ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ

2017-07-24 23:47:17 | は行

まるで
黒い「プロジェクトX」!(苦笑)


「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」75点★★★★


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1954年。戦後の好景気に沸くアメリカで
パッとしない人生を送る
セールスマンのレイ(マイケル・キートン)。

あるときレイは、田舎町で
兄マック(ジョン・キャロル・リンチ)
弟ディック(ニック・オファーマン)が経営する
ドライブインレストランに出合う。

通常は20分~30分待たされるのに
そこでは料理ができあがるまで、わずか30秒。
従業員たちは、考え抜かれたマニュアルとシステムで動いていた。


その店の名は「マクドナルド」。

仰天したレイは兄弟に
店をフランチャイズ化して、全米に広めようと持ちかけるが――?!


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さあ、みなさん
これは見応えありますよ~。


マイケル・キートン主演。
実話に基づいて、あの“マクドナルド”創業のヒミツを描く作品。

「こんな話、知らなかった!」と同時に
巨大企業の黒い原点を、よくここまで描けたなあと驚きました。

そして
この事実を知ることは、真のマクドナルド創業者にとって
仇討ちにもなるのだ! ってね。


主人公は、実在の人物であり
「世界最強のハンバーガー帝国の創業者(=ファウンダー)」として知られるレイ・クロック。

野心はあれど、自分自身には何もなく
しょぼいセールスマンに甘んじている彼が

マクドナルド兄弟に出会い
彼らのアイデアと、そのシステムの発明を聞く序盤には
ドキュメンタリーか「プロジェクトX」のようなワクワク感がある。

しか~し。

美談になりそうな「創業ストーリー」が
どんどん黒くなっていくんですよね。

人がよく、欲のない田舎の兄弟から
レイはえげつない手段で「店」を奪っていく。

でも
憤怒しつつ、その成り行きに見入ってしまうんです。

というのも
レイが絶対的な悪か、というと
またそうとも言えないところがこの話の複雑さ。


彼のモチベーションは
あまりにもわかりやすい「アメリカン・ドリーム」だし、
しかも彼の手段は、株やら金融操作やらのマネー話じゃない。
(まあ、だんだん悪知恵をつけられていくんだけど。苦笑)

彼の努力や苦労も、実に泥臭いんですよ。
だから、レイを絶対の悪人にもできない。

そんな複雑さがこの映画、この話の深みになっていると思います。


嫌われつつも、見てしまう男を
ゴリゴリと演じたマイケル・キートンに拍手。


それにしても。
黒いものに「いいようにされてしまう」兄弟を見ていると

「自分が成功できない理由はこれか!」とわかって
まあ痛いことでした(笑)。

プレスもなかなか皮肉、効いてます(ポテト型に切り抜いてある。笑)



★7/29(土)から角川シネ有楽町ほか全国で公開。

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」公式サイト
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ダイ・ビューティフル

2017-07-22 11:09:29 | た行

一番美しいのは
“母”の顔。


「ダイ・ビューティフル」71点★★★★


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ミス・ゲイ・フィリピーナで
ミスコン女王のトリシャ(パオロ・バレステロス)が急死した。

身寄りの少女を自分の娘として育てあげ
ミスコン女王に輝いた直後の突然の死。

親友のバーブスは
トリシャの生前の意思に沿って
葬儀までの一週間、日替わりでメイクをすることに。

アンジェリーナ・ジョリー、ビヨンセ、レディ・ガガ・・・

そのメイクから
トリシャの人生が振り返られていく・・・。


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東京国際の主演男優&観客賞受賞の
フィリピン映画。

トランスジェンダーのミスコン女王の人生を
亡くなったところから、遡っていく作りで

最初はちょっと混乱したけど
すぐに見やすくなっていきました。

お話は切なくもあるんだけど
しんみり、ではなく
オカマ親友との遠慮ないジョークにブッと吹き出し
その友情に熱くなるような。

そして本当に
主演男優賞のパオロ氏と、親友バーブス役の彼がいい。

アンジェリーナ・ジョリーやガガ、ビヨンセと
七変化するメイクもおもしろいんだけど

トリシャの美しさは、やっぱり母性や慈愛が見える瞬間なんだよね。

引き取った娘との会話の
横顔ににじみ出る美しさ。

「チョコレートドーナッツ」
アラン・カミングにとても似ている。


ミスコン出場に人生をかけ、セレブメイクを楽しんでいたトリシャは
何になりたかったのだろう?と考える。

なりたい自分のその先に、
本当の自分があったのだろうか。


観たあとはぜひ「海外版ざわちん」で検索を!
主演男優のメイク七変化が見られます。


★7/22(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ダイ・ビューティフル」公式サイト
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君はひとりじゃない

2017-07-19 23:28:01 | か行

社会派かな?と思うと
画面に常に漂う、何かの「気配」――。


「君はひとりじゃない」71点★★★★


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今日も悲惨な事件現場で
死体を検分している検察官ヤヌシュ(ヤヌシュ・ガヨス)。

数年前に妻を亡くしてから
娘オルガ(ユスティナ・スワラ)と二人暮らしだが
妻のいなくなった空白はいまだ埋まらず、
娘は摂食障害を患っていた。

ヤヌシュは娘を入院させ、
彼女はそこで
リハビリ担当するセラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)と出会う。

実はアンナにはある能力があった――。


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第65回ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞の
ポーランド映画。

妻を亡くした父と、その娘が
あるセラピストと出会う話で

見る前、なんとなく
ダルデンヌ兄弟系の人道的社会派リアリズムを超!勝手にイメージしてたんですが
いやあ、全然違うんですよ(笑)

不思議な映画でした。


例えば。
冒頭、検察官である父親ヤヌシュが
首吊り死体を検分に行く。

検分後、遺体を下に下ろすと、
その遺体がなんと起き上がり、歩き出すんですよ!

