今回は、最近あった出来事について書いてみたい。
場所は静岡市清水区。一〇年ほど前に亡くなった末弟は、死ぬ直前に裁判所の競売物件を落札して十五坪ほどの小さな家に住んでいた。
末弟は若いころにある家の婿養子に入ったのだが、養父が病気で亡くなった途端に離縁となって以後は独身でいた。図体の大きな男で穏やかな性格であったが、母親の葬式にも参列しないという出鱈目なところもあった。
末弟は勉強嫌いだったが母親が言うのには知能指数は兄弟の中で一番高かったそうである。田舎の中学を卒業後、職業訓練所で溶接技術を習得し、ネオン工事の会社へ就職した。その会社の近くにあった喫茶店の養女と結婚したのであるが、結婚の条件としてケーキを作る技術を身につけることを求められ、東京の専門学校に学んでケーキ職人になった。離婚後はタクシーやクレーン、観光バスの運転手などをやって生活していた。
末弟の残した十五坪の家と敷地は、法定相続人つまり残った五人の兄弟が均等に相続したのであるが、税金の支払いや建物の管理を私に求められたので、他の兄弟が相続放棄をするのであれば引き受けてやってもよいが、と、提案したら全員一も二もなく相続放棄をした。建物はその後しばらく放置していたが借り手も見つからず、空き家状態で危険だとの苦情もあったので私が大枚五十二万五千円を叩いて取り壊し更地にした。
その空き地に数年前から一台の軽乗用車が駐車していた。最初は直ぐに移動するだろうと高をくくっていたのが甘かった。五年近くずっと置きっぱなしにされたのである。詳しく見るとフロントガラスに貼られた車検の期限は平成十三年五月になっていた。
そのことで警察のテレホン相談に電話したら、「ナンバープレートの付いた自動車を勝手に処分したりしない方がいいです。後で揉める原因になりますから。詳しくは所轄の交番へ相談してください。」と、いう当たり障りのない回答だった。
早速のこと所轄の交番へ出向き、写真を見せて縷々説明するのだが、定年間近と見える交番長はちっとも親身に相談に乗ってくれないのである。つまりこの事案は、道路交通法違反ではなくて空き地の無断使用だから警察で扱う問題ではなく民・民の問題だというのが交番長の言い分である。警察は民事不介入が基本姿勢なのだ。
それでは私が直接相手と話をするからナンバープレートから車の所有者を調べて貰いたいというと、「テレビ報道でも車のナンバーをモザイク処理する時代ですからね。」と、言う始末で、プライバシーの保護を楯に調べようともしないのである。そのくせ、被害者である私の姓名や住所、電話番号、職業までしっかり訊かれたのであるから腹立たしいことこの上ない。しかし、それきしのことで大人しく引き下がる私ではない。
翌週のこと私は次のような内容の「通告書」と「無断立入禁止」の立て札を用意して現地へ向かった。通告書には「この土地は私有地です。この軽自動車の所有者は一週間以内に撤去してください。期限を過ぎても撤去しない場合は損害賠償請求など法的な措置を講じます。土地所有者」と書いて車のフロントガラスにガムテープでしっかり貼り付けた。「無断立入禁止」の立て札も空き地の見えやすい所へ立ててデジタルカメラで状況を撮影した。
その足で所轄交番へ立ち寄り、先日の軽自動車の件で近日中に清水警察署長宛に「告発状」を提出しますというと、交番長がどんな内容の告発状ですかと訊くから、軽犯罪法３２条の「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由なくして入った者」という条文に該当すると思うし、「自動車の保管場所の確保等に関する法律」の車庫証明の不実記載の疑いもあるし、車検の切れた自動車だから廃棄物処理法違反とかにも該当するんじゃないでしょうか、と、いうと交番長は直ぐに電話を取って車のナンバーから所有者の割り出しを始めた。
その気にさえなれば直ぐに判るのである。軽自動車の所有者は地元の中古車販売会社で名義変更しないまま別の人物へ売ったようだ。それでは拙いじゃないかなどと交番長から小言を言われていた。土地の所有者が交番へ来て、車の所有者を相手に告発状を出すと言っているとも告げていた。
その日の夕方、私の携帯電話へ見覚えのない番号から着信した。電話の主はＡ氏でこの人物とは面識がある。Ａ氏は以前にも空き地を勝手に耕して野菜を作っていたのである。そのＡ氏が軽自動車の使用者だったというのだから呆れて物も言えない。警察からきつく叱られて自動車は片付けましたと言っていたが、実際は生活保護を受けているＡ氏が片付けたのではなくて、車の名義人である中古車販売会社が片付けたのであろう。空き地の隅っこに茄子と南瓜とトマトの苗を植えてあるのはどうしたらいいでしょうかと訊くから、無断でなければ使ってもよいと言ってやった。
