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駿台雑話壱 34 妖は人より興る(二)

(散歩道のオーニソガラム・ウンベラタム)

昼間は孫4人が集まり大賑やかであった。

室鳩巣著の「駿台雑話 壱」の解読を続ける。

  妖は人より興る(続き)
前年、真西山の集を見侍るに、ある民家の女子、父の疾(やまい)を憂えて、夜になれば天に向いて身をもて、代らんと祷(いの)りしに、その誠感じてやありけん、一夜群鵲俄かに屋を遶(めぐ)り飛び噪(さわ)ぎし程に、仰ぎて空中をみれば、大星三つ、として月の如く閻楹の(間)を照しけるが、翌日より父の疾、瘳(いえ)りけり。
※ 真西山(しんせいざん)- 真徳秀。は、南宋中期の政治家、儒学者。号は西山先生。建州浦城出身。
※ 群鵲(ぐんしゃく)- カササギの群れ。
※ (よういく)- 盛んに輝くさま。
※ 閻楹(えんえい)- 「閻」は正しくは木扁に閻。のきと柱。


西山、郡守として、その事を目の当たり見聞きせしまゝ、その閭(門)榜表して、懿孝坊とし、記を作りてその事を詳しく著されける。これらは、殊に確かなる事にて、その感、著しと言うべし。
※ 榜表(ぼうひょう)- 立て札や額にしるして明らかにする。
※ 懿孝坊(いこうぼう)- 「懿」は「立派な。すばらしい。」。素敵な親孝行の家。


然るに、衰世に及びて、人心正しからねば、大方邪氣の感のみにて、それより妖怪を生ずるなるべし。もとより怪力乱神は聖人の語り給わぬ事なれども、その理を窮むるは格物の一端なれば、諸君のために申し侍るべし。
※ 衰世(すいせい)- 衰えた世の中。末の世。末世。
※ 怪力乱神(かいりょくらんしん)- 理屈では説明しきれないような、不思議な現象や存在。(「論語」述而篇に「怪力乱神を語らず」とある。怪異・勇力・悖乱・鬼神の四つをさす。)
※ 格物(かくぶつ)- 朱子学では「物にいたる」と読み,個々の事物の理を究明してその極に至ろうとすること。窮理。


左伝に妖を魯の申繻が論じて、「人の忌むところ、その気燄を以ってこれを取る。妖、人によって興るなり」と言えり。よく物理に通ずる言と言うべし。「燄」は火の未だ盛んならずして、進退するとあれば、人の気にてもかくの如し。すべて、人の忌恐るゝ所は、世話に、恐ろしき物の見たきというように、さながら心に忘れえぬ程に、思想に引かれて、火の、かつ燃え、かつ消ゆるように、あると見つ、なしと見つして、かくして止まねば、気浮かれて我にもあらずなりぬる程に、邪気隙に乗じて、幻に形象をさえ生じぬれば、様々に妖をなし、怪をなすぞかし。
※ 左伝(さでん)-「春秋」の注釈書。魯の左丘明著と伝えられる。春秋三伝の一。歴史的記事に富み、説話や逸話を多く集め、また、礼制に詳しく国家興亡の理を説く。
※ 申繻(しんじゅ)- 魯の国の大夫。
※ 気燄(きえん)-(炎のように)盛んな意気。威勢のいい言葉。気炎。気焔。


斉侯の彭生を見、鄭人の伯有を見るの類いこれなり。すべて氣燄の致る所にて、正気の感には絶えてなき事なり。
※ 彭生 -「春秋左氏伝」より。斉の襄公の臣下だった彭生は魯の桓公の暗殺を命じられ実行したが、その犯人として襄公により処刑され、死骸を魯に送られた。彭生は大豚の妖怪となって襄公を襲った。
※ 伯有 -「春秋左氏伝」より。小国・鄭で政変があり、時の執政・伯有は晋への亡命に失敗して死を賜った。伯有は悪鬼となり、鄭にたたりをなした。

(この項続く)
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