夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

古筆・内裏歌合を見る

2015-11-23 23:37:47 | 日記
日本書道美術館の秋期特別展に、平安時代後期に編纂された、『二十巻本類聚歌合』の草稿が出展されているというので、ぜひともと思って観に行った。
『二十巻本類聚歌合』は、京都の近衛家に伝えられたが、近世に入ってから少しずつ流出しはじめ、このたび発見された「承暦二年内裏歌合」も、かなり前に原本が失われてしまっていたのだという。
今回展示されていたのは、その正真正銘の原本で、長く個人蔵であったものが、同館の所蔵となったのを機に、一般公開されることになったのだが、重要文化財級の巻子であり、見ていて興奮を禁じ得なかった。解説によると、草稿段階のものと考えられるそうだが、書写年代が各段に古く、通行本文の誤りを訂正できる箇所もあって、貴重な資料であることは間違いない。
有名な美術館でないのが幸いし、このときは来館者が私ひとりしかいなかったので、この仮名古筆の優品をじっくり、ゆっくり見ることができた。


同館には、尾上柴舟(岡山県津山市出身の歌人、学者)の色紙もあった。
分かりやすいように適宜、仮名を漢字に改めて紹介すると、

  降りおもる枝の雪よりいささかの黒みをおびて梅さける見ゆ
  しづやかに月は照りたりあめつちの心とこしへ動かぬがごと
    春日野にて
  ほの白く露もつくさのうちけぶる月のおほのにさを鹿鳴くも

柴舟は、草仮名の書家、研究家としても著名であり、清新な叙景歌を流麗な書とともに味わってきた。

富士初冬

2015-11-22 23:35:52 | 日記
昨日は、例会に参加するため、空路東京へ。
米子空港を離陸して間もなく、低く垂れ込めた雲に包まれ、視界が遮られて、島根半島の美しい姿を眺めることができなかった。
…日頃の疲れが出て、うとうとしているうちに、本格的に寝入ってしまったらしい。
機内放送で目を覚ますと、窓外に富士の姿が見えた。


真っ青な空を背に、山頂部分だけ、心もとないほどに雪を頂いた姿が、初々しく見える。
冠雪が朝の光を反射して、そこだけ輝いて見える。

  朝日影は銀に照り映ゆ冠雪となりしばかりの富士の高嶺に


羽田に着いてから、いったん東京駅に移動し、駅ビル2階の居酒屋「伊達」で昼食を取った。
定食の主菜はめばるの漬け焼きにしてもらい、当然のごとくお酒も頼む。
菊姫・山廃純米は本当はお燗にしてもらいたかったが、冷やだけの提供というので、まあ仕方がない。
良酒は酔い心地も極楽級に素晴らしいが、食後に熱いお茶を頂きながら、ゆっくりと酔いが醒めていく感触も快い。
旅先での昼酒で、束の間、日常の忙しさを忘れ、リフレッシュした気分になれた。

東京例会に参加

2015-11-21 23:57:19 | 日記
会場のお茶の水女子大学に入るのは初めてだった。
地下鉄丸ノ内線・茗荷谷駅から徒歩7分の好立地だが、思ったより小さな大学なので驚いた。


例会の行われた大学本館は、文京区の指定文化財だそうで、レンガ造りの建物、木の床など、重厚な雰囲気で歴史を感じる。
会場校を代表して挨拶した先生が言われていたが、お茶の水女子大学は、手狭な敷地に保育園から幼小中高大、大学院まであり、ずっと内部で進学を続けることを「お茶漬け」というそうだ。

例会の様子はまた後日書きたいが、充実した発表に、会場校の先生の個人蔵貴重歌書類の展示もあり、有意義な機会となった。

プレゼン その後

2015-11-19 23:11:09 | 教育
先日から、授業で学生たちに、近現代の歌人をグループごとに5分で紹介するプレゼンをさせているのだが、これがなかなか面白い。
たいていは、パワーポイントでスライド資料を作り発表、というやり方なのだが、中には模造紙などに手描きで資料を作ってくる班もある。



班の中で役割分担をしたり、発表原稿も作ってきていたり、短い準備期間のなかでもいろいろ工夫しているのが分かると、嬉しくなる。
先月の学会で、共にシンポジウムのパネリストをされていた方(国語教育の大家)が言われていたのだが、受け身的に情報や娯楽を与えられることに慣れてしまった若者たちに、自分が表現する側に回らせる、それも時間などの物理的制約がある中でやらせるということを、教育の場で実践することの大切さを伺った。
今の勤務校では、そうした教育実践を行うのにふさわしい環境がいろいろと整っており、かなり自由なこともやらせてもらえるので、これから学生たちと協力して、よりよい授業のありかたを模索していきたい。


ある班の発表でとても面白かったのは、
「僕たちは、タイムマシンで石川啄木さんを連れてきて、お話をうかがうことにしました。」
というもの。
啄木のお面(学生の手描き)をかぶったご本人が登場し、インタビュアーが、
「あなたは、現在のお金に換算して、総額1,600万円もの借金をしたそうですが、一体何に使ったのですか?」
とか、
「借りた金額や相手の名前も細かく記していたのに、なぜ、ちゃんと返していないのですか?」
などと、鋭く突っ込んでいたので、クラスのみんなが爆笑していた。

一つだけ違和感を覚えることがあって、今の学生は、短歌や俳句を平気で横書きにしてくる。
どこの国の詩だか分からなくなるので、これだけは縦書きにしてくれよ。
と言いつつ、私もこのブログで、和歌・短歌を横書きにしている(制約があるため)ので、大きな声で言えないのだが…。

近くて遠き

2015-11-16 23:26:09 | 日記

今日、研究室の窓からこの景色を眺めていたら、先月詠んだこの歌を記事に書き忘れていたことに気づいた。

  錦秋の伯耆大山山肌に空ゆく雲の影のうつろふ

大山の紅葉は美しかったはずだが、今年はついに紅葉狩りに行けないまま、暦の上では冬になってしまった。
地元の方に聞いたら、冠雪も間もなく始まるとのこと。
残念だが、大山登山はまた来年ということになりそうだ。

  かくばかり恋ひつつをるに大山は近くてとほきほどの怨めし