ぐらのにっき

主に趣味のことを好き勝手に書き綴っています。「指輪物語」とトールキンの著作に関してはネタバレの配慮を一切していません。

琥珀の望遠鏡(ネタバレ)

2008年05月22日 | 読書

というわけで読み終わりました、「琥珀の望遠鏡」。
内容盛りだくさんなものを怒涛のように読んでしまったので、ちょっと感想まとめるの難しいんですが(汗)とりあえず今の時点での感想を。
機会があったらまた読み直してみないとなあ・・・と思うのですが、さていつになるやら(汗)
正直、「神秘の短剣」は展開が地味かな、と思っていたのですが、「琥珀の望遠鏡」になったら、「さあ本番ですよ」といわんばかりの怒涛の展開・・・だいたい長さが全然違うし(汗)
各章の最初に様々な文学からの引用が書いてあったり、ライラの夢の内容が断片的に書かれていたりと、構成もかなり凝ってますね。
話の方も、教権の内部のようすやアスリエル卿の軍隊のようすが少し描かれて、いよいよ話が本格的になってきたかな、と思わせました。
・・・と思わせておいて・・・というのがちょっと面白かったのですが、その話はまた後で。
「神秘の短剣」では出てこなかったアスリエル卿も結構出てきて、ようやくどんな人かがわかって来た感じがしました。
コールター夫人も、「黄金の羅針盤」ではどんな人なのか今ひとつ掴みきれなかったのが、ここに来てようやくキャラクターがはっきりしたかな、と。
「神秘の短剣」までは、コールター夫人のイメージが今ひとつ浮かべられなくて、ついついニコール・キッドマンの映像が浮かんでしまったものですが、「琥珀の望遠鏡」ではようやく映画とは違う、原作の中でのコールター夫人をイメージすることができるようになりました。
とは言っても、ニコール・キッドマンなかなかのハマリ役だったと思いますが。「琥珀の望遠鏡」の活躍まで彼女のコールター夫人を見てみたかったなあ。
コールター夫人のとことん悪賢くて非情なところが、彼女の真意がどこにあるかを不可解にさせていて、なかなか面白かったです。
そんな彼女の中にライラへの愛が芽生え、ライラのために自らを犠牲にすることができるまでになったのが、結構感動しましたね。「この愛はどこから来たのかしら」って台詞とか結構好きです。
メタトロンの前で、今までの自分の人生の卑劣さでライラへの愛を隠して騙しおおせよう、というのもカッコ良かった。ライラがイオファー・ラクニソンを騙した行為と重ねて描かれていたのがまた良かったです。
(しかしメタトロンってなんかトランスフォーマーみたいな名前・・・)
しかし、一番すごいなあと思ったのは、あれだけの軍勢を集めて世界を変えようとしていたアスリエル卿が、ライラが成すべきことを守ることが世界を変えることだ、と判断し、自ら犠牲となることを選んだことですかね。
彼自身は多分ライラへの愛のためにやったことではないだろうし、だからこそすごいなあと。あれだけの努力を全て捨てて、一度は愚かな娘と切り捨てたライラを守ることが結局は世界を変えるのだ、と理解したのだ、ということが。
どうもいけ好かなかったアスリエル卿ですが、彼の器の大きさをここでようやく理解できた、という感じでした。
そして、アスリエル卿があんなに準備してきたことが全て意味がなく、ライラが恋に落ちるという、ある意味とても「普通な行為」がダストの流れを変え、世界を救うことになるとは・・・
イブがどうとか誘惑がどうとかいうことから、だいたい予測はついていたものの、まさかあんなに普通のことだったとは。あれ、別にライラじゃなくても良かったってことですよね。まあ、あそこまでたどり着くのはライラじゃなきゃ無理だったけれども。
アスリエル卿たちがやってたことほとんど無駄だったじゃん、とバカバカしく思えてくるのが、なんだかすごいなあと思いました。
まあ、メタトロンを推す勢力からライラを守った、という意味はあったかもしれませんが、それだけかよ、というのがなんとも。
ちょっとだけ、フロドから目をそらせようと黒門前に軍隊を率いて行ったガンダルフたち(アラゴルンたち、というのは映画の話ですからね~)と似てるかなとも思いますが、「指輪」の場合は意図的にやったことだけど、アスリエル卿は意図せずにやってますからねえ。「指輪」の方が感動的ですが、予想外という点ではこっちに軍配かな。
なんだか皆が「神秘の短剣をアスリエル卿のもとへ」みたいな流れで、それでいいのか? あいつ正義か? と大いに疑問だったので、ちょっと胸がすくような気持ちもしました。
それにしても、神秘の短剣を直さない方が良いのでは、と言っていたイオレクがカッコイイなあと、最後まで読んだら改めて思いました。結局神秘の短剣は必要なかったんですもんね。少なくとも「オーソリティを倒して世界を変えるため」には。
まあ、短剣がなかったらライラたち助かってなかった場面もあったし、死者たちも救えなかったので、全く必要なかったとは言えないけれど。
イオレクはやっぱり一番カッコイイなあと思いました。作者にとっても最も理想のキャラクターなのでは。
スコーズビーさんの遺体を食べちゃったのはちょっとショックでしたが、あれもイヌイットとかアイヌのような狩猟民族の思想ですよね。
途中まで、いやかなり終盤まで、作者のそういう自然主義とかシャーマニズムへの傾倒、そしてそれに相対する意味でのキリスト教批判、というのが露骨に感じられてどうもな・・・と思っていたのですが、ライラがダストの流れを変えたあたりから、ちょっと違ったかな、と思うようになりました。
プルマン氏は決して無神論者ではないのでは、と思いました。メアリーのいうところの「大河の流れも小石の置き方によっては変えられる」という、あの場所でライラが恋に落ちるという「普通の行為」がダストの流れを変えることができた、というシチュエーションは、何者かに仕組まれたことのように思えます。
「何者か」はダストなのか、運命なのか、それとも・・・
少なくとも、人間の意志を超えた「何か」は存在するのではないか、という含みを私は感じたのですが、考えすぎでしょうか?
なんとなく、トールキンが中つ国を描く上で唯一神イルーヴァタールの存在を前提としていたにもかかわらず、物語の中では全くその存在に触れなかったのと似ているような気も・・・。まあ、プルマン氏はもっと自然やシャーマニズムに傾倒した描き方をしているので、やっぱり違うとは思いますが。
それにしても面白いなあと思ったのは、ファンタジーって書く人の知識によってその世界の姿が決まるんだなあ、ということでした。
言語学と伝承に深い造詣と愛着を持っていたトールキンはあのような世界を作りましたが、物理学に造詣があり(多分・・・)、様々な文学も読み、自然やシャーマニズムに興味があり、一方で牧師の叔父に育てられキリスト教についても熟知しているという、そんなプルマン氏が作るとああいう世界になるんだなあと・・・
トールキンとは全く異なるアプローチではありますが、さまざまな知識から生まれたプルマン氏の異世界はなかなかに面白かったです。
やっぱり、もうひとつの世界をリアリティのあるものとして作るためには、それなりの知識が必要なんだなあと思いました。
で、肝心の主人公のライラのことですが。
下巻になったらとたんに面白くなって来たのですが、やっぱりライラが出てこないとなあと・・・ウィルじゃダメなんですよね、やっぱり(汗)
死者の国に行く展開ってどうなの、と思ったんですが、死者の国に入ってからが面白かったですね。
ダイモンとの別れを決意するところ、ロジャーを捜すために死者たちが列になって歩いていくところ、いつのまにか信頼できる仲間になっていたガリベスピアンの二人の戦士(トンボに乗った小さな戦士って、なんかミクロイドSを思い出すなあ・・・って歳がばれますが(汗)いやでもあんまりよく覚えてないんですけど、と弁解(汗))。
ロジャーとの再会、ハーピーにライラが名前を与えるところ、ロジャーが大気に溶けて行くところ・・・
というあたりがなかなか感動的だったなあと思いました。
死者たちが閉じ込められている、という話、「ゲド戦記」でもそうでしたよね。あれ、「ゲド」ではなんで死者たちは閉じ込められてたんだっけ・・・(忘れるなよ(汗))
死者たちが閉じ込められていた理由は、宗教(キリスト教)のせい? と思ったんだけど、違うんですかね・・・。ダストの流れが変わっても特に解決しなくて、短剣で開けた入り口が必要なままだったし。このあたりよくわからなかったですね。
ライラとウィルが、「住む世界が違うから」(文字通り・・・)という別れ方をするんだろうな、というのはかなり早い段階から予想してましたが、まさかあんなにラブラブになるとは(笑)
二人がラブラブすぎで周りが見えなくなってしまったおかげで、最後の方はなんだか違う話になってしまったような感はありましたが・・・でもまあ切なかったですね。
初恋はきれいなままの方が・・・というにはあまりにも一緒にいる時間短くてかわいそうだったし。
なんて思いながら読んでいたら、最後にオックスフォードの植物園が登場して、トールキンが好きだったヨーロッパクロマツもちょっと登場しておお、と思いました! 目次に「植物園」って書いてあったけど、まさかあの植物園だとは思わず・・・

