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上越秋山紀行 下 29 七日目 上結東村 6

(トーマス・ジェームスの重連)

クリスマスイブの今日、トーマス・ジェームスの重連があるというので、散歩がてら撮影に行った。昨日逆光だったというので、東側に渡って撮影した。

「上越秋山紀行 下」の解読を続ける。

膳過ぎて、宿の主、桶屋に白き骨のようなるを売りたり。予、手に取り見るに、真白にして鮮かなり。すべて秋山谷にては、折節農
人ながらも熊も取り、その陰茎の干したると云う。これ里よりも折々注文あり。一寸見れば骨のようなれども、その堅き事は金鉄と云えども猶及ばず。大名様の刀の目釘になり、決して折れる気遣いはない。

また里人はこれを摺り、粉にして、淋病に用いるに、その功、息席(即席)にありと云う。能々見れば透き通るように、少し反り、末程尖り、刀のの如き筋左右にあり。予はこれぞ奇品の、家土産にせんと、桶屋に所望すれど、能き價になるかして離さず。
※ 鎬(しのぎ)- 刀剣で、刃と峰との間に刀身を貫いて走る稜線。

愚案するに、小松原の大屋敷跡は人の栖には有るべからず。かゝる深山幽谷には、種々無量の処ありて、自然の平場なるべし。その證(あかし)は、予、文化九甲(年)文月、苗場山の頂上を探りしに、平原渺々たる処、霧のかゝるように、見切りもなき平地に、田形までも数々、況んや高山の裾には様々の処あるべし。
※ 文月(ふみづき)- 旧暦七月のこと。
※ 渺々(びょうびょう)- 果てしなく広いさま。遠くはるかなさま。


(ご)して、家内の者は炉端に真黒なる稗焼餅を、膳もなく、椀の笠に漬菜を盛りて、喰う内に、亭主櫃形に切りたる餅一つ焙り、十歳位より以下の子供三人、三つに分けて呉れければ、三人(みたり)ながら押し戴くこと両三度にして、さも珍しそうに喰う。風情、実に五穀の内にも米は最上の宝と、ここにて感を催す。
※ 漬菜(つけな)- 漬物にする菜。ハクサイ・カブ・キョウナなど。

さて長噺に時刻を移し、今日も日並みよく、嘸(さぞ)や男女が世話し(忙し)からんと、出立して上妻有の庄、小出村まで帰りたしと云うに、七十九のかの老人申すには、近年塩沢に、乙(きのと)の大日の開帳の時、この村より日着に参詣し、またその時、日下(ひもと)が高いから、田中村まで引返し泊ったと云う。その俤(おもかげ)今なおありて、日々農を楽しみ、何一つ放埓もなく、天然を楽しむ故にや長寿も多し。
※ 日並み(ひなみ)- 日のよしあし。その日の吉凶。日柄。
※ 日着(ひづき)- その日のうちに到着すること。
※ 放埓(ほうらつ)- 勝手気ままに振る舞うこと。おこないや生活がだらしのないこと。
※ 殆(ほとほと)- 非常に。本当に。


(やが)て立たんとして、旅籠の銭を置くに、色々辞退する故に、漸々その半を渡し、俄かに短冊、扇面などを認(したた)め呉れて別れぬ。

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