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リタイアーのよもやま話

いまだ世界を覆い続ける帝国主義の病

2009-08-13 10:27:45 | 政治

Newsweek日本版 2009 7・15に大変興味深い記事があった。


いまだ世界を覆い続ける帝国主義の病


国際政治

高いコストと責任を背負い込み出口が見えないままあり地獄へ覇権拡大の失われた理念と現実


クリストファー・ディッキー(中東総局長)


若き日の作家ジョージ・オーウェルは、「1984年』や『動物農場』などの作品を送り出す以前の1920年代、イギリスの植民地だったビルマ(ミャンマー)に大奥帝国の警察官として赴任していた。

このときビルマで「帝国の汚れた所業を間近で目の当たりにした」とオーウェルは述べ、「白人」が「現地人」を抑圧していることを嘆いている。

しかし最も困惑したのは、大英帝国が抜け出せない罠にはまっているように見えたことだった。

白人は暴君になれば、自分の自由を壊す羽目になる」とオーウェルは随筆集『像を撃つ』で書いて
いる。

「危機が起きるたびに『現地人』から期待されるとおりのことをしなくてはならなくなる」
 
大英帝国だけではない。20世紀の歴史を通じて数々の大国が「帝国」という名のあり地獄にはまり、
莫大な資源を失い、国の威信を失ってきた。

帝国を築いた動機が征服と支配であろうと、民族解放や平和維持、国家建設であろうと結果は同じ。

19世紀のアメリカの軍事戦略家であるアルフレッド・T・マハン海軍大佐が言うところの「外国の拠点」を確保した西洋の国は、得てして自国の利害に反する行動を取る羽目になった。

「領土」を手放したくない

こうした「帝国の宿命」を思い知らされているのがアメリカのオバマ政権だ。

09年1月に誕生したときは、イラクからの撤退とアフガニスタン情勢の安定化(目的は将来の撤退に道を開くこと)を約束していた。
 

しかし、ジョージ・ケーシー陸軍参謀総長は最近、米軍のイラク駐留がさらに10年延びる場合に備えた計画を策定してあると述べている。

11年末までにすべての部隊を撤退させると決まったのに、なぜこういう事態になったのか。
 
 見過ごせないのは、アメリカの支援により権力を掌握したイラクの政府が駐留延長を望んでいるということだ。

アディル・アブドルマハディ副大統領は最近、米軍が撤退した後にどうなるのか「非常に不安だ」と発言。アメリカに駐留の延長を申し入れる可能性は十分あると述べている。
  
今回のように、帝国が自発的に国外の領土や影響力を手放そうとするのは珍しい。

大英帝国は「(植民地)『文明化するという使命』を果たす上で長期間の占領が欠かせないと考えていた」と、ハーバード大学のニーアル・ファーガソン教授(歴史学)は論じる。

ファーガソンは03年にアメリカのイラク侵攻を支持したが、アメリカが早々と引き揚げたがるので
はないかとその時点で早くも心配していた。

「過去にイギリスがイラクのような国に介入したときは、撤退のための出口戦略など用意しなかった」と、ファーガソンは書いている。

介入先の国が(イギリスの考える)文明国の基準を満たし、法の支配と自由市場が実現して初めて、任務が完了すると考えていた。
 
相手を意のままに動かしているのは「帝国」なのか、その「臣民」なのかというのがオーウェルの疑問だったが、実際は双方とも不本意ながら関係を続ける状況がしばしば生まれる。

植民地や保護領、属州などの人々は外国の支配に激
しく反発しつつも、「宗主国」の力なしでは暮らしていけないと感じ始める。

帝国の側は、軍事的・経済的・政治的コストを重荷に感じつつも、国外の領土や影響力を手放したくないと感じ始める。
 

こうした心理は今日の世界にも残っている。82年、イギリスは本土から遠く離れた南米のフオーークランド諸島(現地名マルビナス諸島)の領有権を守るために、アルゼンチンを相手に全面戦争に打って出た。

アメリカも1898年のスペインとの戦争に勝って獲得した領土の一部を現在も保有し続けている。グアム、プエルトリコ、それに収容者の虐待疑惑で問題になったキューバのグアンタナモ海軍基地などがそうだ。
 
この点で最も興味深いのはフランスだ。南太平洋のフランス領ポリネシアやニューカレドニアに始まり、北大西洋のサンピエールミクロン諸島まで、世界地図上の幅広い場所に海外県や属領を持っているフランスは、文字どおり太陽の沈まない国。

フランスが最も長く国境線を接する国は、ドイツでもスペインでもない。

南米の仏領ギアナの隣国であるブラジルだ。


「(海外県や属領を保有することの)目的は、わが国の影響力を拡大すること」だと、フランス外務省のある高官は非公式の場で述べている。

本当にそうだろうか。国際的な影響力を押し広げるのが狙いであれば、対等な関係に基づいてビジネスライクな条約を結ぶほうがどう考えても得策だ。

実利的な損得は度外視?