この左手前くらいに、壁の向こうにちょっと迷路?みたいなところがあって、その奥に件のベンチがあるのかなあと。以前行った時は二回ともこの奥までは行かなかったので、今度行く機会があったら行ってみたいですね。
でも、植物園のペンチ、私が2回いっただけでも毎回ベンチの位置変わってたんですけど・・・(汗)

とまあ、本当にとりとめのない感想ですが(汗)それだけ内容盛りだくさんだったってことですね。まだまだ触れられなかったことたくさんあるし。(バルクとバルサモスとかゴメス神父とか・・・←なんかかわいそうだったなあこの人・・・)
邦訳はされてないですが、外伝としてLyla's OxfordとNorthern Lightsというのが出ているようですね。そんなに面白くないという噂もありますが(汗)ちょっと読んでみたいかな。(アメリカ行ってみかけたら買ってくるかも・・・? どうせ読めないけど(汗))
あと、ひとつとっても疑問なことが。シリーズタイトルのHis Dark Materialsの「his」って誰のことなんでしょう・・・。
読んでる途中は、「神」のことかな、と思ってたんですが、結局最後まで読んでもわからなかった・・・
ネットで調べればすぐわかるのかと思ったら、全然出てきません(汗)うーん、気になります。誰か知ってたら教えてください・・・

コメント (2)
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