小説「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集」を読んだ。暗いなあ(2011.11.9)

2011-11-09 23:44:16 | Weblog

 *2011年8月30日、新潮社発行

 1か月ほど前に、春日部ララガーデンにある本屋で見つけ買っていました。春ごろから、「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集」という小説を新聞の記事下広告で見ていて“なんだこりゃあ”と思っていたのです。

 ワタシには、読みたいから本を買うわけでないことがあります。この小説「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集」1500円もそうです。<ボブ・ディランのレコードは全部持っているぞ気分>が買わせたのです。

 それでもベッドの脇に積んでいました。この頃、老人性不眠早朝目覚め症候群でして、昨日と今朝、外も暗いうちに灯かりをつけて読みました。

 

 芥川賞候補的な“暗い話です”。

 2001年9月1日に何があったのか、もう忘れていました。新宿歌舞伎町で、雑居ビルが焼け、キャバクラの客や女性従業員40人ぐらいが焼死した、あの事件です。失火とも放火とも言われていたようです。

 “脚を引きずりながら現場から去った男”が、確かに話題になっていました。

 この小説は、都心・西新宿で生活する男の話です。男は、西新宿にたくさんある、小さな古レコード屋の店主です。そして、そこに居候する若い男の日常を背景に描いています。

 

 ワタシも、20年前から10年前にかけて、そういった西新宿の古レコード屋を“ボブ・ディランの海賊盤(ブートレッグ)”を探しにさすらっていました。古レコード屋の雰囲気や、一般に無愛想な若いオヤジの感じはよくわかります。小説の中に、レコード屋の名として登場する“ビッグ・ピンク”にしても、別のレコード屋の店主の愛称がロビー・ロバートソンであることも、よくわかります。
 作者・宮沢章夫さんもまた、70年代初め、ボブ・ディランのバックバンドでスタートした、ザ・バンドが好きだったのでしょう。ワタシもそうです。カントリー・ロックが大好きでした。

 

 西新宿で暮らす男の、新宿<大(おお)ガード>の向こう側、歌舞伎町での怖い記憶・トラウマが小説のベースにあります。西新宿の生活は、記憶のなくなるほどの酒が日常にあります。

 

 <あの日、火をつけたのは、オレかもしれない>

 ボブ・ディランの歌が流れます。“The Grooms Still Waiting At The Alter”“Tangle Up In Blue” “Forever Young” “Knokin On Heavens Door”です。小説に、これらのディランの詩の断片が書かれています。

 

 そうして最終章です。ぼやけた夢幻の中、窓の向こうの新宿高層ビルから黒煙が上がっているのが見える・・・・ふと気がついて、それは、テレビジョンに映るニューヨーク・ツインタワーに上がる黒煙だったのです。2011年9月11日のことです。米国ニューヨーク集中テロの光景です。

 暗鬱になる読後感です。現代、東京のど真ん中に暮らす人たちの日々の陰鬱でしょうか。
 私もまた生涯を東京都心で働きながらも、遠く離れた不便な地で寝起きしていたことが良かったのか、理解できません。あるいは、昔にはなかった現代に生きる人の心の闇かもしれません。

 

 【おまけ】

*2011年9月11日(9.11)のニューヨーク集中テロのことは、今でもよく覚えています。歌舞伎町雑居ビルの火事が10日前の9月1日(9.1)であったことは、とっくに忘れていました。キャバクラで焼け死んだ女性従業員と客を、週刊誌やテレビは追い続けました。10日後の集中テロの後、報道はそっちに向けられ、キャバクラの火事の話題はなくなったといいます。そうだったかもしれません。報道とは、そういうものです。

*ボブ・ディラン・グレーティスト・ヒット 第1集と第2集

*ボブ・ディランの公式発売のレコード(CD)は全て持っており、海賊版もかなり買ってきたワタシも、この頃、さすがに息切れしています。「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第3集」なんてあったかなあ~。昨今やたらと編集盤が出てきており、ついていけません。70年代の「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第1集、第2集」は、もちろん持っています。

*この小説では、「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第3集」のレコードを中古レコード屋の棚に探すということが、中古レコード屋店主の心を探すという意味で使われているようです。

*朝日新聞2011年11月7日付朝刊

*この小説の東京都心での暮らしに暗鬱を感じるのは、2,3日前の“新宿のアパートの火事”のニュースの記憶があったからでしょう。都心のアパート(家賃が4万も5万もする!)に、生活保護を受けながら住んでいた高齢者が、ひとり孤独に暮らしていての焼死でした。しかも何人もが同時に、です。ここまで生きてきた人生って何だったのだろう、と思うのです。


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