
虎!
とら、トラ、虎です!
「きゃあァッ、とらッ!」
「ぎょえぇーっ、虎ぁ!!」
ええ、そうなのです。
ちょうどその時、雲間からお月さまの光がこうこうと、
グリンペン沼を照らし出しました。
霧の中でうっそり、のっそり、
こちらへ首を伸ばしているのは……虎です!
おお、なんということ!
正直申しまして、テディちゃムズ、
呪いの虎などとヘンリー卿は言いましたけれど、
ホントかなァ?と訝しんでいたのでした。
かの悪漢ステ-プルトンは、
マスチフ系のミックス犬に燐をぺったぺた塗りたくり、
《バスカビル家の魔犬》を演出せしめました。
同じように今回の騒動も、
白っぽい犬に虎の縞模様をイタズラ描きしたんじゃないのかなァ、
それを虎と見間違えた可能性もあるゥ、
と推理していたのです。
それが、まさか、正真正銘、ホンモノの、虎が!
いきなり出てくるとはルール違反というものでしょう?
「どどどっ、どうするっ? テディちゃムズ~っ!!」
「こんなばあいはねッ、ユキノジョン・H・ワトソンくんッ!
にげようゥ~~ッ!!!」
君子危うきに近寄らず――いえ、三十六計逃げるにしかず。
逃げろや逃げろ、虎の牙の、爪の、届かぬところまで!
ですが、ああ、ですが。
テディクマ一族は、あまり足が長くない、という哀しい事実を
認めねばなりますまい。
よいしょっ、うんこらしょっ、と駆け出す2匹の背後へ、
ひたひた、っと猫族特有の足音が――
「きゃわわッ!!」
「むひゃひゃぁ!!」
がぶり!!とやられて、
あっけなく引っくり返るテディちゃムズとユキノジョン・H・ワトソン博士。
「きゃーッ! たべられちゃうゥッ!!」
「喰われるぅぅ~っ!!」
がぶり! もぐもぐ!
またがぶり! ごっくん!
グリンペン沼にこだまするのは、騒々しい虎の咀嚼音――
「ひいィッ、もうだめェ――あれッ?」
「わーん、いた――ん? 痛くない?」
む? おかしゅうございますね?
咀嚼音は続いておりますのに、どこも噛まれておりませんし、
痛くもありませんよ?
恐る恐るテディクマたち、振り返って見ますれば。
「あッ?とらがァ、たべてるゥあれはッ!」
「僕のだ!
下宿のハドソン夫人が僕に作ってくれたお弁当だよ!
ハドソンさん自慢の、特製ミートパイ!」
「あれはァ、ぼくがァたいせつにィとッておいたァ、
くりすますのォごちそうのォ、のこりッ!
ぶらんでーたッぷりィのォ、ふるーつけーきィだッ!」
テディクマたちの目前で。
破れたコートのポケットからこぼれ落ちたパイやらケーキやらを平らげ、
虎は満足そうに毛づくろいを始めました。
心なしか、いえ、歴然と、ブランデーの香りを漂わせながら……。
「なんだか、えーと……僕らを食べる気、ないみたいだね?」
「むむゥ、たしかにィ、はどそんさんのォ、おりょうりはァ、おいしィからねェ」
「うわ、擦りよってきたッ!」
尻尾を振り振り、近くへ寄ってきた虎ときたら、
呪いの虎というよりは、フレンドリーすぎる虎でした。
「……テディちゃムズ、僕たち、懐かれちゃってるようだけど?」
「まァいいじゃないかッ、ユキノジョン・H・ワトソンくんッ!」
テディちゃムズは喉をごろごろ鳴らす虎の頭を撫で、言いましたよ。
「けんかにィならなくてェ、よかッたよゥ!
さあ、おやしきへェ、ゆこうじゃないかッ!
いッしょにィ、ごちそうをいただこうゥッ!」
そうです、喧嘩よりは、仲良しこよし。
争いよりも、ともに楽しい食卓を。
バスカビル家の虎と、2匹のテディクマは、
連れだってヘンリー卿のお屋敷へ向かいます。
月夜の道をてくてく行けば、
バスカビル屋敷は、ほんのすぐそこに――おや?
「……むッ?
あれはッ!?!」
「テ、テディちゃムズ、あれはっ!!」
(次回へ、続く!)
