瀬戸内寂聴さんは、本業の小説のほか、源氏物語の現代語訳、仏教の解説書など色々な仕事を遺されたが、訃報を聞いてぼくが即座に思い浮かべたのは、伊藤野枝の生涯を描いた『美は乱調にあり』と『諧調は偽りなり』だ。いまは岩波現代文庫に入っている。瀬戸内さんは荒畑寒村(1887/明治20 ~1981/昭和56)とも親交があり、「ガールフレンド」との「称号」をもらったこともある(年齢は瀬戸内さんのほうが35歳下)。
荒畑寒村は、近ごろの若い人には馴染みの薄い名前だろうが、日本の社会主義者の草分けの一人である(洒脱な人柄で、小説も巧かった)。寂聴尼といえば筋金入りの反戦主義者でもあり、「社会派」であったのは間違いないが、いっぽうでは、櫻井よしこ、石原慎太郎といった人たちとの共著もあって、軽々に色分けできるような方ではなかった。
連合赤軍事件の永田洋子死刑囚との往復書簡も有名だし、永山則夫とも文通をしていた。共著というと、梅原猛、五木寛之、加藤唐九郎、水上勉、永六輔、稲盛和夫、荒木経惟、安藤忠雄、日野原重明、山田詠美、玄侑宗久、鶴見俊輔、ドナルド・キーン、平野啓一郎、美輪明宏、田辺聖子、さだまさし、藤原新也、萩原健一……らの各氏とも共著を出しておられるらしい。正直これは、「幅が広い」とか「懐が深い」というより「節操がない」という言葉が当てはまるような気もするが、立場ではなく、とにかく「人間」に興味があったのだろう。人望が厚くなるのも道理だ。
1953(昭和28)年の、いわゆる「徳島ラジオ商殺し事件」に際しての活動も有名だった。つまりは「社会の矛盾によって弱者が抑圧されること」に対して憤りを発する方であったのだと思う。かつての日本は(日本だけには限るまいが)、いま以上に女性ぜんたいが「社会の矛盾によって抑圧される存在」であったから、瀬戸内さんの文業の大半が「フェミニズム」と呼ばれるものに重なっているのは当然であろう。
ぼくが20代の末に古本屋でセットで見つけて買い込んだのが、まだ「晴美」であった頃の瀬戸内さんが編者を務めた「人物近代女性史」(全8巻・講談社文庫)。タイトルのとおり、近代の日本をつくった女性たちの小伝を、簡潔かつ生き生きとまとめた列伝である。著者のほうもすべて女性というのがポイントだ。読み物としても面白いし、女性史としても、近代史としても勉強になった。残念ながらもう絶版で、電子書籍化もされておらず、古書でしか入手できないが、自分なりの追悼としてリストアップしておく。()内が各章の著者名である。
荒畑寒村は、近ごろの若い人には馴染みの薄い名前だろうが、日本の社会主義者の草分けの一人である(洒脱な人柄で、小説も巧かった)。寂聴尼といえば筋金入りの反戦主義者でもあり、「社会派」であったのは間違いないが、いっぽうでは、櫻井よしこ、石原慎太郎といった人たちとの共著もあって、軽々に色分けできるような方ではなかった。
連合赤軍事件の永田洋子死刑囚との往復書簡も有名だし、永山則夫とも文通をしていた。共著というと、梅原猛、五木寛之、加藤唐九郎、水上勉、永六輔、稲盛和夫、荒木経惟、安藤忠雄、日野原重明、山田詠美、玄侑宗久、鶴見俊輔、ドナルド・キーン、平野啓一郎、美輪明宏、田辺聖子、さだまさし、藤原新也、萩原健一……らの各氏とも共著を出しておられるらしい。正直これは、「幅が広い」とか「懐が深い」というより「節操がない」という言葉が当てはまるような気もするが、立場ではなく、とにかく「人間」に興味があったのだろう。人望が厚くなるのも道理だ。
1953(昭和28)年の、いわゆる「徳島ラジオ商殺し事件」に際しての活動も有名だった。つまりは「社会の矛盾によって弱者が抑圧されること」に対して憤りを発する方であったのだと思う。かつての日本は(日本だけには限るまいが)、いま以上に女性ぜんたいが「社会の矛盾によって抑圧される存在」であったから、瀬戸内さんの文業の大半が「フェミニズム」と呼ばれるものに重なっているのは当然であろう。
ぼくが20代の末に古本屋でセットで見つけて買い込んだのが、まだ「晴美」であった頃の瀬戸内さんが編者を務めた「人物近代女性史」(全8巻・講談社文庫)。タイトルのとおり、近代の日本をつくった女性たちの小伝を、簡潔かつ生き生きとまとめた列伝である。著者のほうもすべて女性というのがポイントだ。読み物としても面白いし、女性史としても、近代史としても勉強になった。残念ながらもう絶版で、電子書籍化もされておらず、古書でしか入手できないが、自分なりの追悼としてリストアップしておく。()内が各章の著者名である。
① 明治女性の知的情熱
女の屈辱から生まれた「栄光の女医」第一号の苦闘と情熱・荻野吟子
