私的図書館

本好き人の365日

十二月の本棚 『愛をみつけたうさぎ』

2008-12-21 20:33:00 | 本と日常
あなたを愛してくれた人の名前を挙げて下さい。

照れないで。

正直に。

では次に、あなたが、愛した人の名前を、思い浮かべて下さい。

ゆっくりと。一人一人の顔を思い浮かべながら。

いいですか?

それが、あなたの生きて来た証。

あなたの人生です。

あなたが、大切にしなくちゃいけない、かけがえのないものです。

その人たちはいま、どこにいますか?

周りにいる方。幸せですね。

遠くに去ってしまった方。辛いですね。

でも、もし、もし万が一、誰も愛していないという方がいらっしゃたら。
自分以外の人間を信用できないという方がいらっしゃたら、ひとことだけ言わせて下さい。

「あなたには、がっかりです」

自分のせいじゃないって?

そんな人には、この本を紹介しましょう。

アメリカに住む女性作家、ケイト・ディカミロさんが文章を書き、ロシア生まれのバグラム・イバトーリーンさんが素敵な挿絵を描いた本。

*(キラキラ)*『愛をみつけたうさぎ エドワード・テュレインの奇跡の旅』*(キラキラ)*です☆

主人公、エドワードは、陶器でできた”うさぎ”。

彼は、アビリーンという小さな女の子に愛され、とても大切にされていました。

たくさんの素敵な洋服。
長い耳がちゃんと外に出るように作られた特注の帽子。
そして、毎朝アビリーンがねじを巻いてくれる、彼専用の金の懐中時計。

食事の時は家族と同じように食卓につき、寝る時もちゃんとパジャマに着替えて小さなベットに横になる。

…ただ、エドワードの絵の具で塗られた瞳は閉じることができなかったけれど。

エドワードは自分のことを、非のうちどころのないすばらしいうさぎだと思っていました。

それに比べて人間たちのしゃべることはくだらないことばかり。

毎日世話をしてくれるアビリーンのことも、エドワードは実のところ愛していませんでした。

それより、ガラス窓にうつる自分の姿を眺めている方が、エドワードは好きだったのです。

そんな日々ののち、アビリーンの一家が船でロンドンに行くことになります。

もちろんエドワードもいっしょ。

夜、一人だけ家に残ることにしたアビリーンの祖母が(この人がエドワードをアビリーンに贈ったのです)、エドワードに顔をよせて、こうささやきます。

「おまえにはがっかりした」

陶器でできたうさぎのエドワード。

腕や足は針金で体とつながっているので、自由に動かせますが、もちろん自分では動けません。

そんな彼が、アビリーンと引き離され、たった一人で海の底に沈んでしまった時、初めて本物の感情を味わいます。

エドワードはおびえていたのです。

他人とはなんでしょう?

このお話には、様々な人間が登場します。

子供に気を使いながら暮らしている老夫婦。

住所も持たず、放浪している渡り人の男。

自分自身をコントロールすることができない父親。

病気の妹を看病し、懸命に働く小さな兄。

服はボロボロになり、ゴミに埋もれ、汚れていくエドワード。

自分で動くことのできない陶器でできたうさぎのエドワードは、そうした人々の手から手へと旅を続け、いくつもの出会い、そして別れを繰り返します。

その中には、彼を愛し、大切にしてくれる人もいました。

そうした人たちを失うたびに、エドワードは痛みを感じます。

もう一度会いたい。
もう一度抱きしめて欲しい。

「愛なんてつらいだけだった。ぼくはこわれちゃった。心がこわれちゃったんだ」

そして、大人の男に足をつかまれ、乱暴に振り回された陶器でできたエドワードは、頭をぶつけて…

自分の姿を見ているだけで、他人に興味を示さないエドワードが、陶器でできているというのが、他人を拒絶しているようでとっても象徴的です。

陶器の中身はカラッポ。

どんなに美しく着飾っても、どんなに高価な時計を身に着けていても。

何かを失うというのは辛いものです。

でも、失いたくないから、傷つきたくないからといって、他人を物のように扱ったり、自分だけは特別だと思い込んだり、他人を手段として利用したりすのは、時間の無駄。

もったいないことだと思いませんか?

私はこのお話を読んでそう思いました。

どんな会話でも、お天気の話題でも、その日食べた物でもいい、ちゃんとしゃべっている人の顔を見てその人の話を聞く。

しっかり受け入れる。自分の心を開いて。

何の話題かが問題じゃない。
それが、自分と相手とのつながりなんだ。そういうことの積み重ねが大切なんだと、教えてもらったような気がします。

服がシワになることを気にして、人間の会話になんて興味のなかったエドワードが、ボロをまとい、たき火を囲みながら、渡り人の歌にその長い耳を傾ける。

ちゃんと話を聞く。

いつまでも、いっしょにいられるとは限らない。今いる時間はほんとうに奇跡のような時間なんだ。同じ時間を過ごしているというのにもったいない。

もし、もし万が一、誰も愛していないという、うさぎのエドワードのような方がいらっしゃたら、傷つくことを恐れないで。

自分の心を開いて信じることです。

「ぼくはもう愛されなくていい。愛さなくていい。だって、どっちもあんまりつらすぎるよ」

「あなたの勇気はどこにあるの?」

「あなたにはがっかりしたわ」

陶器でできた、うさぎのエドワード・テュレインがたどる奇跡の旅。

もうじきクリスマスですね。

この機会に大切な人に、その気持を伝えてはいかがでしょうか☆



あなたは奇跡を信じますか?










ケイト・ディカミロ  著
バグラム・イバトーリーン  絵
子安 亜弥  訳
ポプラ社