、その後の見通しが立たなかった。
「激指14」は「8九香」を上位に示しているが、これも7五桂と打たれた後の指し方がわからない。
しかし、我々はここで、この順位表では6位に示している「7九香」に注目したのである。
これは、仮に6六銀としてくるなら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛と攻めて行けば、7九香と打っているので、先に後手玉に“詰めろ”がかかる。この攻めが成功するなら、「7九香」で、行けるのではないか。
「攻め筋」がはっきりしていることが、我々には魅力的だった。
吉祥A図
なお、この「吉祥A図」(=「7八歩、7六歩」の手交換がない形)からの 【16】7九香 は、うまくいかない。
参考図
「吉祥A図」からの 【16】7九香 は、7八歩(図)で先手が不利になるからだ。
この瞬間に3三歩成、同銀、5二角成は、同歩、3一飛のときに、8八角、9八玉、9九角成、同玉、9七香で、先手玉が詰まされてしまう。
7九香基本図
さて、以上のような経緯で、ずいぶんと他の手(【4】2五香など)を調べることにかなりの時間を費やしたあと、それでも結論が出ず、【16】7九香(図)の調査に移ったのだった。
この手は、つまり、「激指14」が我々に教えてくれた手なのである(最初のうちは我々はこの手にまったく注目していなかったのだったが)
そしてこの手は、最新ソフトも上位10個には候補手として出してこない手なのである。我々が、相棒として「激指」を使っていたからこそ、指すことのできた手なのであった。
では、「吉祥B図」からの【16】7九香 で、先手は勝てそうなのか?
まず、[た]6六銀 に対して先手が勝てるのか、それがまず確かめたいことであった。
研究7九香図01
[た]6六銀(図)に対して、3三歩成、同銀、5二角成と攻めてゆくのが、この 【16】7九香 の狙い。
角を後手に渡しても、この場合は後手7九角(先手玉詰み)の手がない――というのが、7九香の効果である(ただし、8八角と打たれる手は残る)
研究7九香図02
この図は、前図から3三歩成、同銀、5二角成(図)と進めたところ(3三歩成を同桂ならそれでも5二角成で先手良し)
ここで後手は7五桂と打つ(単に5二同歩は3一飛で先手勝勢)
以下、9八金、5二歩、3一飛(次の図)
研究7九香図03
3一飛(図)と打って、後手玉に“詰めろ”が掛かった。
先手の攻めが成功しているように見える。1四歩は2一飛成、1三玉、3五金で先手優勢。4二銀左も、2一飛成、3三玉、3五金で先手勝ち(7九香と打っている効果でここで後手7九角がない)
しかし、3四銀(3三からの脱出路を開く)、4一竜に、この場合は、そこで8七と、同金、同桂成、同玉、4二金打と粘る手順があるのだ(次の図)
研究7九香図04
これが、後手の唯一の粘れる順だ(後手はこの金を手に入れるために角を取る前に7五桂を利かせたのである)
図以下、2一飛成、3三玉、7一竜、6二銀右、3一竜左、4四玉となって―――(次の図)
研究7九香図05
さあ、どっちが良いのか。
「激指14」評価値は -116 。最新ソフトでのこの図の評価も「互角」で、この図からは6五金、5七角が予想されるが、形勢不明というしかないようだ。
少なくとも、「先手良し」とは言い切れない変化であることは、わかった。実際、こうなるなら、この変化は選びたくない(この後手玉は寄せにくい。我々ははっきりした先手良しの道を見つけたいのだ)
しかし、終盤探検隊は、今の手順に、まだ工夫する余地があると気づいたのだった。
研究7九香図06
戻って、[た]6六銀 に対し、7七歩(図)とするのが、その “工夫” である。7七同歩成に、そこから「3三歩成、同銀、5二角成」と攻めて行く。
つまり、攻める前に「7七歩、同歩成」の手交換を入れておくのである。
7七同歩成、3三歩成、同銀、5二角成の後は、7五桂、9八金、5二歩、3一飛、3四銀、4一竜と、同じ手順で進む(次の図)
研究7九香図07
8七と、同金、同桂成、同玉、4二金と、まったく同じ手順で進む。
以下2一飛成、3三玉、7一竜(次の図)
研究7九香図08(7一竜図)
ここで、〈a〉6二銀右に対して、上の変化では3一竜左として、4四玉で「互角」の図になったのだったが、ここでは〈a〉6二銀右に対して7八竜があるのが、上の場合との違いとなる。この手を指すための、最初の “工夫” であった。
そこで7六歩でまずそうにも見えるが、4八竜とまわってみると――(次の図)
研究7九香図09
ここで「激指14」評価値は -48 。「互角」である。
しかし我々は調査を進め、この図になってみると、どうやら「先手良し」になっているのではないか、と考えたのであった。
この図で良いなら、上下から竜で攻めて後手玉を捕まえやすいので、大歓迎だ。
