杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

博士の愛した数式

2020年12月02日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2006年1月21日公開 117分

2006年1月26日 テアトル池袋鑑賞 

2020年10月4日放送 日曜映画劇場放送

家政婦として働くシングル・マザーの杏子(深津絵里)が、今度お世話をすることになったのは、ケンブリッジ大学で数学を学んでいたが、交通事故の後遺症で記憶が80分しかもたなくなってしまった老博士(寺尾聰)。杏子とその息子(齋藤隆成)は博士の人柄と、彼の語る数式の美しさに魅了され、3人は次第にうち解けていくが、やがて博士の痛ましい過去が明らかになっていく。(映画.comより)

 

小川洋子の同名小説の映画化です。

以前確かに観た記憶があるのにブログに感想UPしてないなぁと思ったら、このブログを始める前でした そういうのもまだけっこう残ってるなぁ。

大人になったルート(吉岡秀隆)が授業で生徒たちの前で博士との思い出を語りながら数字の持つ不思議さ面白さを説く形で物語が進みます。

博士の穏やかで紳士的な物腰と、その上着に留めつけられた「覚えておくこと」が書かれたメモの数々のアンバランスさが印象的です。記憶が繰り返し消去されることへの恐怖は耐えがたい苦しみでしょう。その残酷な現実に博士が味わう虚しさや絶望感も計り知れません。それでも時は彼の優しさや気高さを奪うことはできませんでした。

これまでの家政婦が長続きしなかったのは、記憶の保たれない博士との信頼関係を築けなかったからでしょうか?杏子は単に仕事としてだけではなく、初めから博士を一人の人間として敬い理解しようとしているように見えました。彼女の息子も同様です。 そんな姿勢は必ず相手にも伝わります。博士の方も母子に愛情と思いやりを注ぐようになります。

博士が病気になった時は、家政婦の規則を破り泊りがけで看病しますが、雇い主である未亡人からのクレームで、職場を変えられてしまいます。何故義姉である未亡人(浅丘ルリ子)が直接博士の世話をしないのかという謎は後半に明かされる過去を知ると、わからないでもないですが・・。

ルートがきっかけで、やがて未亡人の誤解も解けて、杏子はまた博士の世話をすることを許されます。

博士が教えてくれた闇を照らす一筋の確かな光のような数字の美しさとその不変的な絶対性は、母子の人生の道しるべにもなっていきます。博士にとっても、母子と心を通わせるその瞬間はかけがえのない幸せな時間であり、崩れても失ってもまた構築される確かで揺るぎない数字のような安心感と信頼の絆になっていたのでしょう。

心穏やかに安らぐゆったりした時間を味わうことができる上質な作品です。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする