<1月10~13日>
かもめそっくりの声で鳴く鳥が幾羽も上空を舞う朝の爽やかなガンジス
河を散歩した後、路頭の10ルピーグッズショップで土産を買い込む(し
めて190ルピーと、安さのあまりつい19品も買ってしまった)。途上、
布地やさんで、目が覚めるように美しいコバルトブルーのショールも目
にしたので自分と姪用に二枚求める(各140、150ルピー、ついでに100ル
ピーのシンプルな白も土産用に)。
いざ対面座席の大型オートリキシャに乗って(片道200ルピー)、ハリド
ワルから24キロさかのぼったリシケシに出発。途上、シバ神の巨大な銅
像のある広場や(メインガートから見えて気になっていたのだが、ちょ
うどいい案配に通過したので停車させ立ち寄ったのだ)、リシケシ側に
近い、花園の美しい白大理石張りの寺院もちゃっかり観光。
お昼過ぎ、ワールド・ヨガキャピタルと称される世界的に有名なヨガの
ふるさとにたどり着く。前回はヨガニケタン・アシュラムの、バルコ
ニーから河を見下ろす、絶好のロケーションの部屋に泊まったのだが、
なんとツイン600ルピーと値上がりしており、二軒隣の「オムカラナン
ダン・ガンガー・サダム」ホテルに、お湯シャワー&トイレ室付きの
ツインを300に値切って泊まることにした。
ホテルは新築まもないようで、清潔だった。地階の部屋でバルコニーは
ないが、窓からガンジス河が望め、部屋を出てすぐの河に面した整備さ
れた裏庭には椅子とテーブルが置かれ、くつろぐにもってこい。ハリド
ワルに比べると、水量の少ない、峡谷を流れるガンジス河は穏やかで、
左手にシンボルの壮麗なつり橋(ラム・ジュラ)、背後に青い山並みが
連なっており、以前と変わらぬ神秘的で静謐な雰囲気。ハリドワルのガ
ンジスは街中の大河だが、ここは山間の清流という感じで、よりガンジ
スの源流に近くなったことを思わせる。
思ったほど寒くなく、午後の河は、乳青色にまどろんでいた。
ランチは小さなフェリーで向こう岸に渡り、超有名レストラン、「チョ
ティワラ」(童子の意でハリドワールにもブランチがある)で菜食ター
リー。以前同様、二軒並びの大店の前には、広告塔の、童子を装った、
弁髪とサフラン色の腰巻をまとい厚化粧したコミカルな男性がましまし
ており、父子をその前に立たせた私はすかさず記念撮影。
二階のゆったりできる座席コーナーに上がり、親二人は通常ターリー、
45、息子はスペシャル75ルピーをオーダー、前回やはりここに来てまず
かった記憶がありながら、つい有名店の名に惹かれてまたしても同じあ
やまちを犯してしまった。通常ターリーは値段に比して中身が貧しく、
スペシャルは前日ハリドワルで食べたしつこい定食とほとんどメニュー
が変わらず、息子は不満顔。唯一焼きたてのチャパティだけはギーが
載っており、ふかふかでおいしかったけど。
食後、付近を散歩、以前見た覚えのある丘の上のアシュラムまで。渡し
舟がオフシーズンで回数が少なく、ラム・ジュラつり橋を伝って戻るこ
とになった。高所恐怖症の私はひやひや。前回は舟のみで一度も渡った
ことはなかったのだ。しょうがないので、下を見ないようにして夫の腕
につかまってそろそろと渡る。いくらモダンな鋼鉄製とはいい、バイク
などが駆け過ぎるとき、ジュラの名が意味するごとく、「揺れ」るので
ひやり。どうにか渡り終えて一息。戻ると、もう夕刻。ガンガーアラー
ティがここでも始まったので、ホテルの脇のオムカラナンダン・ゲート
に出て、向こう岸の寺院が火に彩られる様子を鑑賞、ハリドワルに比べ
ると、静謐で落ち着いた雰囲気。火舟もこちら側は数そうながされるの
み。前回来たときは、この河を崇める儀式はそう大々的に催されてな
かったような記憶があるのだが、7年ののちにリシケシもすっかり観光
化、インド人団体客の姿もやけに目立ち、新設ホテルも。ハリドワルに
倣って、物売りが観光客目当てにディーポ葉舟を売り出し、広まったも
ののようだ。
ディナーは近くの「マドラスカフェ」で。以前25ルピーだったターリー
