日々是好舌

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味自慢 我がふるさとの とろろ汁

2014年10月14日 14時06分53秒 | グルメ
 私が初めて山芋を掘ったのは八歳の頃である。場所は生家の正面の山で通称を「ウバガミさんの山」という。山の突先に「ウバガミ」を祀った小さな祠がある。「ウバガミ」が姥神なのか乳母神なのかは定かではない。祠の前には古い碾臼が置いてある。なんでも昔は乳の出ない女衆がお参りしたものらしい。

 この山は今日では開墾されて一面の茶畑に変貌しているが当時はまだ雑木林になっていて其処此処に山芋が生えていた。山腹の傾斜の具合や土質が手ごろだったので子供の手でも案外と簡単に山芋を掘ることが出来た。

 秋もようやく深まる頃になると山芋の葉は鮮やかに黄葉する。山芋は周囲の草木よりも黄葉するのが少し早いので慣れた者には見つけ易い。鮮黄色のハート形をした葉を目当てに探す。山芋の地上部は蔓草である。蔓の色には変化があって一概には言えない。蔓は陽当たりの良いところまで一気に伸びてから葉を広げる。従って、地面からしばらくの間は葉が一枚も無い。蔓には節があって、節のところに上向きの丸みのある膨らみを持つのが山芋の特徴である。

 近似種の野老(ところ)では鉤状の突起が下向きについている。葉のハート形にも特徴がある。トランプのハートに近い形、所謂、芋っ葉のものは通称「馬鹿芋」とよばれるもので正式な和名はニガカシュウである。担根体、つまり芋は蒟蒻芋に髭根をつけたような丸い形状を呈する。

 オニドコロともいう野老(ところ)はハート形の輪郭が角張っていて、葉脈の流線に滑らかさを欠く。蛇足だがヤマノイモ科は単子葉植物だから葉脈は網目にならない。芋は節くれ立った塊で一面に髭根を有する。この髭根を翁の白髪に見立てて正月の縁起物にするわけである。

 山芋は蔓の太さから芋の大きさを判断する。当たり前のことだが、蔓が太くて長く、広範囲に蔓延っているものほど芋が大きい。

 さて、手ごろな蔓を見つけたら、最初に蔓をたどって生えている場所を確認する。次に、付近の草や潅木を鎌で刈り払う。作業環境を整える訳である。刈り取った草や潅木は纏めて斜面の下側へ置く。掘った土石が直ちに崩れ落ちないように塞き止める役目である。これで山芋掘りの準備完了である。

 続いて、蔓の根元を丁寧に掘って臍(ほぞ)を探す。山芋は臍を中心にして放射状に根を伸ばしている。慣れてくると、この根から臍の位置を読めるようになる。臍の位置を確認したら、臍から幾らか離れた下側から鍬を入れる。山の勾配と予想される芋の長さから大体の掘削深さを決めるのである。山芋は臍から概ね垂直に伸びている。穴は幅三〇センチほどで底が水平になるように形よく掘るのが良い。

 粗方掘れたら、次には先を削って尖らせた棒切れで芋の周りの土を取り除く。この際に山芋を傷めないよう注意することが肝要である。特に、山芋の先端は柔らかくて傷めやすいので注意を要する。山芋に細い根っこなどが絡んでいるのを見落とすと、最後のところで思わぬ失態を招き、大事な芋を折ってしまう。周囲の土石や根っこを丁寧に取り除き、先端から徐々に土から外しておいて、最後に臍(ほぞ)を切って穴から取り出す。臍は穴の中か穴の上側に埋めておくと、次の春には芽を出して、数年もすれば元の大きさの山芋に戻る。

 掘った山芋は手ごろな蔓を探して副え木に括る。この時、薄(すすき)を刈って簡単に包むとよい。山芋の苞(つと)は古来、薄(すすき)が相場である。薄が無い場合には野茶(ひさかき)などに括ってその枝葉で包む手もある。山芋の掘り穴は山石などを積み、土で埋め戻しておくのが礼儀である。

 ここまで話した序でに美味しいトロロ汁の作り方を紹介しよう。先ず、準備する道具であるが、肌理の細かな下し金と大振りの擂鉢、それに擂粉木が必需品である。昔ながらの焼き物の下しがあれば最適だが無ければ擂鉢で直接磨り下ろすこともできる。この場合は山芋を布巾などで包んで磨ると滑らなくてよい。トトロ汁を作るときの擂粉木は山椒のものよりタラの木で作った太めのものがよい。

 次に材料である。山芋は肌の奇麗なすんなりしたものがよい。色で言えば黒っぽいものは避けたほうがよい。端的に言って山芋も色白がよい。土質の悪いところで掘った山芋は磨り下ろすとアクが出て黒くなってしまう。調味料は田舎味噌と鰹節があればよい。鰹節がなければ鯖節でも雑節でも結構である。

 道具と材料が揃ったら山芋を洗う。山芋には思わぬところに小石が挟まっていたりするので適当な長さに折って丁寧に洗う。竹で作った小箆などを使うと存外上手く洗える。

 鰹節で濃い目の出汁をとり、味噌を溶いて味噌汁を作る。味噌汁も多少濃い目に加減したほうがよい。山芋を下し金で磨り下し、擂鉢で暫らく当たる。全体的に均一な状態になったら、お玉杓子に半分程度の味噌汁を加えて更に当たる。この時、味噌汁は熱いほうがよい。よく当たって再び全体的に均一な状態になったらお玉杓子に七分目位の味噌汁を加える。この繰り返しで一回に加える味噌汁の量も徐々に増やしながら適度な濃さまでのばす。

 あまり急ぎすぎて、一度に大量の味噌汁を加えると、山芋と味噌汁が分離してしまってトロロ汁が上手くのびない。この状態を「ママッコ」になるという。ママッコつまり継子である。仕上げに隠し味として若干量の醤油を加えてトロロ汁の出来上がりである。トロロ汁には麦を多めにした麦飯がよく合う。麦トロは消化がよいから多少食べ過ぎても直ぐに楽になる。

 山芋の食い方には、トロロ汁の外に山かけや月見、魚鳥のすり身に混ぜてしん薯にする方法もある。私が子供の頃には、焚き火の灰に埋めて焼いて食べたものである。
 


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2 コメント

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男料理 (ふきのとう)
2013-10-01 20:37:19
とろろ汁は男の料理と思って大きくなりました。
台所には絶対入らなかった亡父でしたがとろろ汁の時は
別でした。胡坐の中に擂鉢を入れてねんごろに下ろしていました。
出汁には鯖を焼いて身ごと擂り込み、味噌仕立てでいただきました。
我が家では今も焼鯖を身ごと擂り下ろして、やはり味噌仕立てです。
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鯖が合います。 (秋山白兎)
2013-10-03 14:05:36
ふきのとうさん。こんにちは。
とろろ汁の出汁には鯖があいます。新鮮な鯖を焼いて身をほぐして摺込めば最高です。
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