ぐらのにっき

主に趣味のことを好き勝手に書き綴っています。「指輪物語」とトールキンの著作に関してはネタバレの配慮を一切していません。

指輪物語のキリスト教とナルニアのキリスト教

2006年04月06日 | 指輪物語&トールキン
ナルニア映画の公開以来、ナルニアがキリスト教的な話だ、というのが常識?のように言われるようになったように思います。
指輪もナルニアも映画になるはるか昔から、「ナルニアはキリスト教的、指輪物語は異教的(この場合の異教はもちろんキリスト教に対してですね)」ということも言われていたようです。
私も初めて「指輪物語」を読んだ時には、まったくキリスト教の影響は感じませんでした。トールキンがどんな人かも知らなかったですし。
その後、トールキンが熱心なクリスチャンだったことを知った時も、トールキンが作った世界がキリスト教的とは思えず、信じられない気持ちでした。
さらにその後「シルマリル」のアイヌリンダレのくだりで、アルダの誕生神話?を読んで、ようやく「ああ、キリスト教の世界なんだ」ということが理解できました。
唯一神イルーヴァタールが神で、イルーヴァタールによって創造された世界で神々のような存在であるヴァラールは天使にあたるんだなあと。
生命の創造や世界の創造はイルーヴァタールにだけできることで、ヴァラールには創造は許されていない、などの設定からも、キリスト教的なものを感じます。
トールキンのこの神話世界は、現存する世界のさまざまな神話をキリスト教の信仰と矛盾しないように解釈したものなのでしょうね。熱心なクリスチャンでありながら、北欧神話を始めとして伝説や神話にも深い興味を示したトールキンらしくて、なんだかほほえましくもあります。
「指輪物語」が、一見多神教の異教的な世界を描いているようでありながら、キリスト教世界?からはまったく批判されなかったのもそれでよくわかりました。
トールキンがクリスチャンだということを知ってから読むと、この神々の設定だけでなく、さまざまなところでキリスト教的な要素を感じます。
ゴラムに対する「慈悲」をはじめ、ガンダルフ、アラゴルン、フロド、サムなどの登場人物の行動もとてもキリスト教的だなあと感じます。
また、特にモルドールを行くサムが、水が欲しいと願えば水が出てきて、光が欲しいと言えば日が差し出したり、フロドを助けにオークの塔に行けば、仲間割れでほとんどオークがいなくなっていたり・・・と、明らかに「運がいい」、言い換えれば「何ものかに見守られている」と思われるところにも、私はキリスト教的なものを感じます。
でも、それらのキリスト教的な要素を、初読時には全く気づかずに読みましたし、キリスト教的だなあと感じるようになった今でも、非キリスト教徒として疎外されたような気分にはならずに読めます。キリスト教精神でありながらも、もっと普遍的な考え方とも読み取れるからなんだと思います。
これがナルニアだと、もっと色濃くキリスト教を感じますし、異教徒としては馴染めないし疎外感を感じる部分もあるんですよね。まあ、必ずしもそういうところばかりでないですけどね。「ライオンと魔女」のエドマンドのエピソードなどは普遍的な話に思えます。
ナルニアではアスランという姿を借りてイエス・キリストその人が登場してしまい、子供達やナルニアの住民達を導きますが、「指輪物語」では、天使であるヴァラールすら直接的には中つ国の人々には干渉しません。
わずかに、さきほど書いたようにサムやフロドを導くかのようにその存在が感じられるところもありますが、それすらも、ただの偶然と読み取ることが可能です。
おそらく、トールキンにとってキリスト教と神の存在というものは、日常生活を静かに見守っているもので、祈ったら助けてくれるとか、そんな都合の良い簡単な存在ではなかったのだろうな、と思います。強い信仰を持ちながらも不遇な子供時代を過ごしたトールキンらしい考え方なのかなとも思います。
それに比べると、ナルニアで描かれているキリスト教は、信じる心を持つ人だけが天国に迎え入れられる、というような、キリスト教徒でない人には疎外感を感じさせるものに思えるんですよね・・・
ルイスは子供にキリスト教を教えるような意図もあってナルニアを書いていたと思います。それだけではなかったと思いますが・・・
しかし、キリスト教徒でない私から見ると、ルイスが書いたキリスト教よりも、トールキンが書いたキリスト教の方に惹かれるものを感じるのですが。北風と太陽じゃないですが、キリスト教の布教?を意図していなかったトールキンの方が、キリスト教の魅力?を伝えているように思うのは考えすぎでしょうか?
もしかすると、単にカトリックとプロテスタントの違いだったりするかもしれませんが・・・いやそのあたりよくわかってないんですけどね(汗)
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