が60ルピーに値上げされ、全品とも高めになっており、びっくり(宿泊
先でもルームサービスの食事があり、ターリーはやはり60ルピーだった
)。が、ナンとカレーはまあまあおしかったようで、父子は満足したよ
うだった。
翌日はオートリキシャで2キロ先にあるもうひとつのつり橋、ラクシュ
マン・ジュラへ(片道50ルピー)。前回は息子の寄宿舎試験ついでに一
日寄っただけなので、ほとんど観光らしいことはしておらず、ここは初
めて。またしても苦手なつり橋を渡らされる羽目に陥り、冷や汗物でど
うにか渡りきった後、対岸の14階建ての寺院を参観。小部屋に多彩なヒ
ンドゥの神々が祀られており、天井から垂れているベルを鳴らしながら
お参りする。場所によっては土産物屋になっていたり、シャッターが閉
鎖されたままになっている小部屋も。8階まで昇ったところで親二人は
ストップ。息子がさらに塔のようになった6階分駆け上がるのを下から
見下ろしていた。バルコニーからの眺望は抜群で、壮麗なカーブを描く
つり橋や、その真下の峡谷の間を縫って蛇行するガンジス、背後に迫る
青い連山、息もつかせぬパノラマビュー。
観光地化されているラマ・ジュラ付近に比べると、この界隈は外国人好
みで狭い坂道の両側に素朴な店が軒を並べ、バザールの雰囲気もよく、
ヨガセンターも一軒目撃した。外人旅行者向けのレストラン、「ジャー
マンベーカリー」を見つけたので、休憩に入る。私と夫はスモール・
ポットコーヒー、息子はチョコレートケーキをオーダー。ケーキはボ
リュームたっぷりで息子は満足げ。しめて55ルピー。さて、オートで戻
ることになったが、土地勘がないため遠回りしてオートスタンドに行く
ことになってしまい、夕刻受ける予定だったシバナンダ・アシュラムの
無料ヨガレッスンに大幅遅刻。すでに太陽礼拝体操中で、剃髪のチベッ
ト人らしい女性インストラクターに冷たく退けられたが、見るだけと
言ってなんとかなかに入り込み、控え室にヨガマットが山積みになって
いたので、一枚抜き取って、「キャナアイ・ジョイン?」と断って、ほ
かの二人の女性参加者と共に
スーリヤナマスカールを始めた。実は昨年
4月体調を崩してから本格アサナはずっと中止していたので、なんと8ヶ
月ぶりのことだった。できるかなと少し心配だったが、やり始めてみる
とできるもんで、シルサアアサナ(頭立ポーズ)を除いて、ほとんどの
アサナを最後までやり尽くしてしまった。
実は宿泊ホテルでも、かの米で有名な
アインアンガーヨガのレッスンを
授けていたのだが、一回250ルピーと高額なので、敬遠したのである。
米在住のB・K・Sアイアンガーはかなり高齢で、600体位の本で有名、小
道具を用いてゆっくりやるアサナに特徴がある。一度くらいトライして
みてもよかったのだが、どうも商業優先のホテルの姿勢に好感を覚えな
かった。一階にはギフトショップまであり、スピリチュアルな文句がプ
リントされたTシャツが300ルピーで売られていた。が、一日分の宿代
が飛んでしまうにもかかわらず、さすがアイアンガー人気で朝夕のレッ
スンに常時10人ほどの参加者があった(ホテルはおおもうけ
)。
シバナンダ・アシュラムでの女性専用レッスンは(男性は朝)、チベッ
ト人インストラクターの指示するぼそぼそ小声の英語がよく聞き取れ
ず、内容は今ひとつだったが、要は8ヶ月ぶりに再開できたことに意義が
あるのであって、それと、上階のヨガホールがすばらしかった。
全面ガラス戸の先に開けるバルコニーの真下は、宵闇の下りた紺青のガ
ンジス河、ウッドフロアの清潔なホールは生徒三名にはもったいなさす
ぎるほど広く、プラスチック製のヨガマットも貸してくれる。漠然とわ
が安宿でも、フリーのヨガレッスンを提供できないかと考えているのだ
が、このようにすばらしい環境はとうてい望み得ない。ヨガを大勢でや
るには、広いスペースが必要で、それが今現在私を悩ませている問題で
もあるのだが。
リシケシはその昔、ビートルズが修行に訪れた聖地としても名高いが、
