細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文⑯ 「日本の電力供給について〜化学工学・土木学の2つの視点から考える。」(2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2021-11-26 09:49:02 | 教育のこと

タイトル:「日本の電力供給について〜化学工学・土木学の2つの視点から考える。」

 現在の日本の電力供給を取り巻く環境は極めて危険なものである。経済産業省「エネルギー白書2021」によると、日本の一次エネルギー国内供給のうち84.8%が化石燃料である石油・石炭・天然ガスによるものであり、日本はこの化石燃料のほとんどを中東などからの輸入に頼っている状態である。すなわち、現状日本は「海外由来の」電力が供給される電力の大半を担っているのである。地球温暖化に向けた脱炭素化がムーブメントとなっている今の時代、化石燃料の輸出入に対する規制が強まることや、そうでなくとも中東による石油価格の急激な値上げなどによって化石燃料が十分に輸入することが出来なくなってしまうというシナリオは想像に難くないであろう。そのようなことになれば、日本はどうなってしまうのであろうか。考えただけでも恐ろしいことである。では、このような現状に対して日本はどのような対策を講じていけば良いのか。私は次の2つの対策が考えられると思う。

 1点目は、化石燃料の取り扱い技術の向上である。つまり、少ない化石燃料の資源でより大きな電力を生み出すことのできるようにするということである。日本は、既に石炭火力発電の技術が世界トップクラスであり、世界各国に比べて発電効率が高く環境にやさしい火力発電を実現している。また、日本の現状を考えると化石燃料を用いた発電から完全に脱却するのはあまりにも現実的ではないように思われる。このような世界と日本の現状を踏まえると、日本はいかに少ない化石燃料で電力を安定的に供給するのかということに注力するべきなのではないかと思う。今ある技術を磨くことによって、今後想定される厳しい事態にも耐えうるシステムの構築を目指すことが重要なのではなかろうか。もちろん、世界的な脱炭素化の流れの中で石炭火力発電施設が座礁資産化していく可能性は否めない。しかしながら、日本という国において安定した電力供給を確保するためには、脱炭素化の名の下に多額の予算をつぎ込みながら再生可能エネルギーの開発を進めるよりも技術の向上を促す方が極めて現実的で実効性のある対策なのではないかと考えられる。

 2点目は、今回の講義でも話に挙がった水力発電のかさ上げである。講義であったように、水力発電は太陽光発電の一種とも捉えることができ、日本に合った再生可能エネルギーであるともいえる。山がちな地形が多い日本としては、この水力発電所(ダム)を利用しない手はない。かさ上げを行い、発電能力を向上させることで今ある水力発電所の発電の潜在的な能力を遺憾無くな発揮できるようにするだけでなく、それに伴う治水能力の向上によって川の氾濫などの災害の防止への効果も期待することができる。また、かさ上げでは新たに水力発電所を作るよりも周辺の環境の変化を少なく抑えることができるため、合意形成を比較的容易に行う事ができ、この点からもかさ上げは現実的で実現性の高い対策であるということができるであろう。

 以上のように、日本の電力供給を取り巻く厳しい環境の中で日本がこれからも長期間の安定した電力供給を実現していくためには、現在の技術にさらに磨いていくと共に、現在ある施設をより有効に活用していくという2つの対策を同時に進めていくことが重要なのではないかと考えた。
また、これらの対策を実現していくためには、国の支援は不可欠である。いずれの対策に関しても研究費や施工費、国民との合意形成など国の支援なしでは進められない問題が多く存在することは明らかであろう。では、現在の日本の現状はどうであろうか。エネルギー政策ついては国が2050年までの脱炭素化を宣言するなど、再生可能エネルギーの開発への投資が活発になっている。もちろん、再生可能エネルギーを開発して使用することのできるエネルギー量を増やしていくことは重要である。しかし、日本のエネルギー利用の現状と現在の技術力をもとにして真剣に対策を考えるのであれば、私が述べたような化石燃料の取り扱い技術の向上や水力発電所のかさ上げ工事などへの投資の議論がもっとなされても良いように思われる。ここで問題となるのが、国の政策である2050年までの脱炭素化との整合性であるが、そもそも、脱炭素化は日本にとって本当に有益なものであるといえるのであろうか。たとえ、脱炭素化を推し進めることで世界に10の利益があったとしても日本に30の損失があるのであれば、日本は国として30の損失をしないための選択を主張する必要がある。これは私の自己中心的な考え方なのであろうか。日本ではどうも地球温暖化の恐怖や脱炭素化の素晴らしさばかりが強調されており、日本での再生可能エネルギー開発にかかる膨大な費用の問題や再生可能エネルギーへの依存度を高めることへのリスクに対する理解、議論が進んでいないように感じる。日本をより強い国にしていくためにも、現在の日本にはリスク・ベネフィットの両面を考慮した上での建設的な議論が必要なのではなかろうか。


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