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細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(33) 「世界観を考える」 大倉 風芽 (2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-11-11 05:23:28 | 教育のこと

「世界観を考える」 大倉  風芽 

 今回で土木氏と文明の講義Ⅰの講義が半分終了したが、この講義ではテレビや新聞などのマスコミで言われているものと異なる意見や、メディアでは取り上げられていないような深く専門的な視点からの意見が取り上げられとても勉強になった。

 一方で専門的な知識や過去の事例での当時の状況、事業が行われたことによる現在の状況を学んでも、今何をどうすべきかということを考えると途端に正解や答えが見えなくなり自分の不勉強さを痛感させられる。

 特に技術の問題を超えた政策や政治判断については何を目指して、何をするべきか、自分の役割は何かということが本当にわからなくなる。

 世間で言われているようなビッグデータやAIを使ってエビデンスベースの議論ができ、論理的、数学的に正しい正解があるなら楽な話であるがどうも現実はそうだと思うことができない。また、目の前にある課題を場当たり的に順次解決してくことでたどり着く結果が良い物だという保証はあるのかという点も疑問である。

 こんなことを考えていると、私は以前知った戦略の階層という概念を思い出した。

 戦略の階層とは軍事における概念で、古くはクラウゼヴィッツが提唱したと言われている。

 この概念は戦略には階層性があり、上位の階層が下位の階層を決定するという考えである。階層は上から順に世界観(vision),政策(policy),大戦略(grand strategy),軍事戦略(military strategy),作戦(operation),戦術(tactics),技術(technology)の順に分かれており、「世界観」は人生観、歴史観、国家観などのことで「日本とは何物か、どんな役割があるか」ということを考えるレベル、「政策」は「世界観」を実現するために軍事、外交、経済などさまざまな力をどの方向に向けるかという国家戦略のレベル、「大戦略」は「政策」を実現するために国家の資源をどのように配分するか考えるレベル、「軍事戦略」では現状の軍隊でどのようにして国家対国家の戦争に勝つかを考え、「作戦」のレベルではいつ、どこで戦いをするのかを考える、そして「戦術」では「作戦」レベルの戦いに勝つためにどのように戦うかを決め、最後に「技術」では戦闘に勝つためにどのような技術を用いるかということを決めるというものである。

 この階層を民間企業に当てはめると、「世界観」は何のために会社が存在するかという会長や社長レベルの仕事であり、「政策」は会社全体の方向性や業界の見通しなど社長レベルの仕事、「大戦略」は資金の配分や人事などCOOレベルの仕事、「軍事戦略」は部やプロジェクト全体レベルの売上を管理する部長レベルの仕事、「作戦」は売上の具体的な達成プランやプロジェクトの管理をする課長レベルの仕事、「戦術」は部下の育成やチームとしての戦い方を決めるプロジェクトリーダーや係長、主任レベルの仕事、「技術」はパソコンを使ったり営業に出向いたりして実際に手足を動かして働く平社員レベルの仕事に相当する。

 これを土木事業に当てはめると本四高速や新幹線を建設するという決定は「大戦略」の階層にあたり、実現のための材料や工法などが「軍事戦略」以下に続いていくということになるだろう。

 これを考えるとデータを用いて論理的、客観的に判断できるのは「大戦略」以下であって、「政策」や「世界観」は国民の意思や時の政治家の考える日本の存在意義など抽象的なものになる。

 全総や新全総が作られた頃であれば、先の大戦中で示された八紘一宇などの国家観や敗戦後の反動的な国家観、外国の存在を意識せざるを得なかったことから生まれた日本人としてのアイデンティティーや出来たばかりの日本国憲法が存在し多くの国民が程度の差こそあれ、それぞれの国家観や世界観を持っていたと考えられる。そして全総や新全総では均衡ある発展という「政策」的な目標が掲げられ、各種インフラの整備が進んでいったものと考えられる。

 一方で現在の状況を見ると各省庁がそれぞれの論理で動き様々な問題が生じており、全体の方向性を束ねる「世界観」が欠如しているように感じる。

 また、国民世論を見ても世界観や国家観を持っている人の方が稀なように感じる。これはほとんど人種交流がない島国という特性上仕方ないものかもしれないが、国民の国家観や世界観なしに民主主義国家としての存続はあり得ないのではないだろうか。

参考文献
『全国総合開発計画』 (1962).
『新全国総合開発計画』 (1969)
奥山真司 (2012) 『世界を変えたいなら一度”武器”を捨ててしまおう』フォレスト出版
『基本国策要綱』 (1940)


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