ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ラスト・タンゴ

2016-07-07 16:16:08 | ら行

なぜ、彼らは別々にインタビューを受けているのか?
その理由がわかったとき、胸打たれました。


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「ラスト・タンゴ」73点★★★★


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伝説のコンビとされる
アルゼンチン・タンゴダンサーのドキュメンタリー。

単なる「かつての栄光」や回顧録ではなく
想像よりも深く「人の人生」に潜っていて、
見応えがありました。


あのヴィム・ヴェンダースが
愛弟子のヘルマン・クラル監督をサポートし、
製作総指揮を務めています。


14歳と17歳で出会ってから50年近くコンビを組んできた
マリア・ニエベスと、
ファン・カルロス・コペス。

いまや80代になった二人だけど、
ともに背筋ピン!で、素晴らしい。

冒頭、二人がこれから踊るそぶりを見せたところで
画面が変わって映画はスタートする。

二人のインタビューを挟みつつ、
若者時代と壮年時代をそれぞれ役者が再現するのですが、

マリアは役者たちに自分を語り、
振りつけを指導したりもする。
完全な再現シーンではないところも工夫があっていい。


ダンスシーンも素晴らしいんですが
やはり、彼らの男と女のドラマが強烈におもしろいんですね。


マリア・ニエベスと、
ファン・カルロス・コペスは
1997年の日本公演を最後にコンビを解消するんです。

そしていま、
なぜ別々にインタビューを受けているのか?

その理由がわかったとき、
芸術と男女の間には、かくも深い溝があるのかと
苦しみながらも、芸術に身を捧げられるものなのか、と胸を打たれます。


ここからはぜひ
見てから読んでいただきたいですが




二人はかつて結婚もしていたんです。

しかしマリアは
愛ではなく芸術を取り、
二人はその後も、長くコンビとして踊り続けます。

そして
ファンはその後、別の伴侶を見つけ、子どもも持った。

子どもがいないことについて聞かれたマリアが
激昂するインタビューシーンは、
ドキュメンタリーでもあまり見ないし、ドキリとします。

いまも一人立って生きている彼女の
苦しみの片りんが見えて、刺さったなあ。

バレエの世界でも、実生活でカップルだった同士が
別れた後もコンビとして舞台に立ち続けることがままある、と聞いたことがある。
凡人にはわからない境地ですね。


★7/9(土)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ラスト・タンゴ」公式サイト
コメント
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