goo

上越秋山紀行 下 17 五日目 湯本 9

(浜松、西来院のビワの花 / 先週12日)


「上越秋山紀行 下」の解読を続ける。

これより二里登る山路の内、都(すべ)て秋山の如く大樹、大巌の奇景と云えども、折節は纔かに山師の道あり。また山師の掛けたる小屋もあり。或は澗(たに)へ降りるは道筋もなく、または右よ左と川端を上り、これより黒沢と云う所へ出、左の方へ付いて上り、ここは秋山より遠く見ゆる岩菅山の梺(ふもと)にて、この頂上には岩菅大権現と唱えて祭る神有り。山は信濃分にて、松代は真田侯の領地なれども、多くは上野(こうずけ)の者参詣す。

これよりまた二里上り、山師の小屋あり。何れ山師の入る程の深山故、幾抱えと云う大樹、麻の如く、これより燕滝と云うあり。ここ言葉にも噺にも及ばぬ奇景にして、また岩の真中より漲(みなぎ)り落ちる滝壺の、渕は藍にして、底は千尋とも云うべき場所、その左右共に千仭と云うべき程なる大巌、覆いかゝり、その岩に山乙鳥、何程と云う数知れぬ夥しき巣を喰う風景、口には演じ難し。
※ 麻(あさ)の如く - 通常「乱れる」と続いて、麻糸が縺(もつ)れるように乱れている状態を指す。ここでは、ジャングルのような状態になっていることを示す。
※ 千尋(せんひろ)-(「尋」は両手を左右に広げた長さ。)非常に長いこと。また、きわめて深いこと。
※ 山乙鳥(やまいっちょう)- やまつばめ。山上岩穴にすむ。
※ 巣を喰う(すをくう)- 鳥が巣をつくってすむ。巣喰う。


この辺り、岩魚(いわな)(いさ)る為に、小屋掛け、何れ何十日と云う日数も限らず舎(やど)る。これより左へ付きて上る事暫く、都(すべ)て川辺に付き、水浅瀬になるまで攀じ上り、また左へ一里半、山師の通路あり。これより岡へ上り切り、魚は乙鳥瀧(燕滝)より川上にては、更に取れず。

これより上州草津の東にあたる入山村と唱えて、ここ、かしこの谷間に、五軒、七軒前後、惣名は入山村にして、十一ヶ処にわたり、乃至二、三軒にて、秋山の様に営むもありて、この入山は草津さえ深山の奥なるに、またその深山の奥なれば、耕作も出来ず、年中の業は細工物なり。

最初に山師の道と申すは、この入山の者が挊(はたらき)に奔走して、草津へ商いに持ち出す栗毛、曲物、下駄、天秤棒、すべて右躰のもの、才工(細工)して交易し、さてこの惣入山村に昼夜の差別なく、夏冬共に、腰根から沢山ある木を、大なる炉に昼夜のわかちなく焚き、眠くなると白昼にても、誰れでも家内の者勝手次第に寝臥し、夜半とも目が覚ると秋山と同じく、夜具もなく帯したまゝで起き上り、仕事始める。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )