テディちゃとネーさの読書雑記

ぬいぐるみの「テディちゃ」と養い親?「ネーさ」がナビする、新旧の様々な読書雑想と身辺記録です。

まっしろな、ものがたり。

2011-10-27 23:38:13 | ブックス
 こんにちは、ネーさです。
 今日10月27日からは、読書週間の始まり始まり~♪ですね。

「こんにちわゥ、テディちゃでス!
 ほほゥ~♪ どくしょしゅうかんッ、でスかァ~♪」
「がるる!ぐるぐるがるる!」(←訳:虎です!神保町へ行こう!)

 日本、いえ、世界きっての本の街・神保町では、
 また今年も書籍関連のイベントが開催されるようですよ。
 活字マニアの皆さま、お出掛けしてくださいね。
 さあ、では記念すべき秋の読書週間第一日目の読書タイムは……
 こちらを、どうぞ~!

  


 
               ―― 人質の朗読会 ――


 
 著者は小川洋子さん、2011年2月に発行されました。
 御本の表紙の、見る者をハッとさせる美しい作品『子鹿』の作者は土屋仁応さん、
 装丁は、白石良一さん、生島もと子さん。
 
「ふァ~、こじかちゃんだッ!」
「がるるるぐるがるるぐるぐる~…!」(←訳:なんてきれいな鹿さんだろう~…!)

 神さまの御使いを想わせる鹿さんが、
 その大きな白い耳で聴きいるのは……
 静かな静かな、
 人質たちの、朗読会。

 そこは異国でした。

 海を隔て、
 山も谷も、いくつもの国境線をも隔てた或る場所で、
 誘拐事件が起こりました。
 連れ去られたのは八人の日本人旅行者、
 犯行グループは解放の条件として、拘束されている仲間の釈放と
 身代金を要求するものの、
 交渉は難航、
 事件は膠着状態に陥りました。

 人質たちが、なぜ朗読会をすることになったのか……
 その理由は何だったのでしょう。
 退屈しのぎ?
 ほんの偶然?
 怖ろしい現実から逃避しようと?

 囁くような、幽かな朗読に耳を傾ける者など、いるのでしょうか。
 人質たちが閉じ込められている荒野の陋屋の、
 天井に巣を張る蜘蛛、くらいのもの?
 壁や床を這う蟻たちも、
 その声を聞きつけたでしょうか。

 いいえ、彼らだけではありませんでした。
 小屋には、政府側の機関の手で盗聴器が仕掛けられていたのです。
 盗聴器が拾う人質たちの語りを、
 ひそやかに、
 ひとりの特殊部隊隊員が耳にしておりました。

「しーッ! しずかにィ!」
「がるぐるがるがる!」(←訳:邪魔しちゃだめですよ!)

 息を詰め、人質たちの朗読を聴きながら、
 私たち読み手は、
 つい、溜め息したりしちゃいます。

 ズルいなあ、小川さん!
 こんな風に物語を突き付けられちゃったら、
 何も聞き逃すまい、読み逃すまいと、
 そりゃもう必死に、真剣に、
 ひと文字ひと文字を追わずにはいられないじゃありませんか。

 ページのどこかに、
 人質さんたちを救う手立てが秘められ、隠されているかもしれない。
 その鍵を見出したら、
 遠い異国の誘拐事件を
 私たち読み手が解決することだって出来るかもしれない。
 既に起こってしまった事件を
 防ぐこと、変えることだって出来るかもしれない。

 なぜなら、
 書物の中では、どんな不思議な出来事も起こり得るのですから。
 
 起こるはず、なんですから。

「おこるゥ、のでス!」
「ぐるるるがるがる!」(←訳:起こらせようよ!)

 子鹿さんが耳を澄ます
 《人質の朗読会》は、
 “ものがたり”の精華となって
 読み手の耳朶を打ちます。
 聴覚はどこまでも、何百マイル何百キロの先までも伸び、
 言葉の前に頭(こうべ)を垂れます。

 万感の、語りの、ちから。

 すべての活字マニアさんに、ぜひとも読んでいただきたい一冊です。

「しんじようッ、ものがたりのォ、ちからッ!」
「ぐるるがるがる!」(←訳:ボクらは信じる!)



 
 付記:北杜夫さんの訃報に接し、私ネーさ、茫然としております。
    大好きなドクトル・マンボウ。
    躁鬱病の、我らがドクトル!
    今頃は、お父さま、お兄さま、仲良しの遠藤周作さんと再会し、
    ワハハと笑っておられるでしょうか。
    ドクトル、どうか、どうか、やすらかに。
    
    
コメント
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