ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

モロッコ、彼女たちの朝

2021-08-14 01:08:52 | ま行

モロッコ発の長編劇映画って

日本初公開!なんだそう。

 

「モロッコ、彼女たちの朝」73点★★★★

 

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モロッコの都市、カサブランカ。

 

美容師のサミア(ニスラン・エラディ)が

臨月の大きなお腹を抱え、路地をさまよっていた。

 

仕事も失い、住む場所もないサミア。

しかし、路地の人々は誰も、彼女を助けない。

 

モロッコでは未婚の母はタブーであり

誰も彼女に関わろうとしないのだ。

 

そんななか、小さなパン屋を営む

アブラ(ルブナ・アザバル)が

サミアをこっそり家に招き入れる。

 

女手ひとつで幼い娘ワルダ(ドゥア・ベルハウダ)を育てているアブラは

サミアの窮状に知らんふりはできなかったのだ。

 

「ふしだら」とされる未婚の母をかくまうことは

客商売をするアブラにとってもリスキーだ。

 

しかし翌朝、出ていこうとするサミアに

アブラはもう何日か泊まっていくように話すのだった――。

 

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1980年、モロッコ・タンジェ生まれの女性監督

マリヤム・トゥザニの長編デビュー作。

 

モロッコでは婚外交渉と妊娠中絶が違法で

未婚の妊婦への目はものすごく冷たいらしい。

だから身重で困り果ててるサミアに

誰も手を差し伸べてくれないんですね。

 

そんな社会で、

手探りで、サミラに手を差し伸べるアブラ。

そしてサミラは彼女のもとに居候するようになる。

 

若くてオシャレなお姉さんができたと

アブラの一人娘ワルダは大喜びで

サミラの作るパンが、店で人気になったりする。

(実際、めちゃくちゃ美味しそうだし!

 

アブラにもシングルマザーとしての苦しみがあり

二人は、互いを支え合う存在になっていく。

 

助け合う女性たちの暮らしには

やわらかく明るい日差しがこぼれていて

決して暗いわけじゃない。

 

でも映画ではサミアの事情や背景に踏み込むことはないんです。

手を差し伸べるアブラも

「数日だけよ」を繰り返す。

 

それだけ風評や、世間の目――「ふしだらな女」の烙印は重いのだ、ともわかる。

そしてサミアは、ある決断をすることになるんです。

 

女性同士が共闘したくとも、シスターフッドを発動したくとも

社会が世間が、それを許さない。

そんな環境がまだまだあるんだ――と

この映画は教えてくれた。

 

先んじて公開されている

「名もなき歌」の母の叫びも痛切だったし

「17歳の瞳に映る世界」のヒロインの痛みも鮮烈だった。

そしてこの作品も

女性の身を切る痛みをまざまざとリアルに感じさせる。

 

女性、男性、と区別をするのはイケてないけど

やはり女性監督がいまこの問題を描く、という共通点は

無視できないと思う。

 

しかもこの話は監督が身近に体験したこと。

サミアにはモデルになった女性がいて

彼女の両親が、未婚の母だった彼女を招き入れて

出産まで見守ったそうなんです。えらいな・・・。

 

世界のあちこちで、たしかに声が発せられている。

映画を通じて、それらを受け止める日々であります。

 

★8/13(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「モロッコ、彼女たちの朝」公式サイト


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