あまりに重要で、やさしいドキュメンタリー。
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「リトル・ガール」75点★★★★
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フランス北部、エーヌ県に暮らす
7歳のサシャを
セバスチャン・フリッツ監督が追ったドキュメンタリーです。
といっても最初、しばらくはドキュメンタリーと思わずに観てた。
サシャがあまりに可愛らしくて
絵になりすぎたから(笑)
サシャは生まれたときの性別は男性だけど
2歳過ぎから「自分は女の子」と訴えてきた。
両親も、きょうだいもそれを受け入れてるけど
でもサシャは学校にスカートをはいて行くことは許されない。
バレエスクールでも、チュチュを着ることが許されず
それを着てキラキラする女の子たちを、じっと見ている。
そんなサシャを見ていると、私たちもたまらなくなってしまう。
両親はなんとかサシャを理解してもらおうと
いろいろ手を尽くしているんだけど
学校も全然、理解してくれない。
寛容そうなフランスでも、ちょっと地方に行けば
そこはかくも保守的で無理解な社会なのだ、ということにまず驚かされました。
そんななか両親とサシャはパリの小児精神科で医師と出会い、
ようやく理解してもらえるんです。
自分を理解してくれる第三者と出会った瞬間に
大きな瞳にうるうると涙を溜めてゆくサシャ。
「ああ、安心したんだね・・・!」と抱きしめたくなる。
家族の支えや団結は完璧だけれど、
やっぱり社会で受け入れられない状況の苦しみが
決して多弁ではない、この7歳の少女に積もっていたのだ――とわかって
胸が締め付けられます。
そして両親とサシャは学校や社会に対して
なんとか理解をしてもらおうと、動き出す――という展開。
愛らしいサシャと、家族の道のりには
「性別違和」という概念を知る大事さが含まれている。
映画を観るだけでも、多くの学びがありますが
プレス資料にあった(おそらくパンフレットにもあると思います)
佐々木掌子さん(明治大学文学部心理社会学科臨床心理学専攻准教授)の解説が
ものすごく勉強になった。
子ども時代に性別違和があっても
必ずしもトランスジェンダーにならず、
8割は成長とともに違和感が消えてしまうのだそう。
そしてそのうちの約7割が
ゲイかバイセクシャルの性的指向を持つといわれているそうなんです。
以前、EduAで松岡宗嗣さんにインタビューさせていただいたとき
彼が話していた
「子ども時代の性の揺らぎ」について、より深く理解できた。
子どもが「性別違和」を訴えたとき、例えば親が「そう、あなたは女の子なのね」
と受け入れて、しかしそうだと決めつけてしまうと
今度は本人が「ん?やっぱり男の子かも」と感じても言い出せない、という状況が
起こったりするわけですね。
まだまだ知らないことがあるなあと、思いつつ
同時に
すべてを深く知らずとも、
例えば制服のスカートを選ぶかズボンを選ぶかなんて、好きなほうでいいじゃん、と
そんな「なんでもないこと」に苦労する、なんて状況は
変わるべきでしょう。
人のこころも、性もグラデーション。
なによりシンプルに目の前にいる誰かを
そのままで受け入れることが、一番大事だよなあと
愛らしいサシャと、やさしい家族を見ながら思う。
誰もがそんなふうに感じ、生きられる社会を願わずにいられません。
★11/19(金)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。