ここで「激指14」は、5四角を最善手として提示する。
その手には、6五歩、同角、9七玉とし、以下7七歩成、同香、同銀成と進む(次の図)
研究7九香図10
ここで2通りの指し方があって、いずれも先手が勝ちになる。一つは2五桂と打つ手で、同銀、3七竜で、「王手成銀取り」を掛けて勝とうというもの。
もう一つの手は7九桂である。この手は、一見、9五歩で後手ペースと見えるのだが―――
そこでなんと、8四馬があって先手勝ちになる。8四同歩に、2四金(次の図)
研究7九香図11
2四金(図)で、後手玉が詰んだ。2四同玉なら3六桂から“詰み”(3六桂を打てるよう後手の角を5四から6五に移動させた)
そして2四同歩には、2五桂、同銀、2三金以下、“詰み”である。
研究7九香図08(再掲 7一竜図)
「7一竜図」に戻って、ここで後手の手番。〈a〉6二銀右は、7八竜以下先手良しとわかった。
他に後手の有力手は次のような手がある。〈b〉6二銀左、〈c〉7八歩、〈d〉6九角である。
一つずつつぶして、この図が「先手良し」であることを確認しておこう。
研究7九香図12
〈b〉6二銀左(図)の場合。これには3一竜左とする(この場合、後手4四玉には4二竜と金が取れるのが大きい)
そこで後手7八歩。これは油断のならない手で、同香は、7七歩、同香、6九角、7八歩、7六歩、同香、7七歩で、後手良しになる。
7八歩には、4五歩が正着である(次の図)
研究7九香図13
4五同銀は、3五金、4四歩、3六桂、同銀、8四馬で、先手勝ち。
7九歩成なら、2二竜左、2四玉、2六金で先手勝ち。
そして4四歩には、4六桂で、これも先手勝勢となる。
よって後手はここで5四角と打つ。しかしそれも、7六歩、4五角、4六金と進んで―――(次の図)
研究7九香図14
先手勝勢である。7九歩成なら、4五金、同銀のあと、2二角~6六角成がある。また4四玉には4二竜がある。
したがってここは6七角成とすることになるが、3六桂がピッタリの寄せである。
研究7九香図15
〈c〉7八歩(図)という手もある。
油断のならない手で、同香 なら、後手ペースの戦いになる。すなわち、7八同香、6二銀左、3一竜左、7七歩(次の図)
研究7九香図16
7七同香に、6九角、7八歩、7六歩、同香、7七歩となって、後手良し。
というわけで、〈c〉7八歩には、銀を取る 7三竜 が正しい応手になる。以下、7九歩成、同竜と進んで次の図となる。
研究7九香図17
ここで(イ)5八金なら4六銀と打って(次に3五歩が狙い)先手良し。6七角(3五歩に4五銀のつもり)には、4五桂、同銀、3五金で、先手が勝てる。
また(ロ)7六歩には、7八歩と受けておく。
(ハ)6五角以下を見ておく。7六歩、同桂、3六桂、4一金(次の図)
研究7九香図18
3六桂の“詰めろ”に、4一金(図)が妙手で、これを同竜とすると、6八桂成で形勢を逆転されてしまう。
4一金には、2二銀、4二玉、7一馬とするのが落ち着いた寄せ方となる。4一竜以下の “詰めろ” である。
4四歩なら4三歩、同玉、4一竜、4二香、6四金で、“寄り”
他に受けるとすれば3一香だが、それには5一金が決め手となる(次の図)
研究7九香図19
5一同玉に、3一銀成で、後手玉は “必至”
4四歩は、4一金、4三玉、6四金が“詰めろ角取り”で、先手勝ち。
研究7九香図20
4番目の候補手〈d〉6九角(図)
これには9七玉と逃げておく(9八玉もあるが後で上部に逃げる手段も考慮して9七がベストの選択)
9七玉に9五歩が気になるところだが、その手には4六金と打って、3五歩の攻め(詰めろ)を狙って先手良し。
なので、6二銀右とし、3一竜、4四玉(代えて9五歩は4五歩で先手良し)と進む。
そこで8五歩が好手となる(次の図)
研究7九香図21
先ほど6九角に9八ではなく9七玉とした手を生かす手がこの8五歩(図)である。
(1)7八歩なら、8四歩、7九歩成、8三歩成(6六銀の取りになっている)、7五歩、8六玉と、上部へ脱出して先手勝勢となる(この変化を見越して6九角に9七玉を選んだ)
他に、(2)7五金と、(3)7六歩が考えられる。
研究7九香図22
(2)7五金(図)は、同香で金を取らせる代わりに、後手7八角成と先手玉に迫るがことができる。
7五同香、7八角成に、ここは先手、しっかり8八金と受ける。以下、7九玉、7八金打、6九馬、7二香成、8四歩、同馬、6五歩、6二成香(次の図)
研究7九香図23
7六桂、7七金左、6八桂成、6六金、7八馬、8七銀、7九馬、8八銀(次の図)
研究7九香図24
先手勝勢になった。
研究7九香図25
(3)7六歩(図)はどうなるか。
8四歩と金を取るのは、7七歩成、8六玉、5八角成で後手ペース。
したがってここは、7八歩と受けるのが正着。以下7七歩成、同歩、7五金に、6七歩の手がある。