とら、トラ、虎です!
「きゃあァッ、とらッ!」
「ぎょえぇーっ、虎ぁ!!」
ええ、そうなのです。
ちょうどその時、雲間からお月さまの光がこうこうと、
グリンペン沼を照らし出しました。
霧の中でうっそり、のっそり、
こちらへ首を伸ばしているのは……虎です!
おお、なんということ!
正直申しまして、テディちゃムズ、
呪いの虎などとヘンリー卿は言いましたけれど、
ホントかなァ?と訝しんでいたのでした。
かの悪漢ステ-プルトンは、
マスチフ系のミックス犬に燐をぺったぺた塗りたくり、
《バスカビル家の魔犬》を演出せしめました。
同じように今回の騒動も、
白っぽい犬に虎の縞模様をイタズラ描きしたんじゃないのかなァ、
それを虎と見間違えた可能性もあるゥ、
と推理していたのです。
それが、まさか、正真正銘、ホンモノの、虎が!
いきなり出てくるとはルール違反というものでしょう?
「どどどっ、どうするっ? テディちゃムズ~っ!!」
「こんなばあいはねッ、ユキノジョン・H・ワトソンくんッ!
にげようゥ~~ッ!!!」
君子危うきに近寄らず――いえ、三十六計逃げるにしかず。
逃げろや逃げろ、虎の牙の、爪の、届かぬところまで!
ですが、ああ、ですが。
テディクマ一族は、あまり足が長くない、という哀しい事実を
認めねばなりますまい。
よいしょっ、うんこらしょっ、と駆け出す2匹の背後へ、
ひたひた、っと猫族特有の足音が――
「きゃわわッ!!」
「むひゃひゃぁ!!」
がぶり!!とやられて、
あっけなく引っくり返るテディちゃムズとユキノジョン・H・ワトソン博士。
「きゃーッ! たべられちゃうゥッ!!」
「喰われるぅぅ~っ!!」
がぶり! もぐもぐ!
またがぶり! ごっくん!
グリンペン沼にこだまするのは、騒々しい虎の咀嚼音――
「ひいィッ、もうだめェ――あれッ?」
「わーん、いた――ん? 痛くない?」
む? おかしゅうございますね?
咀嚼音は続いておりますのに、どこも噛まれておりませんし、
痛くもありませんよ?
恐る恐るテディクマたち、振り返って見ますれば。
「あッ?とらがァ、たべてるゥあれはッ!」
「僕のだ!
下宿のハドソン夫人が僕に作ってくれたお弁当だよ!
ハドソンさん自慢の、特製ミートパイ!」
「あれはァ、ぼくがァたいせつにィとッておいたァ、
くりすますのォごちそうのォ、のこりッ!
ぶらんでーたッぷりィのォ、ふるーつけーきィだッ!」
テディクマたちの目前で。
破れたコートのポケットからこぼれ落ちたパイやらケーキやらを平らげ、
虎は満足そうに毛づくろいを始めました。
心なしか、いえ、歴然と、ブランデーの香りを漂わせながら……。
「なんだか、えーと……僕らを食べる気、ないみたいだね?」
「むむゥ、たしかにィ、はどそんさんのォ、おりょうりはァ、おいしィからねェ」
「うわ、擦りよってきたッ!」
尻尾を振り振り、近くへ寄ってきた虎ときたら、
呪いの虎というよりは、フレンドリーすぎる虎でした。
「……テディちゃムズ、僕たち、懐かれちゃってるようだけど?」
「まァいいじゃないかッ、ユキノジョン・H・ワトソンくんッ!」
テディちゃムズは喉をごろごろ鳴らす虎の頭を撫で、言いましたよ。
「けんかにィならなくてェ、よかッたよゥ!
さあ、おやしきへェ、ゆこうじゃないかッ!
いッしょにィ、ごちそうをいただこうゥッ!」
そうです、喧嘩よりは、仲良しこよし。
争いよりも、ともに楽しい食卓を。
バスカビル家の虎と、2匹のテディクマは、
連れだってヘンリー卿のお屋敷へ向かいます。
月夜の道をてくてく行けば、
バスカビル屋敷は、ほんのすぐそこに――おや?
「……むッ?
あれはッ!?!」
「テ、テディちゃムズ、あれはっ!!」
(次回へ、続く!)
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