つれづれの記

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Brexit  4

2016年10月10日 21時30分47秒 | 日記

 

2016年10月10日(日)  Brexit  4

 

 この6月の国民投票の結果、イギリスは、予想に反してEUを離脱する方向となり、世界に大きな衝撃を与え、世界の株価等が、大きく変動した。 一方、責任をとって辞任した、キャメロン前首相の後継が、慌ただしく、メイ首相に決まったが、これらについて、下記記事

   Brexit  1  (2016/7/2)

   Brexit  2  (2016/7/9)

   Brexit  3  (2016/7/17)

で、取り上げたところだが、本稿は、これらの続編で、その後の経過等に触れている。 

 

◇直近の動き

 今月の10月2日、メイ首相が、イギリスのEU離脱の正式通告を、年内には行わず、来年3月末までに行うと、バーミンガムでの保守党定期大会に合わせ、TV番組で公式に表明したようだ。(【英EU離脱】メイ英首相、来年3月末までにEU離脱交渉開始 - 産経ニュース

   

                               党大会で演説するメイ首相

  正式な通告によって、EU基本条約であるリスボン条約の50条が発動され、離脱交渉が開始されるが、遅くとも2年以内に交渉を終える、という規定になっているようだ。

 英国内では、EU離脱省と、国際貿易省を新設したようだが、離脱方針を巡って、これら新設省と外務省間の主導権争いも出ているようで、国内が纏まるまでには曲折もありそうだ。

 

○ メイ首相のドイツ・フランス訪問

◇イギリスのメイ首相は、就任後初めての外遊先にドイツを選び、この7月20日に、メルケル首相との首脳会談に臨んでいる。
 詳細は省略するが、メルケル首相は、英国が正式な離脱交渉の開始となる、リスボン条約50条を発動するまでは、条件の交渉には応じないとの立場を改めて表明している。

  独首相は、一方で、イギリスに対して離脱交渉の開始時期を早めるよう求めたが、英首相は「今年は行わない」と話し、この時は、交渉開始は来年になるとしたようだ。上述のように、今般、これを、3月末と明言している。

建前では、このようだが、実際は、事前の非公式な折衝は行われるのだろうか。  

                                独メルケル首相      英メイ首相 

◇引き続いて、メイ首相は7月21日、パリを訪れ、オランド仏大統領と会談している。  

 オランド仏大統領と

 会談でメイ首相は、「今後6カ月で交渉の準備を行いたい」と述べ、年内にはEU離脱の手続きを開始しない方針を示し、早期の離脱を求めてきたフランスに理解を求めた。これに対しオランド大統領は、「政権が樹立されたばかりで時間が必要なのは分かるとした上で、(離脱は)早い方が良い、と従来の考えを堅持している。

 メイ首相は、イギリスとしては、国民投票で民意が示されているとして、移動の自由は受け入れられないとの考えを示したが、これに対し、オランド大統領は、イギリスが、EUの単一市場に残るためには、「移動の自由」が前提との原則論を述べ、イギリスは、「移動の自由」を認めるか否かで、単一市場に残るか、制限された貿易を取るかを、選択しなければならないと、厳しい姿勢を示したという。           

フランスでは、EU離脱を問う国民投票の実施を掲げる極右政党の国民戦線の動きがあり、来年春の仏大統領選との関連もあって、オランド大統領としては、EU離脱には、大きな代償を伴うことを、国内に印象付けたい思惑があるという。

これまでは、フランスの来年春の大統領選挙や、ドイツの来年秋の総選挙後に、イギリスのEUからの離脱交渉が始まるとの憶測もあったようだ。 

 先月の9/16に、チェコの首都 ブラチスラバで、EU首脳会議が開催されたが、イギリスを除いた首脳達が集まったようだ。ここでは、各国の足並みが揃わず、当面する、難民・移民対策、テロ対策や、イギリスが離脱した後のEUの具体的な方向性等は、打ち出せなかったという。 筆者は、これまで、この会議には、イギリスも出席するものと思っていたのだがーー。(EU首脳会議:難民・テロ 重点政策の行程表 加盟国、足並み乱れ - 毎日新聞

  

○ EUの実情

 ここで、EUの規模や組織等の実情について、改めて調べてみた。 EUのこれまでの歴史等については、今回は省略する。

・擬似国家としてのEU

  イギリスを含めた28の加盟国で構成されるEU全体を、一つの国(擬似国家)とみなした時の規模は以下のようだ。

    面積   約438万km (日本の約12倍)