さらに4五玉、6六歩、8五金、7八桂と進む(次の図)
研究7九香図26
5八角成、6五歩、7五歩、9四馬、4六玉、8五馬、同馬、4八銀(次の図)
研究7九香図27
先手勝勢。
研究7九香図08(再掲 7一竜図)
以上の調査から、この「7一竜図」はどうやら先手良しということが確認できた。
研究7九香図01(再掲 6六銀図)
ということで、[た]6六銀(図)は、7七歩、同歩成、3三歩成、同銀、5二角成と指せば、先手が勝てるという見通しができた。
これを確認したので、我々(終盤探検隊)は、活気づいたのであった。
「【16】7九香 で行けるのではないか」と。
研究7九香図28(7五桂図)
次に気になる手が、【16】7九香 に、[ち]7五桂(図)と桂馬を打つ手であった。
この手には7七歩、同歩成、同香と応じるのが最善のようで、「激指」がそれを示していた。
以下7六歩、同香、同桂、7七歩(次の図)
研究7九香図29
ここまで進めてみると、「激指14」の評価値はプラス(先手寄り)に転じている。
この図で、6七桂成、7六歩、7七桂成なら、3七飛がある。
したがって、この図では6八桂成とすることになりそうだが、そこで7六歩と歩を進め、また桂取り。
6七桂成と逃げれば、先手玉がその瞬間安全になり、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、はっきり先手優勢になる。
よって後手はこの瞬間に9五歩と勝負する。同歩なら、6七桂成として、先手が角を切ってきたときに、9六歩、同玉、6三角のような攻めで勝負できるという意味だ。
なので先手は9五歩に、7五歩と桂をはずす。
そこで7六歩がしつこい攻め。
先手はここで攻めに転じる。いま入手したばかりの桂を3三桂と打ちこむ(次の図)
研究7九香図30
この桂は取れない。取ると先手ペースの戦いになる。
後手としてはここで7七歩成としたいが、2一桂成、同玉、3三桂、同銀に、5二角成とした手が、"詰めろ逃れの詰めろ"になっていて先手勝ちになる(5二に成った角が9六まで利いている)
“詰めろ以上の攻め” で先手玉に攻めらなければいけない後手は、9六歩、同玉、9五香と決め、8七玉、6七成桂と迫ってくる。
以下、7六玉、6六成桂、8七玉(次の図)
研究7九香図31
7六歩、9五香、同金と進む。そこで9六歩などでは7七歩成、9七玉、7六成桂で先手負けになる。
7八香とここを受けるのが正しい応手。そこで後手8四香なら、同馬と取って、同銀に、2一桂成、同玉、3三桂、同銀、同歩成で、先手勝ち。
7八香と打って、どうやら後手の攻めが切れてきた。
苦しい後手は、先手7八香に、7七歩成、同香、7六歩、同香と、いつでも7六成桂と取れる状態にしておく。
そこで攻めを続けるなら8四香だが、こんどは7八玉と逃げられて足らない。よって、後手はここで3三銀、同歩成、同玉と桂をはずしつつ、持駒を増やす。複雑にして、“アヤ”を求める指し方だが‥
しかし4五金と打って―――(次の図)
研究7九香図32
後手によい受けがなく、先手勝勢である。
4二玉としても、5二角成、同玉、6三金(同玉は6一竜以下詰み)、4一玉、5三金で、先手勝ちになる。そのとき後手は「角桂香」と持駒があるが先手玉に詰みはない。
2二桂と受けても、5二角成、同歩、3八飛、3四香、3五歩で、寄っている。
研究7九香図28(再掲 7五桂図)
[ち]7五桂 は、7七歩、同歩成、同香以下、先手良し、と明らかになった。
7九香基本図(再掲)
[た]6六銀、および、[ち]7五桂 はいずれも先手良しになるとわかった。
この事実は、我々に自信を与えた。
【16】7九香(図)の手は、有望なのではないか。この道で勝てるのではないか。我々はそう思ったのだった。
続いて、[つ]9五歩 や [て]6九金 も調査検討してみたが、いずれも、「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めが有効となり、先手良しになる。
この攻めを有効にするために先手は7九香と打ったのであり、それは大成功しているように見える。
この「7九香図」の有力候補手を「激指14」で調べてみよう。
すると、次のように結果が出る(何度も書くがPCのコンディションなどの影響か調べる都度に違う結果になる。よって、それをふまえた上で参考評価として見てほしい)
7九香図(再掲)
1.3一銀 -161(評価値)
2.6六銀 -47
3.7五桂 -38
4.6一歩 -16
5.4四銀引 +128
6.3一桂 +214
7.1四歩 +289
8.6二銀右 +454
9.7四桂 +475
10.9五歩 +491 (考慮時間は1時間)
このように出ている。
つまり、我々の警戒していた「6六銀」、「7五桂」の手(調査ではどちらも先手良しとわかった)よりも「激指14」が評価している手は、「3一銀」だけ。その評価値も「-161」だ。