くだんのTM(超越)瞑想アシュラムはすでに閉鎖され、廃墟同然と化し
ていた。ヨガとロッジをドッキングしたアシュラムホテルがたくさんあ
るので、本格修行を目指す人にはお薦めだが、ヨガの商業化も目立つの
で、自分の目で確かめて良心的な施設を選ぶことが肝心。やはり、最低
でも一週間はほしいところで、息子の休みの関係で二泊しかできなかっ
た私はたった一回しかレッスンを受けられず、スピリチュアル書を売っ
ている本屋さんもゆっくりのぞいている暇がなかった(シバナンダ・ア
シュラムには付設のライブラリーや、近代的なヨガ教授法を確立させた
ことで有名な故シバナンダ・グル自筆のヨガ書<ヒンディ・英語>をそ
ろえた本屋もある)。
最後の夜は、インデージュ社の赤ワイン、リビエラ(デリーで370ルピー
で入手)で乾杯、赤党の夫は、グラスが進んだ。ディナーはまたしても
マドラスカフェ。前日の昼、チョーメン(焼きそば)をオーダーしたと
ころ、からくて食えた代物じゃなかったので、ノースパイスときつく言
い渡す。ライムとしょうが風味のおかしな味付けになっていたが、なん
とか許容の範囲。旅先ではまともな食事にありつけることはまれなのだ
から、我慢我慢。
翌々日は、ハリドワル発の列車が午後6時過ぎだったので、午前中町に
出て、メインのトリベニガートに(オートで4、50ルピー)。前回行け
なかったのだが、石の河原の広いガートは、ちょっとしたピクニックス
ポット。透明な青みがかった緑のせせらぎが美しく、ハリドワルの早流
に比べると、穏やかで沐浴には最適。巡礼旅行者がガンジス河に身を浸
し、幾度となく穢れの肉体を水中に潜らせているほか、河辺では小壷に
満たした聖水を高みから降り注ぎ、また満たし降り注ぐという河を崇め
るプジャの儀式を執り行っている初老の男性もいた。
息子はジーンズの裾を捲し上げると、水中に足を浸し、ピクニック気分
を楽しんでいた。私も河辺まで行って、水底の石をいくつか拾い上げ、
記念に持ち帰ることにした。
この後、徒歩で行けるバーラトテンプルに、路地の両側に店の建ち並ぶ
バザールを抜けて向かった。ランチは、そこからさらに歩いていったメ
インロード沿いの「スレシュ」大衆食堂でとった。やっと当たりを見つ
けたという感じで、50ルピーのターリーは超おいしかった。夫と息子は
単品オーダー、どれもおいしかったようで満足顔。ターリーにはチャパ
ティのお代わりがいくらでもついてくるので、オーダーし、二人に分け
てあげた。
前回同様、サドゥ(乞食行者)にたんとお布施をしたのでごりやくがあ
ることを祈りつつ、4時過ぎ、リシケシを後にし、オートでハリドワル
に戻った。
デリーに着いたのは、午後11時過ぎ。帰りはシャタブディ特急を三倍近
い運賃を払って奮発したにもかかわらず、前回に比べ食事もサービスも
お粗末、子連れの観光客が多い車内は騒然とし、しかものろのろ運転、
行きは急行であんなに早かったのにと唖然。席はリクライニングが効い
た柔らかい革椅子といいけど、高額の運賃に見合わぬサービスぶりで
がっかり。
デリーでは、新市街・コンノートプレースにあるパリカバザールで
ショッピング後、映画を観るつもりでいたが、息子が行きに会った寄宿
舎時代のクラスメートとまた会う手はずになりお流れ、昼寝を決め込む
夫を残し、私は常宿ホテル「スタービュー」(メインバザールの奥手、
シャワー&トイレ・TV付きでツイン400、この界隈にある安宿のなか
ではわりとこぎれいでお薦め)近くの小さなスピリチュアル・ブック
ショップで菜食・ジュース関係の本を二冊、シタールのCDも買った
(しめて390ルピー)。行きに路頭の本屋で見つけて道中読破した、美
しいハードカバー書「ザ・シークレット」(値切って460ルピー)は、
この旅のまた別の収穫でもあったことを最後に付け加えておこう(全世
界的にベストセラーの同書はインドでもトップ、息子はすでに友人に
DVDを見せられていた)。
※1ルピー=約2.5円