実際、そうした動きもある。この5月、フランスはアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビに軍事基地を開設した。アブダビを守るという意思表示でもあるが、この基地はそれ以上にフランス製の高価な兵器を中東諸国に売り込むためのショーケースの役割を果たしている。

アブダビは過去も現在もフランス領だったことはないが、安全保障上の損得を計算して基地を受け入れた。基地の費用もアブダビが負担している。
 
一方、カリブ海の海外県グアドループとマルティニクは昔ながらの海外領土だ。

フランスの正式な国土の一部で、フランスの納税者
の金が大量に流れ込んでいるが、このところ不穏な空気が広がり、ニコラ・サルコジ大統領の訪問予
定が再三延期されている。

といっても、地元の人々は独立を求めて戦っているのではない。フランス政府からもっと潤沢な支援を引き出すことが戦いの目的だ。
 
こうした海外領土の人口はすべて合わせて約260万人。面積は12万平方キロ。フランスが世界2位の広大な排他的経済水域を主張できるのは、海外領土のおかげだ。

海外領土は鉱物・漁業資源も豊富だし、過去には核実験場にもなった。宇宙開発のためのロケット発射基地も海外領土にある。
 
このように、フランスが海外県や属領から多くの恩恵を得ていることは事実だ。しかし、それと引き換えに背負い込むコストや責任はもっと大きい。

 『大フランスーーフランスの海外拡張の歴史』という著書があるシドニー大学のロバート・オルドリ
ッチ講師(現代フランス史・植民地史)が指摘するように、「80~90年代までは(海外領土を持つこ
とのメリットを唱える議論に)それなりの説得力があると考えられていた」。

だが、今や海外領土はもっぱら国家財政の金食い虫と見なされている。仏政府の出費は推定で年間167億ユーロに達する。

「ある意味で、一家に伝わる家宝の装飾品のようなもの」と、オルドリッチは言う。「金銭的な価値
は恐らく大してないが、ある種の感傷的な価値がある」確かに感傷的だ。

80年代後半のニューカレドニアは全面的な独立闘争の瀬戸際にあった。

今春には物価高に抗議する暴徒による社会不安が、カリブ海のグアドルーープから地球を半周してインド洋の海外県レユニオンに伝染した。
 
フランス政府は意に介さず、今年3月には、マダガスカル島とモザンビークの間に浮かぶ小島のマヨットをフランス共和国101番目の県にすると決めた(11年に正式な海外県となる)。

 島民はフランス本土の住民と同じように税金を払い、福祉関係の給付会をもらう(主に後者だ)。
国会に議員を送り、フランスのすべての選挙で投票権を持つ。彼らも「ヨーロッパ人」と見なされる
から欧州議会選挙にも投票する。

そして最終的に、フランスとEU(欧州連合)のすべての法律と規制に従うことになる。
 

マヨットを海外県にする表向きの理由は、住民が望んでいるからだ。74年にコモロ諸島全体で住民
投票が行われ、マヨット島以外は独立に賛成した。マヨットはフランス領に残り、今年3月の住民投
票では圧倒的多数がフランスとの関係強化を望んだ。
 
ミシェル・アリヨマリ仏内相はマヨットをめぐる出来事全体が、「わが共和国の結束と永遠に続く民主主義とを築く価値観を再確認させる」と美辞麗句を並べた。

建設されない仏軍基地

「文明化という使命」は確かに続いているが、文化的に異常な状況を生むかもしれない。

マヨットの約22万の住民の大半はイスラム教徒で、一夫多妻が広く行われているが、正式にフランス領となれば
法律で禁止される。
 
コモロ諸島内からの不法滞在者の問題も深刻だ。マヨットの住民の約3分のIは不法滞在者とみられる。

妊婦は子供を「フランスで」産み、フランスの市民権を与えるために命を懸けて海を渡る。
 
出生率はマヨット全体で高く、15年後には人口が30万人を超える勢い。島最大の病院の産科はフラ
ンスで最も忙しく1日20入が生まれる。子供たちが成人する頃の雇用情勢は厳しいだろう。

毎年40‘00人が雇用市場に入り、仕事に就くのはわずか1000人だ。さらに、マヨット以外のコモロ諸島を統治するイスラム国家のコモロとの関係がある。

おそらく世界で最も不安定な政府の1つであるコモロは、現在もマヨットの領有権を主張。国連もコモロヘの帰属を支持している。
 
実際、フランスがマヨットの領有を主張する理由はほとんど非現実的だ。島のバニラビーンズとイランイランの精油を搾取したいのだという左派の非難も、あながち皮肉には聞こえない。

本当の理由が、モザンビーク海峡における海軍の戦略上の要所だからというのなら、70年代に計画れたフランス軍基地がいまだに建設されていないのはおかしいだろう。

 19世紀のマハン海軍大佐の世界戦略において筋の通っていた主張も、今日ではあまり論理的ではな
い。

ミサイルと核兵器、そしてテロリストがインターネットに触発されてカッターナイフを振り回す
時代に、政治的影響力を知らしめることは、軍事力を知らしめることと同じ程度の意味しかない。
 
帝国の理念にはもはや説得力がなく、帝国の現実は既に信用を失っている。問題は、従来の帝国主義者に出口戦略がないだけではない。

出口が見つからない場所もあるということだ。


以上が、その記事である。


この記事の中で、ジョージ・オーウェルが出てきたのは、びっくりした。

非常に面白い記事だと思った。

わたしたちが若い頃、帝国主義という言葉がはやった。そして、使った。

当時のアメリカは、絶望的なほど、強大であった。

しかし、9・11のテロ以降、アメリカのやり口が素人にも、わかるように語られることが多くなった。

このような資料に出会えて、わたしたちがなかなか知り得ない帝国主義の暗部をかいま見るような気がして、面白いと思った。