パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

正直じいさん

2008-03-23 22:17:42 | Weblog
 今日、新宿駅前の歩行者天国を通ったのだが、道路交通法により、路上の商売、パフォーマンスを禁止しますという立て看板があり、実際、バンドや大道芸人が一人もいない。

 なんでだ?

 しばらく歩いていると、一人のおばちゃんが、「ネグリ来日中止に抗議する」ビラを配っていた。ネグリという人は、名前は時々見かけることがあり、反グローバリズムを主張するイタリアのポストモダンの思想家ということくらいしか知らないが、そのネグリがなんで入国拒否されたのか? 具体的理由は、どうやら、かつてイタリアのモロ首相を誘拐殺害したイタリアの極左組織,赤い旅団と関係があって、自身逮捕されたことがあるので、それでらしい。要するに、洞爺湖サミットを控えて警戒を厳重にしているということで、歩行者天国におけるパフォーマンス禁止もそのためなのだろう。きっと福田が「あらゆる可能性を考え、事前に備えてね、ふふふ」とか警察庁長官に言ったかしたのだろうが、せめて市橋くらい捕まえてから、でかい顔したいならしろよ、アホ警察どもと言いたい。(なんにせよ、警察にでかい顔されるのはごめんだが)

 その同じ歩行者天国の隅で、一人のホームレスが「ビッグイッシュー」を売っていた。「ホームレスに仕事を与え、自立を促す」ために発行されている雑誌で一部300円。

 参考のためにと思って買った。なんの「参考」かというと、ベーシックインカム問題が扱われているかどうか、興味があったのだが、表紙に、「ホームレスに仕事を与え、自立を促す」とキャッチフレーズが書いてあって、「あ、こりゃだめだ」と思った。ベーシックインカムは決して「自立」を目的となんかしていないからだ。

 それはともかくとして、中身が限りなくつまらない。多分、編集者が左寄りなので、それを隠すために、わざわざつまらなくしているのだろう。左翼の論理を打ち出したら、多くの人の支持は得られないと思っているのだ。しかし、だったら、なんで、「左」をやっているのだろう。
 いずれにせよ、もっともっと、論争的にならなければならないし、なれるテーマの雑誌のはずなのに。もったいない。

 ところで、「自立」といえば、吉本隆明だが、その吉本の『初期ノート』を引っ越しで捨てた。

 もともと、吉本信者なんかでは全然ないし、ちゃんと読んだこともないが、周りでいろいろ言うものだから、一応、その吉本の原点と言われる『初期ノート』を買ってみたのだ。しかし、全然意味不明のまま、いずれ分かる時が来るのかもしれないと思って、捨てずに30数年。結局、それだけの価値のある本ではないと思い定めて、ゴミ箱行きとした。あーさっぱり。

 でも、吉本を全然評価しないわけではない。『反核原論』とか、『私の「戦争論」』とか、吉本信者にとってはゴミ本かもしれないが、結構面白い。

 中でも、『私の「戦争論」』で、インタビュアーが(インタビュー本なのだ)、「復活した日本資本主義に抵抗するというのが旧左翼と異なる新左翼の闘争論理だったとおっしゃいますが、そこにどんなモチーフがあったのですか? 敗戦から10数年たって日本経済は復興した。それは曲がりなりにも資本主義の復興だったわけですね? 資本主義が復興したおかげで日本人の生活は良くなった。これは事実でしょう。だったら、新左翼は、その功績は一応認めるが、それでも抵抗する、ということだったのでしょうか。それとも、理念として資本主義を全否定しようとしたのですか?」と聞いている。

 これは、非常によい質問だと私は思う。というのは、私も「月光」の連合赤軍特集で戦後の学生運動の歴史を調べたのだが、もっともわからなかったのがこの問題なのだ。社会主義社会を目指すなら、資本主義社会を否定し、打倒しなければならないのは当たり前にしても、「復活に反対する」という言い回しからは、その「本気度」が伝わってこない。こんなスローガンで、どうやって学生をはじめとする「同志」を集めることができたのだろうか?

 ところが、吉本の説明は笑っちゃうようなものなのだ。

 「日本は敗戦で全土が焼け野原になり、政府はどこにいるのかわからないような状況になっちゃった。そうであれば、必ず革命が起きるはずだ。僕を含め、社会主義のことを少しでも考えたことのある人はみなそう思ったんです。にもかかわらず、革命は起きず、日本資本主義は復活したのです。これは、社会主義の実現を少しでも考えたことのあるものにとっては堪え難いことでした。だから、《敗戦から10数年たって日本の資本主義が日本経済を復興させたじゃないか、それを評価するのかしないのか》って言われても、それ以前の問題として、《日本資本主義が復興した。それは情けないことだ》《許せないぜ》という気持ちがあったんです。これが、《復活した日本資本主義に抵抗する》という新左翼のモチーフだったんです」(短くするために言い回しに若干変更あり)

 なるほど、納得! 《復活した日本資本主義に抵抗する》は、スローガンというより、仲間内の目配せ、符牒みたいなものだったのだ。

 東京オリンピックに備える建設の槌音に資本主義復活の響きを聞いて屈辱を味わうというような感覚は、今の70歳以上の元社会主義者でなければわからない感覚なのだろう…とかいって、このような意味合いで言っているかどうかは,今ひとつわからないのだが、いずれにせよ、「正直じいさん」の面目躍如というべきか。

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