ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ブックセラーズ

2021-04-29 01:11:23 | は行

ゲイ・タリーズが、フラン・レボウィッツが

「本」への愛を語る!

 

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「ブックセラーズ」69点★★★★

 

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世界最大のNYブックフェアに潜入し、

本を愛し、売り、その文化を守っている人々(=ブックセラ-)数人にスポットをあて

掘り下げていくドキュメンタリーです。

 

本屋通りとして知られたNYの通りに

1950年代に368店あった古書店が

いまどうなったか――など

厳しい現状が語られるなかで

それでも「紙の本」を愛する人たちがいるんだよ、という事実と

ブックセラーたちが

この状況をどのように生き延びているか、が写されていきます。

 

ワシももともと紙の本好き、加えて

「神田神保町古書街(毎日ムック)」(毎日新聞社)の取材で

かなり神保町に通ったこともあり

本&古書に思い入れがあるので

とても興味深く観ました。

 

デジタル化が叫ばれて久しい現在も

しかしNYブックフェアは大盛況。

 

例えば、ビル・ゲイツが史上最高額で競り落とした

ダ・ヴィンチの「レスター手稿」とか

「不思議の国のアリス」のオリジナル手稿とか

実に興味そそられます。

 

さらに

装丁に人間の皮(!)を使った本や、美しい宝石をはめ込んだものなどなど

その価値が希少性とともに

アート&グッズ方面に転換しているなあ、という状況も感じる。

 

NYで本屋の上階フロアをアート販売にしている古書店など

「まさに神保町にある古書店そのもの!」って驚きましたよ。

(神保町って世界でも類を見ない”本の街”だと聞いたけど、ホントなんだ!

 

そのほか

アメリカ在住のジャーナリストが

自身の執筆用に集めた資料が

そのままアーカイブとして大学図書館に収められた――なんて話には

うらやましいなと思ったり。

 

さまざまな人にインタビューしていて

あのゲイ・タリーズがちょろっと出てきたりするし

辛辣なエッセイストとして知られるフラン・レボウィッツ女史の

切れ味鋭いコメントが、おもしろい。

 

ただね、見ながら

本を愛する人々の情熱は

イコール、

もし本がなくなったら――という未来を予感しているのかも、という気もした。

 

この世界にたった一つ残った「紙の本」を奪い合うSF映画もあったよね。

「ザ・ウォーカー」(2010年)

だっけ。

 

近未来SFの世界がすぐそこにきている。

メディアのはしくれで生きてきた作り手としては

これからの世界にどう向き合うべきなのか――とか

いろいろ考えさせられた。

そして、いまも、考えてます。

 

★4/23(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

※公開情報は各劇場のホームページなどでご確認くださいませ。

「ブックセラーズ」公式サイト

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グレタ GRETA

2019-11-09 23:32:21 | か行

予想以上にイヤ〜な怖さが持続する・・・・・・!

 

「グレタ GRETA」70点★★★★

 

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NYの高級レストランで

ウェイトレスをするフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)は

帰宅中の地下鉄で、誰かが置き忘れたバッグを見つける。

中には落とし主のIDカードも入っていた。

 

遺失物センターが閉まっていたため

しかたなくバッグを持ち帰ったフランシスは

親切心からIDカードを頼りに

持ち主であるグレタ(イザベル・ユペール)の自宅に

バッグを届けに行く。

 

出迎えたグレタはフランシスに感謝し、

お茶に誘う。  

 

母子ほど年の離れた二人は

どんどん親密になっていくのだが――?!

 

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イザベル・ユペール大好きだけど

正直あまり期待してなかったんです(すみません。笑)

 

でも、これが意外に、最後の最後までかなり怖かった。

 

地下鉄で拾ったバッグを

持ち主に届けたヒロイン(クロエ・グレース・モレッツ)が

思わぬ自体に巻き込まれる――というスリラー。

 

親切心が仇になる現代の病理が

なかなかリアルに描かれていて

 

ストーカー心理や執着の描写、

ホラー要素にサイコな心理要素が絡み、

ゾクッ、ゾゾゾ、うわぁ(いやだ~)・・・・・・の三段ステップで

ラストまでイヤ〜な感じが続くんです。

 

 

バッグひとつで善人な女性を釣る――ってアイデアがおもしろいし

若くて屈強そうなクロエを

華奢で年配のユペールが翻弄する構造も

実際にある「この手の人々」のずる賢さを強調していて、

うへぇ~~と思いました。

 

深みはそこそこですが、まず構築がうまいなあと。

それに

グレタの友人役のエリカがえらい!