    人口   約5億人  

    通貨   ユーロ (イギリス、デンマーク等は、自国通貨のまま)

    GDP  約16.1兆ドル(2012年 IMF) 全世界の約26%

        

・組織 

 イギリスの、キャメロン政権時代の、EUの仕組みは下図のようだ。(ネット画像) 

        

最高機関 欧州理事会(Europian Council)  各国首脳による首脳会議  EU首脳会議とも

        欧州理事会の議長は常任で、EU大統領とも呼ばれ、EUを代表する一人。

        現在の議長は、トウシェスク議長(元ポルトガル首相) 

立法    EU理事会(Council of the EU)  各国閣僚により構成する理事会  

       欧州議会(Europian Parliament) 

         両院制で、選挙で、各国から議員を選出(議員定数754人 各国に配分)         

行政   欧州委員会(Europian Comission)  行政執行機関 3万人の職員 ブリュッセルに本

      部  常任の委員長は、EUを代表する一人。 現在は、ユンケル委員長  

司法   欧州司法裁判所(EU版最高裁判所)

他    欧州中央銀行  欧州対外活動庁(EU版外務省)

  この6月の伊勢志摩サミットには、G7各国首脳に加え、EUを代表して、トウシェスク議長、ユン

ケル委員長の二人が参加している。

・予算 

 EUの財政的な 状況については、余り把握していないが、予算は、EU全体としての税収入と、各国が拠出する分担金等によって賄われているようだ。

*その中で、各国の分担金は、経済規模に応じて拠出額が割り当てられていて、データは古いが、2005年では、総額約873億ユーロを100%とした加盟各国の分担率は、以下のようだ。 

              ドイツ  20.1%

             フランス 17.6

             イタリア 13.7

             イギリス 11.3

             スペイン  9.9

             オランダ  5.1

             ベルギー  3.0

             ――――

             マルタ   0.1未満  (欧州連合の予算 - Wikipedia

  ドイツ、フランスが圧倒的に多額で、更に、これに、イタリア、イギリス、スペイン、オランダ、ベルギーを加えると、約80%以上にもなる。

*一方、政策支出(農業など)である各国への配分額は、同じ2006年のデータで、総額974億ユーロとなっている。この詳細は、ここでは省略する。

*加盟各国の、予算分担額と政策配分額との差が、国の純拠出額で、プラスの国と、マイナスの国とがある訳だが、上と同じ2006年のデータがある。(欧州連合の予算 - Wikipedia

これに関し、みずほ銀のレポートに、最近の2014年のデータで、分かりやすい下図が見つかったので引用する。(「英国のEU離脱とその影響」2016.6.9みずほ総合研究所)

  

 図右側の、ドイツ、フランス、イギリス、オランダ、イタリア等は支援する側で、図左側の、ポーランド、ハンガリー、ギリシャ等は、支援して貰う側ということだ。

金額はともかく、この状況は、2006年と余り変わっていないようだ。  

 昨年夏、財政危機に陥ったギリシャが、EUに支援を請うた事案は、記憶に新しく、当ブログでも取り上げたところだ。

      

○今後のEUは、どう進むのだろうか

 壮大な理想を掲げて、ここまで進んで来たEUだが、道半ばにして、主要加盟国のイギリスのEU離脱という状況が生起して、今後、どのように進むのか、方向が問われていると言えるだろうか。

◇ 加盟国は拡大するか、縮小するか

    EUに加盟したいという国:バルカン諸国、トルコ、ウクライナ、―――

    国の内部に離脱したい勢力が強い加盟国:フランス、オランダ、スウェーデン、―――

    拡大を抑制する要因は、なんだろうか? 

 

◇ 統合の内容―経済統合から  

 EUは、経済的な統合から始まり、共通通貨ユーロも導入されている。

経済統合により域内は単一市場が形成され、自由な取引が可能となっていて、域外との間の取引にだけ関税が設定される。 この面では、域内が、一つの国(擬似国家)と言えよう。

このような自由な取引は、プラスに働く面もあるが、強者と弱者(利益を得る者と、奪われる者)に分かれることによって、域内での格差の拡大を齎すことにもなる。

 域内では、入国管理が無くなることで、人的往来も自由になっているが(シェンゲン協定)、イギリスでのように、移住者によって、元から居る国民の仕事が奪われる、といった不満も出てくる。

この最たる事象が、中東やアフリカからEU地域へ押し寄せる、難民、移民の急増で、これをどう受け入れるのか、現在のEUの最大の懸案だ。

経済は、政治の違いを超えて、均一化・グローバル化の方向に急速に進むだろうか。

 

◇統合の内容―政治的な統合はどこまで進められるのか?

