Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

5日目のセーラム

2010-09-27 02:47:54 | MAへの旅
画像はセーラム市のピーボディー・エセックス博物館前にて

朝起きて、下の階に下りて行くとジョージが朝食を食べていた。
ミルクを掛けたシリアル。
「朝ご飯食べる?」と聞くので、頷くと立ちあがって用意し始めた。
「食べているところだったんでしょう・・自分でするから大丈夫。」
と答えたのに、コーヒーとマフィンを用意してくれている。
「バナナも食べる?」と聞くので「では半分だけ。」
半分に切った物を4分の一だけ綺麗に皮を剥いてお皿に盛ってくれる。
このセンス、嬉しい。

ルースが戻ってくると自作の絵を3枚差し出し、「この中でどれがいい?」
海岸の海と空を描いた抽象的な作品、海と船、海岸線の具象、ポップな花の絵。
しばらく迷って海と空の抽象画にした。
今、家のリビングに飾ってあるが、紫とグレーのトーンの中に海と空の合間にイエローの光り、
空には白も混ざり、嵐の前とも後ともとれる。
改めてこの絵をじっくり観てみると、
穏やかな状況が厳しく変わる、あるいは今は荒れていてもこれからは静寂が待っている、
どちらとも受け取れる。

ルースはこの絵の他にお魚の柄のペーパーナプキン、お揃いの柄のバターナイフをプレゼントしてくれた。
S市の風景が入った可愛いペーパーでラッピングされている。

ジョージと昨日の音楽の話になる。
ツェッぺリンのファンだったと知ったので、「この曲、知っている?」
と私は"Stair Away To Heaven"を口ずさみ始めた。
家で夫にこれをやっても絶対に何の曲か当ててくれることはない。
「なんだよ、それ? 全然わからない。」とか言われてしまう。
ジョージは席を立つと戻って来て、この曲のCDをかけてくれた。

その様子を動画でとってあるが、この家の雰囲気とこの曲がとても合っている。


ユダヤ教の話になる。
「映画でパルミツバ(12.3歳で迎える成人式のような儀式)の前に少年が全然準備ができていなくて、
ラビ(司祭)がイライラしている、そんなの観たことあるわ。」
「ああ、何の映画だったっけ。それ観たな。いつもそうなんだよ。
パルミツバ、その日までに旧約聖書の詩編の暗唱とかをさせる練習をラビと一緒にするのに、
子供はいい加減で間に合いそうもなくなってきて。」

「セックス&ザ シティーの中でユダヤ教の男性と結婚しようとした女性が、
ラビに認めてもらって改宗するのにとても苦労するシーンがあったわね。」
「娘の二ーナの夫も彼女と結婚するために一年間も勉強したんだよ。」
「二ーナって愛されているのね。」
「彼は二ーナが好きなことをするのに協力してくれて、ほんとうにいい夫だ。」
どこかにもそんな夫がいるような気がしてきた。

そう言えば、二ーナは今、高校で化学を教えているが、生徒にスペイン語圏の子供が多く、
英語では足りないと思い、手っ取り早くスペイン語を学習したくて、
数年前に一ヶ月、語学学校に行くためにパラグライに滞在したと言っていた。
ご主人は犬の世話のために、また余り旅行好きじゃないのでお留守番。
私も猫2匹を二年続けて19歳で見送ったが、猫の晩年は置いていくのがかわいそうで
旅行をずっとしなかったことなど話した。

その他に私がかつては夫と一緒に働いていたが、一生懸命働けば働くほど、
夫婦仲が悪くなり、離婚することまで考え始めてしまうので、
とうとう一緒に働くべきではないと気づいたことなども話すと、
受けを狙ったわけではないのにルースと二ーナは爆笑している。

二ーナとは子供の話にもなり、「そのうちできるかと思っていたら、あっという間に44歳。
いなければそれも人生と思ったの。」と彼女が言うので、「その気持ちわかるわ。」

イスラエルのテルアビブ、ルースの弟が住んでいて、家族それぞれで何回も訪問していて、
「Aもぜひ行ってみて。弟に面倒見させるから。」とまで言ってくれた。

その日はお昼からO区が行うセーラム市に対してのお礼のお別れパーティー。
私は受け付けの担当だったが、その前にホームに入っているルースのお母様を訪ねることになる。
ルースのお母様は確か104歳。
「そんな年のおばあさん、会う機会もないでしょ?」
お母さんはご主人に亡くなられてから最初は一人で住んでいたそうだ。
朝の9時にはルース、夜の9時には彼女の妹さんが毎日電話する決まりになっていたそうだ。
それがある時、電話に出なかったのでルースは心配でびっくりして家に駆け付けたら、
お母様は単に朝早くから出掛けただけだった、そんなこともあり、
年齢も年齢なのでホームに入ったと聞いた。

そこは私の想像していたところとは、全く違っていた。
ホテルの上階がケア付きホームになっている。
そこのペントハウス。
お母様は身ぎれいにされて髪も整えられて待っていて下さった。
ホテルで食事をしたり、ルームサービスを頼んだり、自分でお食事も作れる。
お掃除やお買い物もホテルの人に頼める。
そして数年前から始めたと言う油絵がお部屋にいくつも飾ってあった。


そこで私はルースの亡くなったお父様の書かれた本をいくつか見せていただいた。
何とミステリー作家で日本の早川書房からも翻訳がいくつか出ている。
絶版になっている物もあったが、まだ買える本もあったので、
帰ってから早速オーダーした。


見送りのパーティーが終わり、別れの時が来た。
私はロスやロンドンでももっと長期間のホームステイをしているが、
別れ際、さほど感傷的にはならなかった。
それなのにたった数日一緒にいただけなのに、二人とハグすると涙が溢れてきた。

寡黙だけど気持ちの優しいご主人、アートの製作に励みつつ娘や母親、孫を想い、
忙しい日々の中に日本からのゲストを精一杯もてなしてくれたルース。
今も壁に飾った彼女の作品を見ながら、この家族達のことを想っている。