パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

ちぐはぐな日

2007-04-26 20:05:44 | Weblog
 テレビの音声が突如、消えてしまった。
 しかし、こんなことは毎度のことで、外箱をげんこつで「ドン!」と、2、3回叩けば元に戻って聞こえるようになるのだが、今回はうんともすんとも反応がない。
 夜も遅いし、というか、真夜中なのであんまりどんどん叩くのもまずいと思い、いったん諦めて、朝、もう一度、今度は思いっきり「ドン!」と叩いたが依然、無音のまま。画面では、ルーシー・ブラックモア事件の判決について「識者」が何か言っている。興味があるので、ぜひ聞きたいと思い、さらに叩いたが反能無しで、画面は全然興味のない血液型占いとやらに変わってしまった。
 ちくしょー、このテレビもついにお釈迦かと思いながら、ふと、テレビにぴたりと耳をつけて聞いてみたら、かすか~に音が聞こえる。あれ?と思って、音量を確かめてみたら、「ゼロ」になっていた。
 何かのはずみで聞こえなくなっていたのだ。昔のテレビだったら音量スイッチが外から見えるが、最近のは(といっても、優に10年くらいは前のぽんこつテレビだが)見えない。それで、「音量ゼロ」になっていることがわからなかったのだが、危ないところで、テレビを叩き壊すところだった。

 しかし、これは今日前半のちぐはぐな出来事のはじまりにすぎなかった。

 西川口の駅前には、マクドナルドとケンタッキーチキンが並んでいる。元来、私はマック党ではなく、ケンタッキー党なので、本来ならケンタッキーに入るのだが、大分前(3、4年以上)からケンタッキーのメニューからお気に入り(ランチ)がなくなっていて、そのかわり、中途半端な(とケンタッキー派の私は思うのだが)ハンバーガーメニューばかりになってしまった。ケンタッキーのハンバーガーを食べるくらいなら朝マックがやすくて良い、とほぼ毎日マックに立ち寄っているのだが、今朝も例によってマックで食事をとった後、トイレでう○こをしながら、カフカの『審判』なんかを読んでいると、外から「おい、早くしろ」と男の声がした。
 声の調子、あるいは「遠さ」から言って、男は、私に向かって言っているのではなく、外の「小用」を使っている仲間にでも言っているのだろうと思ったが、落ち着かないので、早々に切り上げ、店を出て駅で切符を買い、車内で再び『審判』を取り出し、ふと気になる箇所があったので鉛筆で線を引こうと思ってリュックの中を探した。
 筆記用具は、たしか、百円ショップで買った小さなメッシュの物入れの中に収めてあるはずだ、と思って手で探ったがない。
 「あれ?」と思った。その物入れはたしかに昨夜まではリュックの中にあったはずである。これは確かだ。だとしたら、無意識のうちにリュックから取り出したまま、今朝、部屋に置き忘れたか……さもなければ……寸時もリュックを手元から離していなければ、絶対に部屋にあるはずなのだが、マックでう○こをしている時、、時間にして10分くらい、席においたままだった。
 そのリュックは結構大きくて、問題の物入れはその一番底にあるはず。バッグを取り出そうと思うと、腕を肩くらいまで突っ込まないと取りだせない。まさか、そこまで大胆な置き引きはいないだろうと思ったが、物入れにはいろいろ大事なものがまとめて入れてある。しかも、メッシュなので外から丸見えだ。何かの拍子で、リュックの底ではなく、口の間際に剥き出しになっていたりしたら……と心配になり、部屋にまで戻って確かめたくなったが、上り線から下り線に乗り換え、さらに歩いて15分はかかる。都合、1時間近くを「確認」のためだけに費やすのは馬鹿らしいと思い、落ち着かぬ気持ちのまま、『審判』を再び読み始めた。

 ある朝、いきなり「在宅逮捕(?)」されたヨーゼフ・Kが、その晩、隣部屋のタイピスト嬢に、「今朝は済みませんでした」と謝りながら、いきなり、彼女を抱き寄せてキスをする。あれ?「K」って、こんな大胆な男だったんだ、と思ったあたりで御徒町駅に着いたので、切符を取り出そうと思ったら、それがない。どう探してもない。ずっと腕時計のバンドに挟むようにしてから、切符をなくすことはなくなったのだが、最近、以前のように上着やらジーパンやらのポケットにしまうようになり、下車のたび、あちこち捜しまわっていたのだ。やばいな、と思いつつ、以前もそうであったように、結局は見つかっていたので、大丈夫かもと思っていたのだが、それが見つからない。(考えてみると、以前だって、「大丈夫だろう」と思いつつ、1年に1回は紛失していたのだった。)

 ともかくそんなわけで、切符の紛失は決定的となったのだが、それと共に、メッシュの物入れの行方が気になった。もちろん、夜まで待てば、その行方ははっきりするのだが、しかし、それまでずっと気にかけていなければならないと思うと、えらく落ち着かない。このまま改札口を前にUターンして西川口まで戻ろうかと思ったが、切符がないのではそれもままならない。
 やむを得ない。改札口の駅員に紛失したと申告し、デタラメに最短区間の料金を払って、いったん改札口の外に出てから再び切符を購入した。半日間とはいえ、紛失したか盗まれたか、あるいは単に部屋に置き忘れた(九分九厘は「置き忘れ」だとは思っていたのだが)か、あれこれ気にしながら過ごすのは嫌だったからだ。(それだけ、「物入れ」には大事な物が入っていたと考えてください)

 かくしてえっちらおっちら電車に揺られ、さて降りようと席を立ったら、前に座っていた男性から、「落ちましたよ」と言われた。言われて見ると、電車の床に切符が落ちている。拾ってみたら、確かに、なくしたと思っていた私の切符だった。

 アチャー、リュックのどこかにひっかかっていたらしい。
 今さら見つかってもしようがないが、あった!と思うとともに、安心感が広がり、「物入れ」も、紛失したわけでも、盗難にあったわけでもなく、部屋に置き忘れただけだろうと確信するに至ったのだが、ここまで来ちゃったからには、最後までやらないわけにはいかない。また往復30分歩くのはしんどいが、でも、しょうがない。

 というわけで、「メッシュの黄色の物入れ」は確かに私の部屋のド真ん中に鎮座して、私を待っていたのであった。

 疲れたよー。