夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

君ありて

2015-11-28 21:17:35 | 短歌
先日、岡山市の吉備路文学館に行ったとき、「15人の文豪による泣菫宛書簡展」という企画展の中に柳原白蓮の歌があった。
倉敷市出身の詩人・薄田泣菫は、大阪毎日新聞社に入社後、学芸部長に進み、芥川龍之介、菊池寛、志賀直哉、谷崎潤一郎、武者小路実篤らを新聞小説の執筆者として積極的に起用するなど、文学界の発展にも貢献した。(同展解説による)


この企画展では、倉敷市が所蔵する泣菫宛の文学者達の書簡が展示・紹介されていたが、芥川龍之介・有島武郎・菊池寛・北原白秋など、錚々たる顔ぶれに驚く。今回初公開の資料もあり、どれも興味深かったのだが、私がいちばん印象に残ったのは、白蓮の短歌だった。

大正9年4月10日の日付を持つ短歌の詠草31首で、筑紫時代の白蓮が、伊藤子の名で大阪毎日新聞に投稿したものである。

  侍女が死にて百日過ぎぬかくてなほあるがごとくもふと文を書く
  筑紫には京(みやこ)育ちの侍女も逝きていよよ淋しき春は又来ぬ
  白雲のただよふ見れば鳥辺野の煙りの末と亡き人おもふ

など、侍女をなくした悲しみを詠む歌に始まり、全体的にしめやかな情調の叙情歌が多い。
その中でも、

  今日もまた夢の続きを見る如くはかなきことをして暮らすなり
  思はれて思ひを知りぬ君ありてこの淋しさも慣らひそめたり
  大方の世の嘆きにも馴れ馴れて今より後は何に泣くらん

の三首、特に二首目の歌が心に残った。この日は、晩秋の時雨が冷たく身にしみるように降っていたので、いっそう。