 

ファンとしては

ユペール様の「すごみ」や「怖さ」を

あまりこういう方向に使ってほしくないのだけど(笑)

どうにも最近、怖キャラが多いよね・・・・・・。

 

怖っ――!の切っ先が一番鋭かったのは

やっぱりミヒャエル・ハネケ監督の「ハッピーエンド」(18年)

そして「エル ELLE」(17年)ですかねえ。

 

★11/8(金)から公開中。

「グレタ GRETA」公式サイト

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誰がために憲法はある

2019-05-01 14:05:43 | た行

令和の最初に。

大事なことですからね。

 

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「誰がために憲法はある」70点★★★★

 

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87歳になられる名優・渡辺美佐子さんが

憲法を擬人化した、松元ヒロ作の一人芝居「憲法くん」を演じる、という映画。

 

ただ「憲法くん」の舞台は12分なので、

そこに渡辺さん自身が33年間上演してきた「原爆朗読劇」の舞台を重ねた

ドキュメンタリーになってる。

 

「憲法くん」というのは

性は日本国、名は憲法、というキャラ。

自分がどういうふうに生まれたのか、

そして、いままで70年以上もがんばってきたのに

いま改正案とか出されて「リストラされるかも!」と

ちょっとのユーモアも交えて、わかりやすく語りかけてくれる。

 

さらに

「憲法の前文」が朗読されることで

「ああ、憲法ってそういうものなのか」を改めて知る、という劇なんですね。

 

「憲法」のなんたるかを知ってるか

と問われればどうも心許ないワシとしては

大変に勉強になった。

 

字面を追うのと、人の声で語りかけられるのって

全然違うんだなあと。

渡辺美佐子さん、凜としてお美しいし。

 

 

なにより憲法というのは

戦争の悲劇の責任が「政府」にあったとしっかり明記し、

再び権力を持った者が好き勝手をしないように

“国民が「国」を縛るためにあるもの”なんだ、と語りかけられて

 

そうか!とハッとしました。

 

なんか「国に従うためにあるもの」って思ってません?って。

そこが大きなポイントなんだと

知るだけでも、大事な意味がある。

 

そして上映と合わせて、プレス資料にあった

馬奈木厳太郎弁護士による「改憲についてQ&A」を

配布するといいんじゃないかなあと思う。配布されてるといいな。

 

 

さらに後半、渡辺さんと「原爆朗読劇」を続けてきた

名女優さんたちのインタビューもすごく響く。

そのなかで

「日本では、こういう活動をしていると

『あ、そういう人ね』という目で見られる。おかしいですよね」

という言葉があって、ホントにそうだと思った。

 

政治について、歴史について

知らないほうが恥ずかしいことなのに

そうじゃない空気が作られてることが、ヤバいんですよね。

 

昨年の米中間選挙のときに

初めて政治的なメッセージをツイートして注目された

テイラー・スウィフトもELLEのインタビューで言ってましたよ。

「政治についてはたくさん勉強した。これからはどんどん発言していく」って。

テイラー・スウィフト関係ねえじゃん?って?失礼しましたー。

 

★4/27(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「誰がために憲法はある」公式サイト

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2017年ベスト10!

2017-12-27 23:32:08 | ぽつったー(ぽつおのつぶやき)

年末恒例~
2017年ベスト10、発表いたします!

