Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

アマリアの別荘

2012-05-11 00:08:13 | 私の日々
「アマリアの別荘」パスカル・キニャール 高橋啓訳

本のタイトルから作者の名前、そして翻訳者の名前と続く響きが、
何と心地良いことだろう。
原題は"Villa Amalia" Pascal Quignard

女の独り言から始まるこの小説、最初の一頁を読みだした途端に、
ぐいぐい惹きつけられていく。
ある家を覗き見する女、その時に突然声を掛けてきた男は、
彼女の子供時代を知っている。
女がなぜその家を見ていたか、二人がその時、どんな状況にいるかが、
読み進む内に分かってくる。
母親を亡くして家を整理するために里帰りしていた男の家に招き入れられる。
「彼は居間に入ると、彼女の近くのフロアスタンドに明かりをつけた。
それから彼女を取り巻く小さなランプに次々と明かりを灯していった。」
主を失ったフランスの旧家の古色蒼然とした様子が目の前に浮かんでくる。

それから理路整然として物語は進んでいくが、
タイトルの『アマリアの別荘』がようやく出てきた辺りから、
急に語り手が変わり、それまでの流れが一気に崩れていく。
それが作者の意図したものなのか、作風なのか、
失敗なのかはわからないが読み手は翻弄される。

主人公がピアニストで古典音楽を復元する作曲家でもあること、
そしてその分野において著名な人物でもあることも明らかになってくる。
音楽はこの作品の核となっているようだが、あくまでもそれは背景に過ぎず、
決して表には出てこない。

現実から急速に逃避してイスキア島にまでたどり着いた主人公は、
そこで今までにない輝いた生を謳歌する。
しかしそれは一瞬に過ぎず、その後は厳しい現実へと引き戻される。
死の影、老い、孤独が描かれているが、それは暗くても不快なものではなく、
潔く甘美なものに思えてくる。
身勝手な人物もたくさん登場するが、反対にそれぞれの持つ個性に魅了される。

最後は年老いた彼女が毅然と生きていく姿で物語は終わる。

訳者は男の作家が書き、男の自分が訳したこの本の女主人公アン・イダンに、
はたして読了した女性は共感できるか聞いてみたいという誘惑に駆られる、
と後書きに記しているが、余りに我が身と重なる部分を見つけてしまい、
読み終えた今、しばらくこの作品の世界から戻って来られない気さえしている。


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