私的図書館

本好き人の365日

八月の本棚 5

2003-08-25 00:24:00 | 新井素子
え―、ぬいぐるみというのは、一見、「無生物」のように見えますが、実は、生き物なのです。

えっと、(のっけからとんでもない文章でゴメンナサイ)というわけで、今回ご紹介する本は、新井素子の『わにわに物語』です。

ぬいぐるみの、ぬいぐるみによる、ぬいぐるみのための物語。

これだけ書かれても、何のことだかわかりませんよね?
この本を読むには、ちょっとした前知識が必要なんです。
まず、上の紹介自体、実は正確ではありません。作者が新井素子だと思われたでしょう?
そうではない…というかなんというか。

厳密に言うと、この本は、”わにわに”という、実在するぬいぐるみがしゃべった内容を、同居人である新井素子が、口述筆記というかたちで書いた物語、というのが本当のところです。

…何を言ってるのかって? 今から説明しましょう。(私も自信がないけど…)

新井素子はぬいぐるみを「生き物だ!」 と主張しています。
確かに、肉体的な成長はしないし、新陳代謝もしない、自力で動くことさえできないけれど、だけど、それでも、「生物」なんだって。持ち主である人間の愛情を食べ、愛情によって支えられ、そのかわりに愛情と目に見えないパワーを提供してくれる、極めて精神的な生き物。

え―、本人もこうした意見が、ぬいぐるみを知らない人には奇異に聞こえるだろうことは、重々承知しているようです。

確かに、ぬいぐるみに話しかける子供はいますよね。
少年時代、よく近所の女の子におままごとに付き合わされたんですけど、その子は立派なドールハウスを持っていて、人形もたくさん持っていました。無生物に愛情を持つ気持ちはわかります。本当のところ、相手が「生物」だろうが、「無生物」だろうが関係ないですよね。大切なのは、同じ時間を共有しているということ。

念のために言っておきますが、この「ぬいぐるみ生物説」は小説の中だけのお話しではありません。こうした主張は他の著作の中でもくりかえされています。
あまつさえ、毎回その「ぬいぐるみは生き物だ」っていう『説明』をすることに、本人もそろそろ嫌気がさしている気配さえする。
曰く、「未だにぬいぐるみが『無生物』だっていうのが、常識だからしかたないけどね~☆」

未だにって、あんた、普通はそうなの!

新井さん家のぬいぐるみは、やたら個性的で、よくしゃべります。(…もしかして他の家でも?)、中には無口な奴や(普通そうだろ)、簡単な言葉しかしゃべれない知性の低いぬい(注:ぬいぐるみの短縮形)もいるみたいですけど。

ぬいぐるみなりに、夢や野望(!)もあるみたいです。
結婚するぬいがいたり、親バカのラッコ(名前は『男の気持ち』。娘の名前は『娘の気持ち』)のぬいがいたり。人間の食べ物を口に押し込まれた「武勇伝」を持つぬいがいたり…

どうか、世間一般の常識をお持ちの方は、「あとがき」からお読みになって下さい。この「ぬいぐるみは生き物だ!」という主張を読んでから本編に入ると、より理解が深まります。(…何の理解だか)

アレ? 本編の紹介まだしてませんよね?

ま、たまにはこんな回があってもいいでしょう。
実は、調子に乗って、続編『わにわに物語Ⅱ』という本も出版されていたりします。

お気に召しましたら、どうか探してやって下さい。

















新井 素子  著(?)
講談社