本年四月に他界した白川道(とおる)の
「天国への階段」(上中下、山本周五郎候補作)を一昨日、読了した。
読後感は確かに感動譚ではあるが、いまひとつ。私は本来ミステリーが好きなほうではないのだが、それでも面白いものは面白い。このベストセラーになった2000枚を超える大長編の欠陥は、登場人物が多すぎることと、冗長なこと、とくに警察内での会議で犯人推理がなされる場面が一章置きくらいに出てくるわけだが、読むのが苦痛だった。係長だの、管理官だの、警部・警部補など、いちいちフルネームで登場、誰だ誰だかわからなくなって、読むのが面倒になる。
ただ、刑事ドラマとしては、署内の上下関係、役職などよく調べてあり、読ませる。最大の欠陥を挙げよう。地の文はこなれている著者が、男女主人公の性愛場面になると、目も当てられないほどの馬脚を現す。つまり、濡れ場が書けない作家なんである。
それまでスムーズに読ませた内容が、男女のそういうシーンになると、途端に稚拙になる。無頼で通り、何人もの女性と関係があり、場数を重ねてきているはずの作者の致命的な欠点、そう、プロの作家にはベッドシーンが苦手な人もいるのである。
でも、恋愛がひとつのテーマになっている以上、いただけない。
刑事の推理ドラマは本当によく書けているのに、男女がホテルにしけこむ場面になると、お粗末で目も当てられない。
なんか照れて書いてるような、無頼の裏の純粋さ、稚気さを備えていた人柄というから、絡みシーンは苦手なのかもしれない。
濡れ場のうまい作家はたくさんいるが、藤田宜永、高樹のぶ子など、下品にならずに、官能をあおらせ、後者などまかり間違えばポルノになるぎりぎりの線で救い上げ、きわどい描写に成功している。
まあ、白川道は恋愛小説作家でないから、別に下手でもいいのだろうが。
次の帰国時は「流星たちの宴」や「病葉流れて」を読んでみたいが、この作家はどうも私がのめり込むタイプではなさそうだ。
それにしても、ベストセラー書というのはどうして、こうもつまらんのだろう。
人間ドラマとしてゆさぶりをかけるといわれれば、確かにそうだし力作なんだが、この長さにする必要はあったか。刑事が数多く登場する場面など、もう少しはしょれたはずだ。ただし、ミステリー好きが読むと、また違うのかもしれない。
でも、同書を原作にしたドラマ(2002年4月8日から同年6月24日まで、読売テレビの制作により、日本テレビ系列で毎週月曜22:00 - 22:54(JST)に全12話が放送された、
あらすじとキャストはこちら)は見てみたかった。
イメージとして、自分を裏切った女への復讐心を誓い、貸しビル業者として成功していく過程で殺人はじめのさまざまな罪を重ねていく主人公役に、佐藤浩市はぴったりである。三国錬太郎の息子だが、翳りのある、ちょっとひねた男の役をさせると、彼の右に出る者はない。相手役の古手川裕子も悪くない。二十六年後に初恋が再燃して、熟年男女の不倫に発展、最期は自殺した男の後を追う形で女が果て、共に天国への階段を昇る設定で、ドラマの男女コンビは適役、そういう意味でも見てみたかった。