「長大橋が持つのはストック効果だけではない」 中村 亮介
2022年3月18日、トルコ西部のダーダネルス海峡を結ぶ吊り橋である「1915チャナッカレ大橋」が開通した。吊り橋の中央支柱間の長さは2023mとそれまで世界一であった明石海峡大橋を抜き、世界最長の吊り橋となった。橋の名前につく1915とは、第一次世界大戦中のガリポリの戦いで、オスマン帝国軍がイギリスを始めとする連合国軍を打ち負かした1915年3月18日が由来であり、開通式が行われた2022年3月18日は107年目の戦勝記念日であった。また、開通式には大統領であるエルドアン大統領が出席するなど、トルコがこの橋を非常に重要視していることが伺える。実際、この橋の開通により以前はフェリーで約1時間30分かかっていた所が約6分で渡れるようになり、人々や物流の往来がスムーズになることで、経済活動も活発になることが見込まれ、大きなストック効果を発揮すると思われる。この橋の建設には日本、韓国、中国、イタリアの建設会社が入札し4社の競合となったが最終的には韓国の企業が受注競争を勝ち抜き、当初の計画であった2023年の開通が一年前倒しとなった。これは、韓国側が韓国―トルコ修好65周年となる2022年に合わせて開通したかった意向が反映されたと考えられる。韓国側も開通式には首相の金富謙が出席するなど、韓国とトルコの友好関係を大きくアピールした形となった。この橋は日本と韓国の建設業者によって繰り広げられているメガプロジェクト戦いの最新版であり、日本もボスポラス海峡に第2ボスポラス橋や鉄道用の海底トンネルを建設するなど、両国共にヨーロッパとアジアに領土を持つトルコに将来性があると見込んでいることが伺える。ここまで、「1915チャナッカレ大橋」について紹介したが、このような長大な橋が国家にどのような影響を持つのか考察していきたいと思う。もちろん、先程述べたように橋が完成することで人々や物流の移動がスムーズになり国の発展に貢献するストック効果があるのは当然であるが、このような長い橋は国内のみならず世界中の注目を集めることができ、自国をアピールすることができる絶好の機会と言えるだろう。また、今回のように外国の建設会社と共同で建設することで相手国にとっても自国の技術力をアピールすることができるまたとない機会と言えよう。今回トルコと韓国が自国のアピールに成功した一方、吊り橋の長さで世界一を奪われ、かつ橋の建設の受注競争に負けた日本ははっきり言って屈辱以外の何者でもないのではないだろうか。ただ、私は今の日本は自国のインフラの整備でさえも遅れている状態であるため、外国のインフラ建設の受注の競争で負けても不思議ではないと考えている。この例のように、日本の国際的地位が低下し続けているのは明らかであり、正直言って今から再び返り咲くのはかなり厳しいと言わざるを得ないと思われるが、私は日本が未だ他国と比べて優れている点があると考えている。それは、耐震性である。例えば、明石海峡大橋は建設中に阪神・淡路大震災が発生したが、橋に大きな被害は起きなかった。東北地方では東日本大震災以降地震が頻発しているが、東北新幹線は少しの地震では構造物が壊れることはまずない。このような耐震性の技術力は地震大国である日本が他国と比べて絶対的に勝っているものであり、この技術力だけは死守しなければならないと考えている。実際に、この耐震性の技術力を売りに受注競争に勝利した例もあり、それは台湾高速鉄道建設の時である。当時、台湾は欧州の高速鉄道システムを採用する予定であったが、台湾で巨大地震が発生し、大きな被害が出たことから地震に対する対策を備えた日本の高速鉄道システムを採用することになったという経緯がある。今回の「1915チャナッカレ大橋」があるトルコも地震大国であり、韓国が持つ耐震性の技術力がどれほどあるのかは知らないが、技術力で勝る日本は耐震性を全面的に押し出していけば受注競争に打ち勝てることが出来たのでないかと考えている。まとめると、長大な橋は自国をアピールする絶好の機会であり、今回の例で日本は屈辱的な結果を被ったが、それは日本がインフラを軽視し続けたツケと言える。また、現状日本が他国と比べて勝っている技術力は耐震性であり、この技術力を国内外に積極的にアピールしていかなければならないと考えている。
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