空き地のなすびの花咲いている
場所は静岡市清水区。一〇年ほど前に亡くなった末弟は、死ぬ直前に裁判所の競売物件を落札して十五坪ほどの小さな家に住んでいた。
末弟は若いころにある家の婿養子に入ったのだが、養父が病気で亡くなった途端に離縁となって以後は独身でいた。図体の大きな男で穏やかな性格であったが、母親の葬式にも参列しないという出鱈目なところもあった。
末弟は勉強嫌いだったが母親が言うのには知能指数は兄弟の中で一番高かったそうである。田舎の中学を卒業後、職業訓練所で溶接技術を習得し、ネオン工事の会社へ就職した。その会社の近くにあった喫茶店の養女と結婚したのであるが、結婚の条件としてケーキを作る技術を身につけることを求められ、東京の専門学校に学んでケーキ職人になった。離婚後はタクシーやクレーン、観光バスの運転手などをやって生活していた。
末弟の残した十五坪の家と敷地は、法定相続人つまり残った五人の兄弟が均等に相続したのであるが、税金の支払いや建物の管理を私に求められたので、他の兄弟が相続放棄をするのであれば引き受けてやってもよいが、と、提案したら全員一も二もなく相続放棄をした。建物はその後しばらく放置していたが借り手も見つからず、空き家状態で危険だとの苦情もあったので私が大枚五十二万五千円を叩いて取り壊し更地にした。
その空き地に数年前から一台の軽乗用車が駐車していた。最初は直ぐに移動するだろうと高をくくっていたのが甘かった。五年近くずっと置きっぱなしにされたのである。詳しく見るとフロントガラスに貼られた車検の期限は平成十三年五月になっていた。
そのことで警察のテレホン相談に電話したら、「ナンバープレートの付いた自動車を勝手に処分したりしない方がいいです。後で揉める原因になりますから。詳しくは所轄の交番へ相談してください。」と、いう当たり障りのない回答だった。
早速のこと所轄の交番へ出向き、写真を見せて縷々説明するのだが、定年間近と見える交番長はちっとも親身に相談に乗ってくれないのである。つまりこの事案は、道路交通法違反ではなくて空き地の無断使用だから警察で扱う問題ではなく民・民の問題だというのが交番長の言い分である。警察は民事不介入が基本姿勢なのだ。
それでは私が直接相手と話をするからナンバープレートから車の所有者を調べて貰いたいというと、「テレビ報道でも車のナンバーをモザイク処理する時代ですからね。」と、言う始末で、プライバシーの保護を楯に調べようともしないのである。そのくせ、被害者である私の姓名や住所、電話番号、職業までしっかり訊かれたのであるから腹立たしいことこの上ない。しかし、それきしのことで大人しく引き下がる私ではない。
翌週のこと私は次のような内容の「通告書」と「無断立入禁止」の立て札を用意して現地へ向かった。通告書には「この土地は私有地です。この軽自動車の所有者は一週間以内に撤去してください。期限を過ぎても撤去しない場合は損害賠償請求など法的な措置を講じます。土地所有者」と書いて車のフロントガラスにガムテープでしっかり貼り付けた。「無断立入禁止」の立て札も空き地の見えやすい所へ立ててデジタルカメラで状況を撮影した。
その足で所轄交番へ立ち寄り、先日の軽自動車の件で近日中に清水警察署長宛に「告発状」を提出しますというと、交番長がどんな内容の告発状ですかと訊くから、軽犯罪法３２条の「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由なくして入った者」という条文に該当すると思うし、「自動車の保管場所の確保等に関する法律」の車庫証明の不実記載の疑いもあるし、車検の切れた自動車だから廃棄物処理法違反とかにも該当するんじゃないでしょうか、と、いうと交番長は直ぐに電話を取って車のナンバーから所有者の割り出しを始めた。
その気にさえなれば直ぐに判るのである。軽自動車の所有者は地元の中古車販売会社で名義変更しないまま別の人物へ売ったようだ。それでは拙いじゃないかなどと交番長から小言を言われていた。土地の所有者が交番へ来て、車の所有者を相手に告発状を出すと言っているとも告げていた。
その日の夕方、私の携帯電話へ見覚えのない番号から着信した。電話の主はＡ氏でこの人物とは面識がある。Ａ氏は以前にも空き地を勝手に耕して野菜を作っていたのである。そのＡ氏が軽自動車の使用者だったというのだから呆れて物も言えない。警察からきつく叱られて自動車は片付けましたと言っていたが、実際は生活保護を受けているＡ氏が片付けたのではなくて、車の名義人である中古車販売会社が片付けたのであろう。空き地の隅っこに茄子と南瓜とトマトの苗を植えてあるのはどうしたらいいでしょうかと訊くから、無断でなければ使ってもよいと言ってやった。
空き地のなすびの花咲いている
