イタリアでのビザを取るために大阪にあるイタリア領事館へ。
わざわざ大阪まで行かなきゃいけないんだねぇ。
博多から新幹線で梅雨空の西日本を縦断する。
雨に煙る深い森が流れる車窓に映る私
白いワンピースに、学生時代、友達からもらった男物の時計
ニコンD300、これが私の持つもの全て。
それなりの人生と経験を経て
未だに何も持たない私は
一体何を探し続けているのか。
ま、でもね、せっかく大阪に行くのだから
ここは色々楽しまなきゃ。
大阪出身の友達に、大阪のおすすめ所を聞いてみた。
そしたら心斎橋にある喫茶店のおばちゃんがやってる「前世占い」だって。
え?通天閣でもたこ焼きでもなんば花月でもなくて前世占い???
こんなとんでもない返しをしてくれる可愛い彼女が私は大大大好きだ。
そもそも私は前世なんて信じてない。
この世界はただ存在し、消滅するだけ。
何かが存在する時、そこに意味などなく、全てが偶然の連続。
でもそれが存続しつづける時、それには意味があり、必然性がある。
前世なんて信じないが、人類の始祖から存続する占いには
何か意味があるのではないかと思うのだ。
多分それは、わけの分からないもの、例えば、人の心とか
それを理解するために使う特別な記号みたいなものなのかも。
ま、この世の摂理などちゃんちゃら分からないけど、
ビザ申請は午前中で済んで時間もあるし、
可愛い彼女に敬意を称してせっかくだから行ってみた。
そこは心斎橋アーケードの脇道にある普通の喫茶店。
ベリーショートにした白髪に黒いTシャツを着た小柄なおばちゃんが
ニコニコと出迎えてくれた。
一見普通のおばちゃんに見えるけど、この人が占い師なの?
ここの占いは地元では有名なのか
前の予約の人がちょうど話をきいていた。
喫茶店なので、とりあえずカプチーノを注文して順番を待つ。
私の順番がやってきた。
おばちゃんは完璧な白髪とは不釣り合いなほどに艶々とした肌をしている。
はつらつとした村娘みたいな笑顔と村の長老のような落ち着いた物腰で
静かに私と対峙する。
姓名から占うらしく、私の名前を書いた紙を渡すと
ちょっと待っててねと裏にさがってしまった。
少しすると私の前世を書き付けた紙を持ってもどってきた。
79年前 アメリカ人男性 心理学者のたまご
158年前 イタリア人女性 小間物屋の奥さん
268年前 ロシア人男性 書生
私は、前世の仕事の影響で
非常に深く物事を考える癖があるそう。
男性で生まれたときには結婚をせず仕事に生きたため
今世での私の目的は結婚して幸せな家庭を築くことらしい。
へぇぇぇぇ~~
私はベトナム料理が好きだから、前世があるならてっきりベトナム人か
ベトナムに住んでいたフランス人かと思ったけど。
ん~、確かに考え込む癖はあるある、人知れずあるね。
でも、私の人生の目的が結婚だったなんて
今までの人生でほんの少しも考えた事がなかったけど。。
そっか、目的を無視しつづけているから
なんだかいつも自分の居場所ではない気がして落ち着かないのかな?
結婚ねぇぇぇ。。。
でも、本当に色々いつも上手くいかないんですけどって言ったら
それは、あなたが悪いんじゃない
たまたま付合った人があなたの目的を満たす用意ができていなかっただけ
あなたは大丈夫、自分に自信を持ちなさいと。
それを聞いて、何か胸の奥の固まりが溶けて
涙になってうっすら目に浮かんできた。
恋愛だけではない、仕事もなにも上手く行かず迷ってばかりの人生を、
ずっとずっと、自分が悪いのではと思い悩んできたから、
「あなたは悪くない」、その一言に許された気がしたのだ。
それから、イタリア留学の話は最初おばちゃんに一言もしてなかったのだけど
でも、前世にイタリア人だった時があったから、ちょっと言ってみたら
そんなもんよ。前に住んでいたから、今も懐かしくて戻ってみたくなるの。
前に住んでいたのだから、あちらに行っても違和感なく過ごせるから
心配せずに、楽しんでいってらっしゃいっだって。
出発が近づくにつれ、実はちょっとナーバスになっていたけど
なんだか、ああそっかって、分けもなく肩の力が抜けた。
なんだか占いというより、人生の先輩にアドバイスをもらった感じ。
占いは正直わからない。
でもここに来てなんだか良かった気がするな。
私の周囲には、そんな風に私を許してくれる大人がずっといなかった。
本来なら親とか、おばあちゃんとか、先生とか誰か見方になってくれる人がいるのだろうけど
残念ながら私の母は少女の心のままなので、私は急速に大人びた子供に成長した。
大人びたかわいくない子供を抱きしめてくれる大人などいないものだ。
ただ、無条件に自分を信じて許される事、その温かさ、心強さは如何許りか。
私はその支え無しにずっとひとりで気を張りつめて今まで生きてきたのかも。
そっか、私は、信じて許し合える、支えとなる誰かを必要としているんだ。
きっとそれを探すことと、結婚はニアリーイコールなのかも。
ま、私の話はさておき、でも今の時代、みんなそういう境遇に餓えてるのかも。
それは年長の方がじっと話をきき、そっと諭してくれるようなこと。
それは昔にはあったのに、今の社会に欠けているものだ。
だから社会は少しずつ変な固まりを作り、バランスを崩していくのだ。
この社会に必要なのは介護保険を担い働く子供たちではなく
人生を知り、良識を持った年長者たちなのではないのだろうかと
賑わう大阪の街でひとり思うのでした。
■Loadestone
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