この「3一銀」を攻略すればよいとわかったので、読みも絞ることができたし、やがて我々はこれを攻略する自信を構築できつつあった。
【16】7九香 を選んだのは、そういう理由である。
≪最終一番勝負 第71譜 指了図≫ 7九香まで
後手の≪ぬし≫(亜空間の主)は、何を指したか。
そして、ほんとうの形勢はどちらが良いのか(我々の▲7九香の選択は正しかったのか)
第72譜につづく
指し手 ▲7九香
[月の娘と森の娘~約束のキス]
月の娘は勇気をふりしぼります。
「わたしは空のむこうへ行きたい。だからわたしは、わたしを砕く」
森の娘も覚悟を決めました。
「わたしは空のむこうへ行きたい。だからわたしは、わたしを引き裂く」
「わたしのスキはほんもの!!」
「鏡」は一瞬にして砕け散りました。
そして見つけたのです。そのむこうに立つともだちを。
娘たちはゆっくりと歩みよると、ただ言葉もなく、約束のキスをともだちに与えあいました。
こうして約束のキスをはたしたふたりは、スキの星に導かれ、断絶をこえて、旅立ちました。
(アニメ『ユリ熊嵐』より)
<第71譜 17番目の扉を開く‼>
≪最終一番勝負 第70譜 指始図≫
我々終盤探検隊は、ついに前に進むための決断をした。
ここで7七歩なら、同歩成、7八歩、7六歩の「千日手ループ」の継続となるが、ここでそのループを崩す手を指したのである。
ついに、閉じられていた “時” が動きだした。
我々が選んだ手は、▲7九香 であった。
吉祥B図
【00】7七歩 → 同歩成で「吉祥A図」 → 千日手ループ
【1】3三歩成 (後手良し) → 先手良し
【2】3三香 (後手良し) → 後手良し
【3】8九香 (先手良し) → 先手良し
【4】2五香 (形勢不明) → 先手良し
【5】5四歩 (先手良し) → 先手良し
【6】2六香 (先手良し) → 先手良し
【7】2六飛 (先手良し) → 先手良し
【8】2五飛 (先手良し) → 先手良し
【9】3七桂 (先手良し) → 先手良し
【10】3八香 (後手良し) → 先手良し
【11】8一飛 (形勢不明) → 互角(形勢不明)
【12】1五歩 (後手良し) → 先手良し
【13】9八金 (後手良し) → 先手良し
【14】6五歩 (後手良し) → 先手良し
【15】3七飛 (先手良し) → 先手良し
(※ (灰色字) は「吉祥A図」の調査結果)
≪指始図≫=「吉祥B図」の調査結果(最新ソフトを使った戦後の調査)はこのような結果になっている。
しかし我々終盤探検隊が選んだ手は、この16通りの手の群の中にない、17番目の手
――――【16】7九香であった。
今回の報告は、なぜ我々がこの「最終一番勝負」のこの場面で、多くの候補手が考えられる中で、この【16】7九香を選んだのか、ということについて以下に述べていく。
吉祥B図(再掲)
我々は“相棒”として、「激指14」とともに闘っていたが、その「激指14」のこの図での評価は
1位【00】7七歩( 0 )、2位【3】8九香(-81)、【4】2五香(-139)、であった(カッコ内は評価値)
こうした評価は、調べる都度にPCの状態などの影響かで違う結果を出してくるのだが、おおむねこのような結果になっていた。つまり、最高値が【00】7七歩( 0 )で、後の手はマイナスの評価値―――すなわち後手有利―――と、「激指14」は見ているのである。
にもかかわらず、我々はこの図(吉祥B図)は、「ほんとうは先手良しなのだ」と考えていた。
というのは、それまでもずっと「激指」はこの戦いでマイナス評価(-600くらい)を示してきても、それでも頑張って調べていくと先手が良くなる手順が発見されてきたからである。
なぜそういうことが起こるのか。その理由をこれから述べる。
この図の状況は次のような状況である。
〔1〕後手玉よりも先手玉が薄く、しかし大駒はすべて先手側にある。後手の金銀はすべて使って盤上にある。つまり、後手玉のほうが堅い。
〔2〕後手には歩以外の駒が「桂」のみ。一方、先手は歩以外の駒は「飛金香」と三種類。つまり、先手のほうが手の選択肢が広い。
一般に、「大駒四枚(+金銀一枚)」と「金銀七枚」では、だいたいにおいて「金銀七枚」のほうが良いとされている。そういうケースの方が多いということだ。
しかしこの場合は、後手がその「金銀七枚」をすべて手離しているということと、先手は持駒を三種類(飛金香)持っているということで、少なくとも「互角」の均衡となっているのである。
そしてこの図の場合、正しくは「先手良し」なのだ。そのことは、「最新ソフト」を使った上の調査研究結果で証明されている。上の「調査結果」にある通り、「先手の勝ち筋」が、(戦後だが)いくつも確認されている。
