Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

Eric Benet - Femininity

2009-08-07 01:10:57 | エリック・ベネイライブ(日本以外)
「それはなんでもいいそうです」少年がとりついだ。
「マーヤーにすぎないからです」
「マーヤーってなんだい」
「この世の仮のすがたです」と少年はこたえた。
「でもそれは、幻影にすぎないのです。大事なのはアトマンだけです」
「それじゃ、アトマンってなんだ」
僕の無知に少年はにっこりした。
「The soul. 個人の魂です」
アントニオ・タブッキ著 須賀敦子訳
『インド夜想曲』より

私はその場所で半ば、呆然と立ち尽くしていた。
周囲の熱狂は凄まじく、客席のエネルギーは最高潮に達していた。
エリック・ベネイはそれを受けて、どんどん勢いがついていく。
「Ladies、スクリームしよう!」
女性達の金切り声が場内にこだまする。

「この中にブラザーはいるのかな?」
「いるよ!」"Right here!"
エリックは、男性に"Femininity"と歌うように求める。
「いいね。でも、Bro.、もっと力強く歌って!」
この日、この時の1stショウ、どれだけの男性がいただろうか?
中央3列目にスタンディングしていた私の視界に入ったのは3人だけ。
最初は小さな歌い声だった。
その声が、より大きなうねりとなって室内全体へと広がっていく。
そして存在を消していたブラザー達は自信を取り戻し始める。

コーラスの渦の中で、女性にも歌うように要求する。
ラウンジ全体がエリックのクワイァーとなる。
エリック・ベネイの仕掛けた演出に皆がはまっていった。

この時、私は会場の人々と一体になっていたわけではない。
皆に合わせて詩を口ずさんでいたが、それは口先だけだった。
いったい何が起きているんだろうと、これからどう展開していくのかと、
わくわくすると言うよりも、一抹の不安のような物を感じながら、
取り残されたようにその場所にいた。

エリックは会場を縦横無尽に走り回り、観客を先導し、歌の指揮をする。
会場が一つになっている瞬間の中で、私の中ではどこか入り込めない、
立ち入れないという矛盾が生じていた。

"Femininity"
アメリカのファン達の間では最も人気の高い曲。
Eric Benetも、自分の曲でどの歌が好きかと聞かれて、
「どの曲とは言えないけれど、観客に喜ばれるのは、"Femininity"」
と言っている。
この曲の歌詞にアメリカのファン達は強く惹きつけられる。

ルームメートで共にエッセンスのエリックベネイのライブを観たリサに、
「時々、自分がほんとうにエリックの歌をどこまでわかっているのかって、
疑問に思うことがあるの。
歌詞の深い意味まで理解しているとは、思えないし。」

優しく微笑みながらリサは答えた。
「あなたが感じるままでいいのよ。
音楽には、言葉を超越する魂があるはずだから。」

Eric Benet - Femininity