パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

帰れないから帰りたい

2011-10-14 00:43:46 | Weblog
 3.11に起きた「帰宅難民」を改めて検証するという趣旨のNHKスペシャルの再放送を見る。
 例によって例のごとくだが、疑問を二つ。
 疑問、その1。
 地震当日、JRを中心にほとんどすべての公共交通機関がストップしてしまったのだが、その判断は妥当だったのかどうか。
 地震直後、電車を止めるのはしょうがないにしても、電車が脱線転覆したわけではないし、余震が激しくてどうしようもなかったということもない。
 そんな状況で丸一日以上、止めてしまう必要があったのかどうか。
 もし「ある」のだったら、その根拠はなにか。
 変電所がダメになったという報道をちらりと見たことがあるような記憶はあるけれど、たしか西武鉄道の一カ所だけだった。
 要するに「帰宅難民」が生じたのは交通機関が止まったのが原因であって、「検証をする」というなら、止めた判断が妥当だったか否か、このことをまず検証すべきではないか。
 しかし番組では、というか、全マスコミ、このことに触れた形跡なし。
 驚いたのは、バスまで全部止まったこと。
 自家用車、トラックは走っているのに。
 番組では、自家用車で帰宅する人が増えたために未曾有の交通渋滞を引き起こしたと言って、今後同様なことが起きたら車で無理に帰宅しないようにと言っていたが、将来のことはともかく、3.11に自家用車が走れてバスが走れない理由は何だたのか?
 私の経験した限りでは、「バスの運行を制御しているセンターと電話連絡が取れないので走らせることができませ~ん」とバス会社の係員が集まった人に説明していたが、番組では、交通機関が止まった場合は、「人々はその場に止まること」と政府が決めていたという。
 実際、午後五時頃、枝野前官房長官が「会社等にいる人はその場に止まるように」とテレビで発表している様子を番組で流していたので、JRをはじめとする全交通機関は政府の命令でいっせいに止まった可能性が高いが、NHKはそのことには一切触れていなかったので、真相はわからず。
 もしかしたら、「この際、大規模訓練のつもりでやってみるか」ということでやっったのかもしれないが、菅前首相の振る舞い等から想像して、少なくとも菅自身は全然知らされていない可能性が高い。
 翌々日辺りから実施された「計画停電」を発表するの際の菅の、「やらなければならない理由はよくわからないが、ともかくやる!」的発言、表情を考え併せると、「大規模訓練をこの際やってみよう」という高級官僚の間で決められた判断に、菅が何も知らされぬまま従っていた可能性は高いように思う。(だとすると、原発も……ということになるが、その問題はとりあえず割愛)

 いずれにせよ、帰宅難民総数1200万人という数字は、政府・官僚の、まさに想定外の事態だったと思われ、この次にはそんなことにないようにとNHKが必死にキャンペーンを張っているわけだが、そもそも、なんでそんなにみんな、必死に帰ろうと思ったのか?
 NHKでは、「家族の安否が心配だったから」と説明していたが、これが疑問の2だ。
 帰宅難民者は総数1200万人だったそうだが、必死になって家に戻ろうとしていた無数の人の多くは、戻った家に誰も待っていない独身者のはず。
 では、なんで「独身者」が、帰っても誰も待っていない家に帰ろうとするのか?
 このことは、独り者だった坂口安吾が「不思議なこと」として書いているが、かつて妻のいたことのある、現・独身者として言うけれど、帰れば帰ったで不機嫌な顔をされ、帰らなければ「怒り狂う」のが妻であって、その妻の待つ家に帰るというのは、正直言って「気が重い」ときが多々あるもの。
 地震で交通機関が全面ストップのニュースを聞いて「帰らなくても怒られない」とホッとした妻子持ちは少なからずいたはず。(その後で東北の惨状を知って、ちょっと罪悪感を感じたりとかして)
 でも、そういう不埒な夫も、必死に帰ろうとした。
 何故か?
 私が思うに、交通機関が全面ストップし、回復の目処も立たないと知って、それでなんとしてでも帰ろうと思ったのだ。
 帰れないとわかって、どうしても帰りたいと思ったのだ。
 逆に言うと、いつでも帰れる、少なくとも、「今必死に復旧作業をしていますので、復旧次第、終電にとらわれず、深夜3時4時でも走らせます」とアナウンスしていれば、「無理して帰るのは止めよう」と判断した人は多いはず。(で、会社の若い女の子と浮気したりして。実際、帰宅難民時、それに近そうなカップルがいたぞ)
 ここら辺は、まあ、パラドクスというか、心理劇として考えなければいけないのだが、官僚とか、NHKの特番で「大衆心理行動の専門家」とおだてあげられていた学者もどきどもには理解できないことだろう。(本物の学者ならそれくらいの「想像力」はあるはずだ。)
 そんな奴らが「危機管理の専門家」だなんて、ちゃんちゃらおかしい、とNHK特番の再放送を見て思ったのだった。

 KONISHIKIのハワイアンソングのCDを100円で購入。(すみません、KONISHIKIさん)
 素晴らしく甘いハイトーンで、すてきすてき。