実戦中は、我々は「激指」しか使えなかったのであるが、長く戦っている間に、こうした「激指」のクセのようなところも気づいてきていた。
一つは、「激指」は、玉の堅さを過大に評価するクセがある、ということだ。〔1〕の条件から、この図は、うすい先手玉を見て、後手にいくらか過大な評価をしていると我々は気づいていたのである。であるから、その「激指14」がゼロに近い「互角」の評価をしているなら、おそらくは最善手を探せば、先手良しになる道があるはずだ、と。それが、長い間この「激指14」とつきあってきたことで得られた我々の “感覚” だった。
もう一つ、〔2〕の条件から、「激指」もまだ発見できていない好手順が隠れている可能性が、先手側により大きい―――ということである。持駒が先手のほうが多いからだ。特に飛車を手に持っているのは大きく、先手側にはより多くの多彩な攻めのバリエーションが考えられる。
歩以外の駒で、先手には三種類(飛金香)の持駒がある。対して後手は一種類(桂)である。
ということで、後手の指し手はわかりやすいが、先手の指し手は、組み合わせが多い分だけ、発見することが難しい。
それは、先手には「新発見の可能性が高い」ということになる。つまり、「激指14」がまだ発見していない手の組み合わせが、たくさんの可能性として、先手の側に残っているということになるのである。「激指14」はその手順を発見できていないから、この図を後手良し(最善は千日手)としているが、実際には「勝ち筋」が先手に存在するはずなのだ、とわれわれは見ていた。
だからきっと、厳密には評価値+600くらいで先手良しなのではないか。―――我々は、そう考えていたのである。
「激指14」はまだその手順を、発見できていないだけなのだ。
だから、この「千日手ループ」は打開できるはずだし、この図はすでに「先手良し」なのだと、我々は確信していたのである(そのことを証明するためにもこの「吉祥A、B図」の戦後調査を徹底的に行ったのである)
しかし、問題は、具体的なその「勝ち筋」を探さなければならない、ということである。それができなければ、負けてしまう。
実戦中、「激指14」を相棒としている我々には、確かな「先手勝ちのルート」は見えてはいなかった。
どの手を選ぶか。「激指14」では読み切れないとなれば、ある程度は、“カン” に頼って、進めるしかない。「どの手を信じるか」というような気持ちの問題にもなってくる。
さて、「激指14」で、もう一度あらためてこの「吉祥B図」の評価を調べてみよう。
すると、次のようになった(考慮時間は1時間)
吉祥B図(再掲)
1.2五香 -60
2.2六香 -90
3.7七歩 -124
4.8九香 -171
5.3七桂 -210
6.7九香 -231
7.2六飛 -291
8.9八金 -412
9.3七香 -513
10.5四歩 -583 (考慮時間は1時間)
「2五香」や「2六香」や「2六飛」に期待していた我々終盤探検隊は、しかしその手の後の「勝ち筋」を見つけられていなかった。
期待していた「2五香」は、7五桂、9八金、6二金、2三香成、同玉、2五飛、2四歩、5五飛、7八とまでは読めたが、その後の見通しが立たなかった。
「激指14」は「8九香」を上位に示しているが、これも7五桂と打たれた後の指し方がわからない。
しかし、我々はここで、この順位表では6位に示している「7九香」に注目したのである。
これは、仮に6六銀としてくるなら、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛と攻めて行けば、7九香と打っているので、先に後手玉に“詰めろ”がかかる。この攻めが成功するなら、「7九香」で、行けるのではないか。
「攻め筋」がはっきりしていることが、我々には魅力的だった。
吉祥A図
なお、この「吉祥A図」(=「7八歩、7六歩」の手交換がない形)からの 【16】7九香 は、うまくいかない。
参考図
「吉祥A図」からの 【16】7九香 は、7八歩(図)で先手が不利になるからだ。
この瞬間に3三歩成、同銀、5二角成は、同歩、3一飛のときに、8八角、9八玉、9九角成、同玉、9七香で、先手玉が詰まされてしまう。
7九香基本図
さて、以上のような経緯で、ずいぶんと他の手(【4】2五香など)を調べることにかなりの時間を費やしたあと、それでも結論が出ず、【16】7九香(図)の調査に移ったのだった。
この手は、つまり、「激指14」が我々に教えてくれた手なのである(最初のうちは我々はこの手にまったく注目していなかったのだったが)
そしてこの手は、最新ソフトも上位10個には候補手として出してこない手なのである。我々が、相棒として「激指」を使っていたからこそ、指すことのできた手なのであった。
では、「吉祥B図」からの【16】7九香 で、先手は勝てそうなのか?
