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発酵の仕組みと酵母の秘密(3)

(ご近所から頂いて挿し木したガクアジサイの品種物)

後半は講師の瓜谷教授の目下の研究課題について講義があった。大変ややこしい話で、上手く解説できるかどうか、いやそれ以前に自分自身理解できているのかどうか、確証がないが、人に説明する事で、自分の理解が進むということも有り得るから、始めてみよう。

臓器移植などの際に、免疫抑制剤として働き、拒否反応を抑える、ラパマイシンという薬がある。モアイ像で有名なイースター島の土中から発見され、イースター島は原住民にはラパヌイ島と呼ばれていたことから「ラパマイシン」と命名された。

この免疫抑制剤ラパマイシンの標的になるタンパク質をTOR(ラパマイシンの標的)といい、ヒトを含め生物に広く存在している。TORは栄養状況に応じて細胞の増殖と成長を制御する役割を持っている。

研究の核心を説明する前に、免疫のメカニズムについて確認しておく。ヒトを含めた生物は、ウィルスなどの抗原が体内に入ると対抗するために抗体を作る。この抗体は排除が終った後も、わずかに残留する。この状態を免疫ができたという。そこへ新たに抗原が侵入すると、残留していた抗体を一気に激増させて、抗原を排除することが知られている。

TORはこのような免疫に働く免疫細胞を、生体の危機に対応して激増させる役割を持っている。ラパマイシンはそのTORを抑える薬である。

ここから教授の研究テーマである。遺伝子の研究がやりやすいという理由で分裂酵母を研究材料にした。興味ある遺伝子をデーターバンクから検索する。設計に基いて遺伝子を改変する。改変した遺伝子を分裂酵母に導入する。45℃ほどの湯浴で導入できる。分裂酵母の様子を観察して性質を測定する、といった手順で行う。

分裂酵母は栄養がある限り増殖が行われる。この場合の栄養は窒素源としてのアンモニアやアミノ酸、エネルギー源としてのブドウ糖など。ところが、窒素源が枯渇する(窒素源飢餓)と、二つの分裂酵素が一つになって4つの胞子が出来て、次に窒素源が現れるまで活動を休止する。これらをコントロールするのが分裂酵母のTORである。

分裂酵母にはTOR1とTOR2がある。TOR2の遺伝子に変異を導入し、性質を観察する。温度感受性変異体(温度を上げると働きの程度が下がるようなTOR)を作って実験すると、温度を36℃に上げたところ増殖できなくなった。

さらに、TOR2にラパマイシン感受性変異体を作った。するとラパマイシンで増殖が止まり、窒素源飢餓と同様の挙動を示したことから、TOR2は窒素源を感知し、細胞の増殖を制御することが示唆された。

今後の展望として、ヒトにおいてガン細胞の増殖をコントロールしているTORのラパマイシン感受性変異体が出来れば、ラパマイシンがガン細胞の増殖を抑える可能性がある。

以上で今回の講義を理解して説明を試みたが、理解してもらえたであろうか。多分、教授の講義は何十時間も掛けて聞かないと、理解出来るものではないのだろう。それを二時間足らずで理解しようとする方が間違っている。
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