 比較的最近の世界は、歴史、民族、宗教等の違いから、下記のように、政治的には、分離・独立の流れ、多極化・多様化の方向にあると言えるだろうか。

   ソ連邦の崩壊   →ロシア連邦、東欧諸国(ベラルーシ、ウクライナ)

                 カフカス諸国(グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア)、

                 中央アジア諸国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタ

                 ン、トルクメニスタン)

   チェコ・スロバキア→チェコ、スロバキア

   ユーゴスラビア  →クロアチア、セルビア、ボスニア、モンテネグロ、コソボ、

                マケドニア 

 そんな中で、EUは、極めて珍しい、逆向きの、政治的な統合を目指す動きだ。 

現在のEUは、実国家と擬似国家という、屋上屋の二重構造の組織体制のため、複雑で分かりにくく無駄があるようにも見える。

EUの加盟国が更に増えると、組織運営は、より複雑で面倒になるだろうか?

 EUに加盟することで、文化的な一体感と、国の安全が緩やかに保証されるという、安全保障的な期待があるようにも思える。

 

 EUの目指す国家像は?

EUの手本として目指す国家像はどんなだろうか?

現状の2重構造を延長したような体制だろうか。

もう少し、政治的な統合を進めるとしたら、ロシアや中国のような、半ば、専制的な国家ではないだろうから、民主的で開かれた国家として、どのような擬似国家・連合体をめざすのだろうか?

アメリカ合衆国のような、各州と連邦という国家像である、欧州合衆国のようなイメージだろうか。

 

◇安全保障―EUとNATO

 EU各国には軍隊があり、更に、アメリカ、カナダを加えて、NATO(北大西洋条約機構)を構成する安全保障体制がある。仮に、イギリスが、EUを離脱しても、NATOの一員であることには変わりはないだろう。 EU加盟国と、NATO加盟国は、下記の一部を除いて、ほとんど一致している。

    EU加盟でNATO非加盟:スウウェーデン オーストリア フィンランド アイルランド

                    キプロス マルタ

    EU非加盟でNATO加盟:ノルウエー アイスランド アルバニア  トルコ

                     アメリカ カナダ

  イギリスは、EUを離脱しても、イギリス連邦の盟主として、世界有数の経済規模を持ち、国連安保理の常任理事国でもある存在感は変わらないだろう。  

 

◇現EUの抱える問題

 現EUの当面している緊急の懸案は、前述のように、難民問題と言われる。 

ドイツは、ナチの反省から、難民受け入れには寛容的で、理想郷と映るEUに、膨大な数の難民・移民が押し寄せている。域内の往来の自由が、いまや、試練に立たされているだろうか。

 EUにやってきた16万人の難民を受け入れるべく、EUでは、加盟各国へ、受け入れの割り当てを行っているが、拒否反応がひどいハンガリーでは、ハンガリーへの割り当て数1300人ほどをめぐって、受け入れに対する賛否を問う国民投票を、10月2日に実施した結果、

    投票率             約43% (50%以上で国民投票成立)

    投票結果 受け入れ反対   98%

 国民投票は不成立という、分かりにくい結果になったようだ。 政権自身が受け入れに反対で、国民投票に行かず、ボイコットするように呼びかけたという。この民意を受けて、政権はEUに政策の変更を求めると言うが、EU側の姿勢は変わらないようだ。 昨年の、財政危機をめぐる、ギリシャの国民投票が連想される。 

 イギリスのEU離脱問題が、EUの目前のもう一つの懸案で、EUの今後にとって、巨大な一石を投じていると言えようか。

 

  来年2017年のG7サミットは、イタリアのシチリア島で開催されるようだが、その頃は、EUとイギリスとの間で、離脱交渉が始まっているだろうから、初めて参加するイギリスのメイ首相をはじめ、EU代表を含めた各首脳は、どんな表情を見せるだろうか注目したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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