(1位)ありがとう、トニ・エルドマン
(2位)未来よ こんにちは
(3位)女神の見えざる手
(4位)マンチェスター・バイ・ザ・シー
(5位)否定と肯定
(6位)おとなの事情
(7位)希望のかなた
(8位)トトとふたりの姉
(9位)スウィート17モンスター
(10位)夜空はいつでも最高密度の青色だ

以下、
 ノクターナル・アニマルズ
 エル ELLE
 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う
 ブレードランナー2049
 サーミの血
 三度目の殺人
 ザ・コンサルタント
 わたしは、ダニエル・ブレイク
 ギフテッド
 夜明けの祈り
 Ryuichi Sakamoto:CODA
 ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ


今年はドキュメンタリーもドラマも、洋画邦画も合わせて。
そしてワーストはナシにします。

いつもながら点数ではなく、
いま思い返しての印象と、衝撃&斬新さ、
そして
「もう一度観たい!」を大切にしました。

ぽつお番長的主演女優賞は
「未来よ こんにちは」「エル ELLE」のイザベル・ユペール!
主演男優賞は「ブレードランナー2049」のライアン・ゴズリングかなー。

2017年も
ベストでは書き切れないほど
いい映画にたくさん出合いました。
ぜひ過去ログ、ご参考いただければと思います~。

そして
今年も読んでいただき
本当にありがとうございました。
2018年もぼちぼち……いや、鋭意がんばります!ので
どうぞよろしくお願いいたします!
コメント (7)
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女神の見えざる手

2017-10-17 23:59:09 | ま行

観た直後に「もう一度観たい!」と思った。
そして観させていただきました(笑)


「女神の見えざる手」81点★★★★


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クライアントの要望に応えるため
政党や議員に働きかけ、
政治、マスコミ、そして世論さえも動かす“ロビイスト”。

エリザベス・スローン(ジェシカ・チャスティン)は
業界でも噂のスゴ腕のロビイストだ。

そんな彼女が、銃擁護派の団体から仕事を依頼される。

だが、銃擁護派を擁護できない彼女は
会社を飛び出し
銃規制法案に賛成の立場を取る陣営に参加することを決める。


だが、相手は巨人。こっちは弱小。
いったい、彼女にはどんな作戦があるのか――?!


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いやあ、これは驚きました!
見終わった後の感想は、まさに“激震”。

こちらのほうが数段「ワンダーウーマンじゃん!」と思ってしまいました(笑)

それと
「運命の逆転」(90年)に似たおもしろさだ!って。


自分にはできない相手をハメる技術や、
裏をかく頭脳を持っている人を
見る楽しさ。

頭をフル回転させて
裏の裏の裏まで戦略を巡らせるヒロインに釘付け。


二転三転する複雑な話を
よく整理してあるし。


ロビイストという業種をよく知らなかったんですが
大統領を選ぶのも、世の中の「空気」を作り出すのも彼らなんですねえ。
こわっ。

そしてヒロインが取り組むテーマが
旬テーマであり、我々異国の一般人にもにもとっつきやすい
「銃規制問題」というところもうまい。

いやでも先に起こったばかりの
ラスベガスの悲劇が、痛みとともに思い出されます……。


ヒロインのエリザベスは「銃擁護派」の依頼を蹴って
弱小な仲間とともに、「銃規制」に向けて動こうとするんです。

どう見ても勝ち目のなさそうな戦いに
どんな作戦を立てるのか?

ドラマ的にはこの時点で
すごく“ヒーロー感”あるはずなんだけど
彼女には、驚くほど、それがない(笑)

例えば
彼女が「銃擁護派」を嫌悪するに至る過程とか、身内の過去とか
なんか描かれそうなんだけど、
そんなもの、まったくすっ飛ばしてくる。


動機は人情とかじゃないんだよ!って感じ(笑)
本音はわかりませんよ?。そこがまた、いい。

とにかく
エリザベスは明らかに仕事に人生を捧げており、
寝ることもせず、恋人も作らず、性欲を“お金で処理”し(苦笑)
ひたすら仕事に邁進する。

人格は崩壊し、人間らしさのかけらもなく(笑)
身内にも容赦なく、全てを「仕掛け」まくる。
ゆえに
関わる人間は、強烈な爪痕を残されることもある。

でもね、そんな“働きマン”に
不思議なほど共感できるし、惹きつけられるんですよ。

彼女の硬質なパワー、その破壊力がたまらない。
これは
「エル ELLE」のユペール様と対決させたい…!とマジで思いました(笑)


★10/20(金)からTOHOシネマズ・シャンテほか全国で公開。

「女神の見えざる手」公式サイト
コメント (3)
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