ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

春江水暖〜しゅんこうすいだん

2021-02-13 23:54:59 | さ行

これはびっくりした!

 

「春江水暖〜しゅんこうすいだん」73点★★★★

 

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中国・杭州市富陽(フーヤン)。

有名な山水画に描かれた美しい水辺の都市は、

いま再開発の真っ最中だ。

 

その場所にある中華レストランで

一族の母(ドゥー・ホイジュン)の誕生日を祝う宴が賑やかに催されている。

 

レストランを経営する長男(チェン・ヨウファー)

漁師をする次男(ジャッン・レンリアン)

男手ひとつでダウン症の息子を育てている三男(スン・ジャンジエン)

そしていまだ独身の末っ子・四男(スン・ジャンウェイ)が

母を囲んでいる。

 

が、宴の最中に母が倒れ

介護が必要になる。

 

大きな変化を前に

兄弟それぞれの人生が現れ、

その思いが交差してゆく――。

 

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カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品。

 

舞台は山水画の世界の向こうに

タワマンが立つ現代中国。

 

なんだかSFのようなシュールさのなか

市井のある一家の春夏秋冬が、描かれる。

 

たゆとう水面、ゆったりした時間の流れ。

望遠レンズで人物を捉える、独特のカメラワーク。

すべてを俯瞰するような鳥瞰の視点。

 

斬新でありつつ

ジャ・ジャンクー監督にも通じる悠久や達観の気配があり

さぞ熟練の老成した監督の作品だろうと思っていたら

 

上映後に

1988年生まれ、まだ32歳のグー・シャオガン監督の

長編デビュー作だと聞いて

腰を抜かしました(笑)

 

中国新世代、おもしろすぎます。

 

季節の移ろいのなか

個性の違う4兄弟の日々の暮らし、

それぞれの妻や子とのゴタゴタなど

市井の人々の息づかいがとても自然に、鮮明に捉えられていて

150分の長尺を飽きさせないし

 

さらに登場人物たちが

ほぼ監督の親族、っていうのもすごい。

 

それに国際社会で残念ながらいまなお

いろいろ不穏なイメージも持たれている中国から、

こんなにも穏やかで優しいまなざしを持った青年が出てきた驚きが

カンヌ受賞につながっているのだと思うのです。

 

で、そのグー・シャオガン監督は

アニメやコスプレ好きだったという

ホントにいまどきの、超・好青年(笑)

 

とても貴重なことに、監督にインタビューする機会をいただけたので

少しご紹介しますと

 

舞台は監督の地元でもあり

そこが再開発であまりにも変化していく様子に

「これを記録せねば!」とスタートしたそう。

 

家族に出てもらったのも

「いま」をリアルに切り取りたかったからだそうで

みな割と自然に、応じてくれたらしい。

 

カンヌでも各国映画祭でも「老成してる!」と言われることに、

驚きと喜びがあって

「撮るうちにだんだんと仙人のような気分になっていった、

作品が、僕にこれを“撮らせた”という感覚がいまはしています」

と話していました。

 

中国への国際社会への目も理解しつつ

「検閲など、多少の不満はあるけれど

そのエネルギーを創作に変えていく」

と、キッパリ。

 

本作は三部作の第1章にあたり

現在、第2章の撮影準備中。

現代を映す意味からも

「なんらかのかたちでコロナ禍の世界を映すものになるだろう」ということでした。

楽しみすぎる。

 

★2/11(木・祝)からBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

「春江水暖〜しゅんこうすいだん」公式サイト

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