でもね、ここで
「ええ?!事件だ!」とかにならず
夢なのか、死んでなかったのか、都市伝説的なおとぎ話なのか?
まったく不明のまま
物語はフツーに進んでいく(笑)


で、ヤヌシュには
摂食障害を抱えた娘がいる。

そしてもう一人の登場人物、
摂食障害の患者たちにセラピーを行う療法士が登場。


彼女の特殊な能力が徐々に明らかになり
そして、接点のなかった3人がつながっていく――という具合。



説明ナシ、はヨーロッパ映画じゃ普通だけど
その空白を「なにかの気配」が埋めている感じが
なんともいえない味なんです。

いってみればホラーに近く、
容易な「心に傷を持った人が癒やされていく」展開などとは違っていて
静か~に、度肝を抜かれるというか。

この独特の空気は、ポーランドのお国柄なんでしょうかね。

でもたしかにヒューマンドラマであり。
そしてラストが、とてもよいんですよ。

印象的な
セラピスト役のマヤ・オスタシェフシカは
アンジェイ・ワイダ監督の「カティンの森」に出てます!


★7/22(土)からシネマート新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「君はひとりじゃない」公式サイト
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ハートストーン

2017-07-13 23:58:38 | は行

くっ。胸が苦しい。


「ハートストーン」75点★★★★


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東アイスランドの小さな漁村に暮らす
幼なじみの少年二人、
ソール(バルドル・エイナルソン)と
クリスティアン(ブラーイル・ヒンリクソン)。

ソールが村の美少女に恋し、
クリスティアンはそれを応援しようとする。

だが、クリスティアンの胸には
複雑な思いがよぎっていた――。


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切ない。久々に指先がじんじんしました。

このプレスの表紙になってるワンシーンからも
誰が女の子だか男の子だかわからないよね?というくらい

美しく、切ない、思春期の物語。

監督が幼いころに過ごした漁村での実体験が
ベースになっているそうで
それを考えると、さらに「きゅいん」とくる。


そしてアイスランド映画といえば
「馬々と人間たち」
「ひつじ村の兄弟」など

予測不能で、人間も動物も「生!」な感じの
独特の風合いがあり
その持ち味が、この作品に含まれています。


で、お話はというと
アイスランドの漁村に暮らす幼なじみの少年、
ソールとクリスティアン。

とにかく村民誰もがお互いを知っているであろう
狭いコミュニティの中で、
思春期の少年たちの鬱屈は常にはち切れんばかり。

そんな閉鎖的な世界で、
自分のセクシャリティに気づくクリスティアン。

そして二人は
友情と愛情の狭間を微妙に揺れ動く――というお話。


LGBTを扱ってはいるけれど
あくまでもそこにあるのは
手探りで、壊れそうで、もどかしい、思春期のみずみずしさ。

ソールの姉たちの描写なども実に的確なので
対象を限定せず
誰もに響くと思います。


それにしても
この環境で、少年クリスティアンに
誰が簡単に「大丈夫だよ」なんて声をかけられる?と真に感じた。

理解者であろうとする人の言葉も
決定的な衝撃になってしまう
そんなクリスチャンのあまりに切ない表情に
胸が潰れそうになりました。


LGBTに甘くない、優しくない世界はまだまだある。

彼らのいる世界の状況を知らずして
理解している顔はできない、とあらためて思いました。


★7/15(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「ハートストーン」公式サイト
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ハローグッバイ

2017-07-12 23:54:44 | は行

もたいまさこさんが効いてます。


「ハローグッバイ」70点★★★☆


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高2の派手め系女子はづき(荻原みのり)と
優等生で委員長の葵(久保田紗友)は
同じクラスにいながらもまったく接点がない。

そして二人はそれぞれ
問題を抱えていた。

そんなあるとき、二人は偶然、学校帰りに
認知症のおばあさん(もたいまさこ)に出会う。

すべてを忘れてしまったおばあさんは
「ある手紙を、ある人に渡したい」と言う。

二人はその手紙を届けようと
手助けすることになるが――?!


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ほんのり苦く、
とても清涼な作品でした。


マジメな委員長・葵と派手め系の女子はづき。

クラスでも学校でも
絶対に交わらない世界にいる二人の少女が、
一人のおばあさんと(もたいまさこ)出会う・・・というお話で


まあいつの時代もこうした
グループの違いや、スクールカーストは存在するよなあ
昔を懐かしく思ったり

それにしてもLINEとかあるいまどきの女子高校生事情は
大変そうだなあ、とも思う。

まあ、年代的にも
思い入れをしてしまうのは
もたいさん演じる“おばあさん”のほうで

彼女は認知症で
いろいろなことを忘れてしまっているのだけど
ひとつだけ「憶えている」記憶がある。
それはある人に、渡せなかった手紙を渡すこと。


少女たちはそれをラブレターだと思い
相手に渡してあげようとする――という展開。

でも、その結末にうるっときた。


1978年生まれの菊池健男監督、なかなかいいツボを押すなあと。


いつか、自分もこうして、
全てを忘れても
思い出だけを反芻したり、誰かに固執したりするのだろうか――と
思ってしまいました。



振り返るとこの映画に
存在感ある“男”はほぼ出てこないんですよね。

世代を超えた、女たちの秘密。

渡辺シュンスケ氏によるピアノ曲も美しいです。


今週発売中の「AERA」
もたいまさこさんに取材させていただきました~。

もたいさんの高校時代とは?
そしていまの暮らしについて・・・

ご興味ある方はぜひ~。


★7/15(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

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