十月も下旬ですっかり日が沈むのが早くなり、五時半でもう薄暗い中浜に出ると、
何かのファンクションらしく光の渦にきらめく背後のファイブスターホテル、ホ
リデーリゾート(写真)の上空に突如、爆音と共に花火が何連発も打ち上げられ、
私の足をとどめずにはおかなかった。
夜空に打ちあがる満開の華、低空不発もあるが、中空を越えてさらに高く打ちあ
がると大輪の華が咲き、華麗だ。
開いた後、星型にちかちかきらめくタイプだ。
オレンジ、グリーン、赤、白、それらを取り混ぜた二色三色のカラフルなものも。
高い天で打ちあがると、火の粉が私の頭に降ってきそうで、少し怖い。
花火は結婚式などでもよく打ち上げられるが、今日はタイミングぴったし、フル
に光の祭典を満喫できた。
東寄りの浜のラクシュミー富貴女神の偶像を拝んだ後、海沿いに西側に戻って、
にぎやかなサウンドの洩れる五つ星ホテルに立ち寄ってみた。
裏庭の広大な芝ガーデンが会場となっており、しつらえられた舞台では、オ
ディッシー、当オリッサ州の古典舞踏のパーフォーマンスが繰り広げられていた。
オーソドックスなものではなく、ゴッティエ・プオ(一人の息子)といって、十
代前半の少年たちが女装し、踊りながら曲芸まがいを繰り広げるのである。赤、
オレンジ、緑、黄とカラフルな衣装に着飾った七名の少年舞踏家がブリッジや逆
立ち、宙返りで、アクロバティックな型を作り、観客を楽しませる。
こういうとき外人は得で、立って鑑賞してたら、最前席に招かれた。
折しも舞台では、二名がブリッジしたおなかに一人のダンサーが乗って、脇二人
が寄り添うような型を作り、ブリッジの中にまた二人寝てという、技が繰り広げ
られていた。
その後も、七名の女装少年たちは数々の曲芸を披露、会場からは拍手が沸いた。
舞台の背景はモダン抽象アート風の造型で、カラフルな照明がすばらしい。背景
に白い花模様や矢車模様が浮かんだりするのである。
十一月のホテル協会主催のビーチ祭りでも催しがあるが、よっぽどモダンである。
さすがファイブスター、金をかけてるわいという感じ。
もちろん、お金を払うのは、依頼側、Green India Pariwar(GIP)社とかいう主
催名が背後にあったが、同社。なんの会社だろう。そのまま訳せば、緑のインド
家族社、だ。
私の隣のソファーに座っているのは社主・重役連のようで、ひっきりなしに社員
と思われる人々が挨拶に訪れる。
ちゃっかり侵入させてもらって得した私、お次は、オスカー映画「スラムドッグ
・ミリオネア」の主題曲・ジャイ・ホーのダンスを堪能、マドラスのモーツアル
トといわれるARレーマン作曲の有名な歌だ。白いTシャツに光る水色のたすき
がけモールをつけて、コバルトブルーのロングスカートを翻して踊る女性三人に、
同じ水色モール胸当てのある白のTシャツ・ズボンの男性三名のコンビが、軽快
なアップテンポの曲に併せて、ダイナミックな踊りを展開。
その次はプジャ・ロイとかいう名の女性シンガーが、赤のミニスカートにそろ
いの赤のブーツというどぎつい衣装で歌を披露、インド人は大音響好みなので、
耳がツーンとなるほどだ。
二曲聴いて立ち上がった。けばけばしい衣装のあまり美人でない前座歌手といっ
た感じで、今ひとつだった。
観客席の立ち並ぶ後方には軽食コーナーもあったが、ここでは外人があだとなっ
て、ただ食いはかなわなかった。どっちみち食道炎で飲食できなかったけど。
それにしても、社員旅行の歓待会みたいなもんだろうか。
それにしては家族が多い。社員の家族も招待しているのだろうか。
ホテル内はとりどりの照明で美しく飾られ、社員たちが右往左往していた。
インド人は鑑賞マナーがなってないので、演技中でもしょっちゅう立ったり、舞
台の袖には携帯やデジカメで写真を撮るやからがぞろぞろ、おとなしく鑑賞して
いる人は半分にも満たない。
脇のスクリーンに同時進行で舞台演技も映し出されていたが、こちらは粗悪で、
8ミリ並み。
それにしても、思いがけず、最前席に座れてラッキーだった。
初めて五つ星ホテルの催しに侵入したが、思った以上によくできているのに驚か
された。
ホリデーリゾートはとくに結婚式などファンクション慣れしているので、お手の
物のようだ。
プリーは田舎で娯楽がないため、地元民も、裏門のところに群がって、興味しん
しんに歌と踊りと音楽の祭典に酔いしれていた。
ちょっといい服着てれば、侵入できるんじゃないか。
地元民なら、顔を知られているからやばいか。
でも、旅行者ならそ知らぬ顔して忍び込み、軽食ただ食いして、催しを楽しんで
もわからなさそうだ。社員かどうかの区別なんて、スタッフにもつかないだろう。
予想外のエンタテイメントにあずかって気分転換にはもってこい、ほくほく顔で
帰路に着いた。