まず、[た]6六銀 に対して先手が勝てるのか、それがまず確かめたいことであった。
研究7九香図01
[た]6六銀(図)に対して、3三歩成、同銀、5二角成と攻めてゆくのが、この 【16】7九香 の狙い。
角を後手に渡しても、この場合は後手7九角(先手玉詰み)の手がない――というのが、7九香の効果である(ただし、8八角と打たれる手は残る)
研究7九香図02
この図は、前図から3三歩成、同銀、5二角成(図)と進めたところ(3三歩成を同桂ならそれでも5二角成で先手良し)
ここで後手は7五桂と打つ(単に5二同歩は3一飛で先手勝勢)
以下、9八金、5二歩、3一飛(次の図)
研究7九香図03
3一飛(図)と打って、後手玉に“詰めろ”が掛かった。
先手の攻めが成功しているように見える。1四歩は2一飛成、1三玉、3五金で先手優勢。4二銀左も、2一飛成、3三玉、3五金で先手勝ち(7九香と打っている効果でここで後手7九角がない)
しかし、3四銀(3三からの脱出路を開く)、4一竜に、この場合は、そこで8七と、同金、同桂成、同玉、4二金打と粘る手順があるのだ(次の図)
研究7九香図04
これが、後手の唯一の粘れる順だ(後手はこの金を手に入れるために角を取る前に7五桂を利かせたのである)
図以下、2一飛成、3三玉、7一竜、6二銀右、3一竜左、4四玉となって―――(次の図)
研究7九香図05
さあ、どっちが良いのか。
「激指14」評価値は -116 。最新ソフトでのこの図の評価も「互角」で、この図からは6五金、5七角が予想されるが、形勢不明というしかないようだ。
少なくとも、「先手良し」とは言い切れない変化であることは、わかった。実際、こうなるなら、この変化は選びたくない(この後手玉は寄せにくい。我々ははっきりした先手良しの道を見つけたいのだ)
しかし、終盤探検隊は、今の手順に、まだ工夫する余地があると気づいたのだった。
研究7九香図06
戻って、[た]6六銀 に対し、7七歩(図)とするのが、その “工夫” である。7七同歩成に、そこから「3三歩成、同銀、5二角成」と攻めて行く。
つまり、攻める前に「7七歩、同歩成」の手交換を入れておくのである。
7七同歩成、3三歩成、同銀、5二角成の後は、7五桂、9八金、5二歩、3一飛、3四銀、4一竜と、同じ手順で進む(次の図)
研究7九香図07
8七と、同金、同桂成、同玉、4二金と、まったく同じ手順で進む。
以下2一飛成、3三玉、7一竜(次の図)
研究7九香図08(7一竜図)
ここで、〈a〉6二銀右に対して、上の変化では3一竜左として、4四玉で「互角」の図になったのだったが、ここでは〈a〉6二銀右に対して7八竜があるのが、上の場合との違いとなる。この手を指すための、最初の “工夫” であった。
そこで7六歩でまずそうにも見えるが、4八竜とまわってみると――(次の図)
研究7九香図09
ここで「激指14」評価値は -48 。「互角」である。
しかし我々は調査を進め、この図になってみると、どうやら「先手良し」になっているのではないか、と考えたのであった。
この図で良いなら、上下から竜で攻めて後手玉を捕まえやすいので、大歓迎だ。
ここで「激指14」は、5四角を最善手として提示する。
その手には、6五歩、同角、9七玉とし、以下7七歩成、同香、同銀成と進む(次の図)
研究7九香図10
ここで2通りの指し方があって、いずれも先手が勝ちになる。一つは2五桂と打つ手で、同銀、3七竜で、「王手成銀取り」を掛けて勝とうというもの。
もう一つの手は7九桂である。この手は、一見、9五歩で後手ペースと見えるのだが―――
そこでなんと、8四馬があって先手勝ちになる。8四同歩に、2四金(次の図)
研究7九香図11
2四金(図)で、後手玉が詰んだ。2四同玉なら3六桂から“詰み”(3六桂を打てるよう後手の角を5四から6五に移動させた)
そして2四同歩には、2五桂、同銀、2三金以下、“詰み”である。
研究7九香図08(再掲 7一竜図)
「7一竜図」に戻って、ここで後手の手番。〈a〉6二銀右は、7八竜以下先手良しとわかった。
他に後手の有力手は次のような手がある。〈b〉6二銀左、〈c〉7八歩、〈d〉6九角である。
一つずつつぶして、この図が「先手良し」であることを確認しておこう。
研究7九香図12
〈b〉6二銀左(図)の場合。これには3一竜左とする(この場合、後手4四玉には4二竜と金が取れるのが大きい)
