ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ミナリ

2021-03-20 14:27:43 | ま行

小さくも普遍的で、豊かな世界。

 

「ミナリ」72点★★★★

 

*********************************

 

1980年代、アメリカ南部アーカンソー州。

なーんにもない広々とした土地に

韓国系移民のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)一家がやってくる。

 

「ここで農業で成功するぞ!アメリカンドリームだ!」と

ヤル気満々のジェイコブだが

捨てられたような土地、しかも家がおんぼろトレーラーハウスなのを見て

妻モニカ(ハン・イェリ)は「話が違う!」とおかんむり。

 

長女のアン(ネイル・ケイト・チョー)も不安そうだが

末っ子のデビッド(アラン・キム)はあまり気にせず、楽しげだ。

ただデビッドは心臓がちょっと弱く

モニカはそのことも心配でしかたがない。

 

モニカは韓国からデビッドの面倒をみてもらおうと

母(ユン・ヨジョン)を呼び寄せることに。

 

が、このおばあちゃん、なかなかクセもので――?!

 

*********************************

 

1980年代、アメリカに新天地を求めた

韓国系移民一家を描く作品。

 

監督は「君の名は。」ハリウッド実写版に抜擢された

リー・アイザック・チョン。

 

ブラピ率いるプランB×おなじみA24作品で

アカデミー賞6部門ノミネート。

ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞――と

とにかく大注目な作品です。

 

で、映画はというと

驚くほどささやかで静かな物語なんですよ。

 

監督の半自伝的な物語ということで

移民への差別やら、少年の苦悩やらが

ドラマチックに起こってもおかしくないなー、と思ってたら

違ってた。

この意外性が、ちょっとおもしろい。

 

 

農業に夢をかけるお父さんとあきれ顔のお母さん、

わんぱく少年デビッドと、ヤバいおばあちゃんとの攻防(笑)

大事件は起こらないけど、

でも家族にとっては大事件じゃ!ということがあったり。

 

小さいけれど豊かで

でも普遍的ななにかがある。

 

ヨーロッパ映画やアジア作品にはありそうな雰囲気ですが

こういう作品がハリウッドでウケたっていうのも

考えさせられたし

お父さん役で主演のスティーヴン・ユァンもすごくよかった。

(イ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」

アヤシイお金持ち青年を演じていた彼ね)

 

それに

冒頭、デビッド少年が車で引っ越してくるシーン、

なんか「千と千尋~」のオープニングを連想させるんですよねー。

「君の名は。」に(勝手に)期待が高まったりしたw

 

 

そしてそして

おなじみ『AERA』で

リー・アイザック・チョン監督にインタビューさせていただいてます。

AERA dot.でも読むことが出来ます~

デビッドにはかなり自身が投影されているそうで

(てか、これよりも全然悪ガキだったと笑ってましたが)

 

印象深かったのが

「あのころ自分には『家族』がすべてであり

周りからどう見られているか、人種だ差別だ、といったことは

まったく感じてなかった」という話。

その視点を貫き、シンプルに、素直に描いた点が勝利ポイントでしょうね。

 

映画でお父さんに協力する“ちょっと変わった”地元民”にもモデルがいるそうで

アメリカの「開拓魂」が持つ広さっていうのかな

人間のフツーのやさしさが

こんな時代に、アメリカ人にとっても意外なほど響いたのか、と感じました。

 

それにしても本当にいま

アジア系監督の躍進ぶりはすごい。

「フェアウェル」のルル・ワン監督、「行き止まりの世界に生まれて」のビン・リュー監督、

もちろん「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督、

それにNetflixの「ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから」(これ、最高っす!w)のアリス・ウー監督などなど。

いろいろおもしろい状況について

『キネマ旬報』(4月上旬号)で

記事を書かせていただいております。

よかったらご一読くださいませ。

みなさんどう思われるのか聞いてみたいっす。

 

★3/19(金)から全国で公開。

「ミナリ」公式サイト


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