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発酵の仕組みと酵母の秘密(1)

(講師の静岡大学理学部、瓜谷真裕教授)

静岡大学・読売新聞連続市民講座、「未来につなぐ、食と健康」の第2回、「発酵の仕組みと酵母の秘密」という講座を聞きに、靜岡市産学交流センター6階に行った。講師は静岡大学理学部化学科、瓜谷真裕教授(生化学)である。

酵母は菌類でカビやキノコの仲間である。細菌やバクテリアが原核生物であるのに対して、菌類は動物や植物と同じ真核生物に属している。酵母には出芽酵母と分裂酵母があって、よく知られているパン酵母、ビール酵母、酒酵母は、いずれも出芽で増える出芽酵母に属している。

酵母は、砂糖からアルコールと二酸化炭素をつくる。これを発酵と呼ぶ。酒ではアルコールの部分を利用し、ビールではアルコールと二酸化炭素の両方を、パンは二酸化炭素を膨らませるために利用する。

  
(発酵実験、左から未投入、投入、発酵)

講演の間に受講者に配られたドライイースト(酵母)をブドウ糖液に入れるとどうなるかという実験を各自行った。イースト菌を入れてよく混ぜると、10分ほどで泡がいっぱい出て、発酵する様子を見ることが出来た。

この発酵について、糖菌説を打ち出して、最初に解明しようとしたのは、細胞説の大家、シュワンである。「発酵は微生物体内で起きる化学変化で、これを代謝(メタボリズム)」と呼んだ。「メタボリズム」は最近良く聞く「メタボ」のことで、日本語では「代謝」である。

それに対して、有機化学者が反論して、尿素を合成したウェーラー、有機化学の創始者のリービッヒは、「発酵は微生物の作る産物が引き起こす化学反応だ」と主張した。

後者の説の方が有力になっているところへ、ルイ・パスツールが「発酵は酸素がないときに酵母が示す生命現象だ」と主張した。酸素があるとき、酵母は増殖するが発酵は起きない。酸素がないとき、発酵が起きる。発酵は酸素がないときに酵母がエネルギーを得るために営む生命現象だと考えた。

リービッヒの酵素による触媒説と、パスツールの生気論と原形質説が論争になっているところへ、エドウアルト・ブフナーが、実験中の偶然で、すりつぶした酵母の液でも発酵が起きることを発見し、発酵は化学反応であると結論付けた。パスツールとリービッヒの論争に幕が下りた。生命現象を化学の知識で理解しようとする、生化学(バイオケミストリー)という学問がその時誕生した。

ちなみに、ブフナーがやろうとした実験は酵母からある物質を取り出そうと、すり潰すところまで作業し、冷蔵庫のない時代に保管のため砂糖漬けにして、出張した。帰ってきてみると、しっかり発酵しているのを発見したのである。ブフナーは1907年に「化学・生物学的諸研究および無細胞的発酵の発見」という受賞理由で、ノーベル化学賞を受けた。何ともラッキーな男であった。

酵母の発酵の起きるメカニズムの諸説を時系列的に見てきた。この後、さらに細かく発酵のメカニズムがわかってくる。(以後は後日に続く)
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