そこで後手7八歩。これは油断のならない手で、同香は、7七歩、同香、6九角、7八歩、7六歩、同香、7七歩で、後手良しになる。
7八歩には、4五歩が正着である(次の図)
研究7九香図13
4五同銀は、3五金、4四歩、3六桂、同銀、8四馬で、先手勝ち。
7九歩成なら、2二竜左、2四玉、2六金で先手勝ち。
そして4四歩には、4六桂で、これも先手勝勢となる。
よって後手はここで5四角と打つ。しかしそれも、7六歩、4五角、4六金と進んで―――(次の図)
研究7九香図14
先手勝勢である。7九歩成なら、4五金、同銀のあと、2二角~6六角成がある。また4四玉には4二竜がある。
したがってここは6七角成とすることになるが、3六桂がピッタリの寄せである。
研究7九香図15
〈c〉7八歩(図)という手もある。
油断のならない手で、同香 なら、後手ペースの戦いになる。すなわち、7八同香、6二銀左、3一竜左、7七歩(次の図)
研究7九香図16
7七同香に、6九角、7八歩、7六歩、同香、7七歩となって、後手良し。
というわけで、〈c〉7八歩には、銀を取る 7三竜 が正しい応手になる。以下、7九歩成、同竜と進んで次の図となる。
研究7九香図17
ここで(イ)5八金なら4六銀と打って(次に3五歩が狙い)先手良し。6七角(3五歩に4五銀のつもり)には、4五桂、同銀、3五金で、先手が勝てる。
また(ロ)7六歩には、7八歩と受けておく。
(ハ)6五角以下を見ておく。7六歩、同桂、3六桂、4一金(次の図)
研究7九香図18
3六桂の“詰めろ”に、4一金(図)が妙手で、これを同竜とすると、6八桂成で形勢を逆転されてしまう。
4一金には、2二銀、4二玉、7一馬とするのが落ち着いた寄せ方となる。4一竜以下の “詰めろ” である。
4四歩なら4三歩、同玉、4一竜、4二香、6四金で、“寄り”
他に受けるとすれば3一香だが、それには5一金が決め手となる(次の図)
研究7九香図19
5一同玉に、3一銀成で、後手玉は “必至”
4四歩は、4一金、4三玉、6四金が“詰めろ角取り”で、先手勝ち。
研究7九香図20
4番目の候補手〈d〉6九角(図)
これには9七玉と逃げておく(9八玉もあるが後で上部に逃げる手段も考慮して9七がベストの選択)
9七玉に9五歩が気になるところだが、その手には4六金と打って、3五歩の攻め(詰めろ)を狙って先手良し。
なので、6二銀右とし、3一竜、4四玉(代えて9五歩は4五歩で先手良し)と進む。
そこで8五歩が好手となる(次の図)
研究7九香図21
先ほど6九角に9八ではなく9七玉とした手を生かす手がこの8五歩(図)である。
(1)7八歩なら、8四歩、7九歩成、8三歩成(6六銀の取りになっている)、7五歩、8六玉と、上部へ脱出して先手勝勢となる(この変化を見越して6九角に9七玉を選んだ)
他に、(2)7五金と、(3)7六歩が考えられる。
研究7九香図22
(2)7五金(図)は、同香で金を取らせる代わりに、後手7八角成と先手玉に迫るがことができる。
7五同香、7八角成に、ここは先手、しっかり8八金と受ける。以下、7九玉、7八金打、6九馬、7二香成、8四歩、同馬、6五歩、6二成香(次の図)
研究7九香図23
7六桂、7七金左、6八桂成、6六金、7八馬、8七銀、7九馬、8八銀(次の図)
研究7九香図24
先手勝勢になった。
研究7九香図25
(3)7六歩(図)はどうなるか。
8四歩と金を取るのは、7七歩成、8六玉、5八角成で後手ペース。
したがってここは、7八歩と受けるのが正着。以下7七歩成、同歩、7五金に、6七歩の手がある。
さらに4五玉、6六歩、8五金、7八桂と進む(次の図)
研究7九香図26
5八角成、6五歩、7五歩、9四馬、4六玉、8五馬、同馬、4八銀(次の図)
研究7九香図27
先手勝勢。
研究7九香図08(再掲 7一竜図)
以上の調査から、この「7一竜図」はどうやら先手良しということが確認できた。
研究7九香図01(再掲 6六銀図)
ということで、[た]6六銀(図)は、7七歩、同歩成、3三歩成、同銀、5二角成と指せば、先手が勝てるという見通しができた。
これを確認したので、我々(終盤探検隊)は、活気づいたのであった。
「【16】7九香 で行けるのではないか」と。
研究7九香図28(7五桂図)
次に気になる手が、【16】7九香 に、[ち]7五桂(図)と桂馬を打つ手であった。
この手には7七歩、同歩成、同香と応じるのが最善のようで、「激指」がそれを示していた。
以下7六歩、同香、同桂、7七歩(次の図)