(広池秋子)
絹ひとすじに青春を捧げた「伝習女工」の輝ける日々・和田英
(安西篤子)
密命を帯びた女教師が秘境にうちたてた教育の理想像・河原操子
(岩橋邦枝)
芸術家・亡命政客のオアシス「中村屋サロン」の主役・相馬黒光
(太田治子)
激しい忍ぶ恋と清冽な絵筆が描いた近代美人画の孤絶・上村松園
(落合恵子)
スキャンダルの嵐を生きた「翔んでる」女の愛の虚実・宮田文子
(松原一枝)
冬の時代に耐えて歩んだ婦人解放理論家の「持続した志」・山川菊栄
(江刺昭子)
② 反逆の女のロマン
快然と絞首台に散った「大逆事件」の孤高のヒロイン・管野すが
(近藤富枝)
爆弾をふところに潜行した女闘士の不屈の反骨精神・福田英子
(丸川賀世子)
自分のために生きた「炎の女」の鮮烈な愛と思想・伊藤野枝
(池田みち子)
薄幸な生い立ちを充実した「生」に変えたアナーキストの恋・金子文子
(瀬戸内晴美)
革命家から家庭人への数奇な一生が刻んだ殉教者の肖像・九津見房子
(江刺昭子)
動乱の中国大陸を駆けぬけた「男装の麗人」スパイ・川島芳子
(戸川昌子)
③ 自立した女の栄光
女性解放のたいまつをかかげた「青鞜の女」のリーダー・平塚らいてう
(角田房子)
娼婦から婦人運動家への数奇な転身を生んだ「時代」の奇蹟・山田わか
(保高みさ子)
天才女詩人と内助の夫の愛がうちたてた女性史の輝く金字塔・高群逸枝
(中山あい子)
離婚から出発して女子教育の鬼となった「精力絶倫」のクリスチャン・矢島楫子
(阿部光子)
「終わりなき闘い」に殉じた婦選運動家のチャンピオン・市川房枝
(江刺昭子)
家庭革命に挑戦した本邦婦人記者第一号の誇りと栄光・羽仁もと子
(田中澄江)
④ 恋と芸術への情念
古いモラルとの闘いに命を賭けた恋のカチューシャ・松井須磨子
(河野多恵子)
世界を駆けたプリマドンナの愛の遍歴・三浦環
(三枝和子)
女王の座をすてて恋に生きた悲愁の歌人・柳原白蓮
(岩橋邦枝)
明治の下町が生んだ粋で美貌の劇作家・長谷川時雨
(城夏子)
狂気のうちにも夫を慕い続けた至純の愛の孤独・高村智恵子
(来水明子)
美人芸者が新舞踏運動の旗手となるまでの情熱的生きかた・藤蔭静樹
(松原一枝)
才女とうたわれたアララギ派歌人の華麗な恋の破局・原阿佐緒
(阿部光子)
⑤ 国際結婚の黎明
さんざめくウィーンの夜に咲いた小さな伯爵夫人 クーデンホーフ光子
(角田房子)
寄るべなき詩人の魂を定着させた「徳島の女」のぬくもり モラエス・ヨネ
(丸川賀世子)
アメリカ富豪の玉の輿に乗った祇園の名花の愛と誠 モルガン雪
(安西篤子)
愛する人を助けてつつましく燃えた献身的生涯のすべて ベルツ花
(近藤富江)
絵の好きな下町娘が異国で洋画家になるまでの静かな道のり ラグーザ玉
(太田治子)
「激動の時代」に旅立った混血女医の波乱の一生 シーボルト・イネ
(山本藤枝)
⑥ 新時代のパイオニアたち
宰相をパトロンとした名妓から一躍国際女優第一号へ・川上貞奴
(丸川賀世子)
妖女か才女か、謎と艶名につつまれた宮廷の花・下田歌子
(岩橋邦枝)
鹿鳴館のシャンデリアの下に生まれた近代最初の令嬢作家・三宅花圃
(山本藤枝)
彗星のように逝った天才女流作家の愛と文学・樋口一葉
(安西篤子)
宮廷の才女、一転してわが国初の女流民権の闘士となる・岸田俊子
(田中阿里子)
世界最年少8歳のアメリカ留学生、女子教育の一粒の麦ここに育つ・津田梅子
(来水明子)
⑦ 火と燃えた女流文学
新しい時代の恋をひらいた情熱の歌人・与謝野晶子
(城夏子)
奔放な恋の狩人の生涯・田村俊子
(瀬戸内晴美)
ユニークな男性遍歴が告げた無明の世界・岡本かの子
(三枝和子)
革命の文学に燃えつきた見事な生きかた・宮本百合子
(池田みち子)
貧窮と放浪に負けずに歩んだ一筋の道・林芙美子
(中山あい子)
すべての権威と闘い続けた反逆の子・平林たい子
(保高みさ子)
⑧ 人類愛に捧げた生涯
孤愁と憂悶に耐えて底辺の救済を祈った美貌の歌人・九条武子
(田中澄江)
貧困と忍耐が高らかに啓示した近代日本への告発・出口ナオ
(三枝和子)
神への愛と信仰を苦難の同胞にそそいだコタンのマリア バチュラー八重子
(保高みさ子)
「悲しい病」との闘いに限りない愛を捧げた白衣の戦士・小川正子
(阿部光子)
日中友好の夜明けを生きた「緑の星」の嵐の青春・長谷川テル
(近藤富江)
不幸な戦争が生んだ混血児2000人のすばらしき「ママ」・沢田美喜
(池田みち子)
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