獣の奏者
上橋菜穂子
講談社
を一気に読み終えた。
前に「精霊の守人」の読んだが、似た
イメージである。
大人の童話と言えると思う。
ストーリーは、主人公の少女エリンが成長して
展開されるが、どうしてどうして、哲学的だ。
特に、個人的に衝撃的な文章に出会った。
これである。
クリウは書物を開き、ぱらぱらとめく
ってみせた。
「これは、わたしがいま書いている本。
二つの隊商都市が辿ってきた歴史を比較
しているの。面白いわよ。こういう作業
をすると、なにが街を動かし、国を動か
すのか、よく見えるわ。
長い時の流れの中で多くの人々がくり返
してきた選択と、愚行。そういうものを
見つめていると、人というものが、どれ
ほど多様で、でも、どれほど似ているか
が見えてくる」
クリウの話を聞きながら、エリンは胸の
底が疼くような感覚を味わっていた。
子どものころに、よく感じた衝動だった。
なにか、自分がこれまで気づかなかった
こと- この世を動かしている、目に見え
ぬ糸に連なるなにかが、すぐそこに見
えそうになっているという、あの胸が熱
くなるような予感。
「わたしは┄┄」
思わず、エリンは口を開いた。
「生き物の理を学んでいます。この世に
生きる膨大で多様な生き物が、どうして、
このように在るのか知りたくて」
そっとクリウの本に触れながら、エリン
は言った。
「あなたがいま、おっしゃったことは、
人という生き物の、それですね」
クリウの目が輝いた。
以上。
実は、わたしの気持ちのなかにも、こ
のような感情が潜んでいる。
「生き物」を「人生」に置き換えても
いいし、「人」に置き換えてもいい。
十分に正確に言い表せないが。
いずれにせよ。
このような真摯な心持ちを、登場人物
に託して、語る作品は、わたしの読む
本の領域が狭いのか、今までの記憶に
ない。
小説がメルヘンっぽいので、深刻に
ならないのだが、それでも、人の
人生を語る小説だと思う。
できれば、政治家に読んでもらいた
いものだ。
今、北朝鮮とアメリカが挑発し合って
いるが。
登場してくる王獣と闘蛇が「核」にも
思えたりして、意味深な気分になるが。