研究7九香図29
ここまで進めてみると、「激指14」の評価値はプラス(先手寄り)に転じている。
この図で、6七桂成、7六歩、7七桂成なら、3七飛がある。
したがって、この図では6八桂成とすることになりそうだが、そこで7六歩と歩を進め、また桂取り。
6七桂成と逃げれば、先手玉がその瞬間安全になり、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛で、はっきり先手優勢になる。
よって後手はこの瞬間に9五歩と勝負する。同歩なら、6七桂成として、先手が角を切ってきたときに、9六歩、同玉、6三角のような攻めで勝負できるという意味だ。
なので先手は9五歩に、7五歩と桂をはずす。
そこで7六歩がしつこい攻め。
先手はここで攻めに転じる。いま入手したばかりの桂を3三桂と打ちこむ(次の図)
研究7九香図30
この桂は取れない。取ると先手ペースの戦いになる。
後手としてはここで7七歩成としたいが、2一桂成、同玉、3三桂、同銀に、5二角成とした手が、"詰めろ逃れの詰めろ"になっていて先手勝ちになる(5二に成った角が9六まで利いている)
“詰めろ以上の攻め” で先手玉に攻めらなければいけない後手は、9六歩、同玉、9五香と決め、8七玉、6七成桂と迫ってくる。
以下、7六玉、6六成桂、8七玉(次の図)
研究7九香図31
7六歩、9五香、同金と進む。そこで9六歩などでは7七歩成、9七玉、7六成桂で先手負けになる。
7八香とここを受けるのが正しい応手。そこで後手8四香なら、同馬と取って、同銀に、2一桂成、同玉、3三桂、同銀、同歩成で、先手勝ち。
7八香と打って、どうやら後手の攻めが切れてきた。
苦しい後手は、先手7八香に、7七歩成、同香、7六歩、同香と、いつでも7六成桂と取れる状態にしておく。
そこで攻めを続けるなら8四香だが、こんどは7八玉と逃げられて足らない。よって、後手はここで3三銀、同歩成、同玉と桂をはずしつつ、持駒を増やす。複雑にして、“アヤ”を求める指し方だが‥
しかし4五金と打って―――(次の図)
研究7九香図32
後手によい受けがなく、先手勝勢である。
4二玉としても、5二角成、同玉、6三金(同玉は6一竜以下詰み)、4一玉、5三金で、先手勝ちになる。そのとき後手は「角桂香」と持駒があるが先手玉に詰みはない。
2二桂と受けても、5二角成、同歩、3八飛、3四香、3五歩で、寄っている。
研究7九香図28(再掲 7五桂図)
[ち]7五桂 は、7七歩、同歩成、同香以下、先手良し、と明らかになった。
7九香基本図(再掲)
[た]6六銀、および、[ち]7五桂 はいずれも先手良しになるとわかった。
この事実は、我々に自信を与えた。
【16】7九香(図)の手は、有望なのではないか。この道で勝てるのではないか。我々はそう思ったのだった。
続いて、[つ]9五歩 や [て]6九金 も調査検討してみたが、いずれも、「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めが有効となり、先手良しになる。
この攻めを有効にするために先手は7九香と打ったのであり、それは大成功しているように見える。
この「7九香図」の有力候補手を「激指14」で調べてみよう。
すると、次のように結果が出る(何度も書くがPCのコンディションなどの影響か調べる都度に違う結果になる。よって、それをふまえた上で参考評価として見てほしい)
7九香図(再掲)
1.3一銀 -161(評価値)
2.6六銀 -47
3.7五桂 -38
4.6一歩 -16
5.4四銀引 +128
6.3一桂 +214
7.1四歩 +289
8.6二銀右 +454
9.7四桂 +475
10.9五歩 +491 (考慮時間は1時間)
このように出ている。
つまり、我々の警戒していた「6六銀」、「7五桂」の手(調査ではどちらも先手良しとわかった)よりも「激指14」が評価している手は、「3一銀」だけ。その評価値も「-161」だ。
この「3一銀」を攻略すればよいとわかったので、読みも絞ることができたし、やがて我々はこれを攻略する自信を構築できつつあった。
【16】7九香 を選んだのは、そういう理由である。
≪最終一番勝負 第71譜 指了図≫ 7九香まで
後手の≪ぬし≫(亜空間の主)は、何を指したか。
そして、ほんとうの形勢はどちらが良いのか(我々の▲7九香の選択は正しかったのか)
第72譜につづく