大木昌の雑記帳

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少子化の本当の問題(3)―根本的に本質を理解していない岸田首相―

2023-04-06 20:08:34 | 社会
少子化の本当の問題(3)
―根本的に本質を理解していない岸田首相―


岸田内閣は2023年3月31日、「異次元の少子化対策」の只たたき台を発表しました。

岸田首相の頭の中では、このたたき台は少子化を食い止めるだけでなく、増加に転ずる
“反転攻勢”の切り札ともなる、との思いがあったのでしょう。

たたき台は、今後3年間で取り組む主なこども・子育て政策は大きく3つの領域から成
っています(『東京新聞』2023年4月1日 朝刊)。

一つは、経済的支援の強化。①児童手当の拡充として所得制限撤廃、高校卒業までの支
給延長、多子世帯の増額、②出産費用の保険適用、③学校給食の無償化に向けた課題の
整理、④給付型奨学金の対象拡大、⑤授業料後払い制度の導入、子育て世帯への住宅支
援強化が含まれる。

二つは、こども・子育てサービス拡充。①保育士の配置基準改善と処遇改善、②就労要
件を問わずに保育園等を時間単位で利用できる制度の創設、③放課後児童クラブの受け
皿拡大が含まれる。

三つは、共稼ぎ・共育ての推進。①男女の育休給付を手取り10割相当に引き上げる
(最大28日)、②育休を支える体制整備を行う中小企業への助成措置を大幅に強化す
る、③自営業、フリーランス等の育児期間中の国民年金保険料免除がふくまる。

まず確認しておくことは、今回のたたき台は、どのようにしたら急速な少子化を食い
止め、岸田首相の言葉にあるように、逆転させるかの政策を示すことが目的でした。

しかし、上の内容を見てわかるように、これらの施策は、将来に向けてどうしたら多
くの子供を産んでもらうかというのではなく、すでに子供がいる家庭や親にたいする
子育て支援となっています。

もちろん、こうした子育て支援は、これから子供を産もうとするかどうかを決める際
の多少の後押しにはなるかもしれませんが、専門家の間では、その効果はそれほど大
きくない、と考えられています。

岸田首相は、お金をばらまけば、女性は積極的に子どもを産むようになると思ってい
るようです。

しかし、たとえば、これから出産年齢に達する二十歳前後の若い女性に、国が経済的
な育児支援をするからできるだけ多く子供を産んでくださいと言っても、彼女たちが
それでは積極的に産みましょう、と言うとは到底思えません。

というのも、女性が子どもを産まないのは、たんにお金の問題だけではないからです。

私には、岸田首相は事態の本質を理解していないように思えます。天野妙「みらい子
育て全国ネットワーク」代表は、岸田首相にたいして手厳しい批判をしています。

今の日本社会は、子どもを産むことが女性にとって「人生最大のリスク」になってし
まっているのです。

多くの女性が働きながら、有痛分娩(ぶんべん)で命がけの出産をし、産めば待機児
童のリスクと時短勤務で職場の隅に追いやられる。子どもが増えていくごとに所得と
時間を失い、経済的リスクを負います。

さらに、出産前後は孤独になりがちだ。出産前から専門家による継続的な伴走型支援
が必要だ。さらにサポートを保育園までつなげ、全ての人が支援を受けられる仕組み
に変える必要があります。

社会や地域が助けてくれ、共働きでも子育てをしながら生きていける自信ができて、
はじめて2人目を産めるようになるのです。最初の育児経験が、「地域も社会も誰も
助けてくれない、夫はいないも同然」では、2人目を産みたいとは思わない。これが
実態だというのです。

天野氏は、政府の「社会全体で子どもを育てようという空気を作る」「異次元」と
いう方向は正しい。しかしいつも「打ち出す政策=着地」で間違う。

というのも、岸田首相は、なぜ少子化がこれほど進んでいるのか、根本的な原因を
理解していないと感じる、と述べています。

確かに、政府の調査では、理想の数の子どもを持てない理由の1位は「お金がかか
り過ぎるから」だそうです。だから、お金は重要でることは間違いありません。

しかし、今あるメニューは目先のお金を配る政策ばかりで、女性の視点に立ってい
ない。お金だけの問題ではないことを理解していない。

天野氏が最も強く批判しているのは、政府の少子化対策が根本的にずれているのは、
「女にどうやって産ませようか」という発想です。

もっときつい言い方をすれば、政府は女性を、子供を産む道具のように考えている
と考えている、ということです。

しかも、岸田首相は、お金を配るメニューを示しているだけで、その財政的な裏付
けは一切示していません。だから、これらのメニューは「絵に描いた餅」になる可
能性もあります。

ある自民党幹部は、岸田首相が示したメニューを実行しようとすれば、8兆円は必
要だと述べています。防衛費予算を増額させたうえで、巨額の少子化関連予算をさ
らに積み増すとなれば、国家の財政は破綻してしまいます。

なぜ政策が間違っていることに気がつかないのでしょうか?

天野氏が昨年2月に参考人として参院予算委員会で発言した際、男性議員から「手
短にしろ」とやじを浴びた。「ご声援ありがとうございます」と返したが、次の男
性参考人にはやじが飛ばなかった、という。

これは、政府や自民党議員の間に女性の発言にたいして謙虚に耳を傾けるという姿
勢が、欠けていることを示しています。

    問題を理解できないのは、組織の同質性が高すぎるからだ。経験や価値観
    がみな同じだから、問題点に気づくことができない。(議員の中に―筆者
    注)子育てしながら働いた経験があって、今日の卵が198円か224円かとい
    うことに機微を感じながらやっている人がほとんどいない。いたとしても
    意思決定過程に入れてもらえていない。

つまり、政府や自民党議員の多くは一様に保守的で、男性が家庭でも社会でも優位
に立った家父長制的な伝統社会を望んでいるし、それが当然だと思っているので、
自分たちの考えに疑問を持たないし、女性からの視点をもつことがない、というこ
とです。

岸田首相も例外ではありません。2023年3月31日の予算員会で首相は自身も3人
の子供の親であるとふれたうえで「子育てが、経済的、時間的、さらには精神的に
たいへんだということは目の当たりにしたし、経験もした」と強調し、「決して甘
く見るということではないことはご理解をいただきたい」と語りました。

しかし、2022年2月25日付『文藝春秋digital』に掲載された、フリーアナウンサー
の有働由美子さんと、岸田裕子首相夫人の対談記事に以下のくだりがあります。
    有働 子育ては広島でお一人でという、今でいう「ワンオペ育児」ですか。
    岸田 そうです。子どもが小さい頃は一人が夜中に熱を出したら他の子を
       どうするかとか、そういう時は結構大変でしたね。あとは子どもた
       ちの幼稚園、小学校、中学校のPTAの役員をやらなきゃ、とか。

つまり岸田首相は、自分も子育てを「経験している」と国会の場で大見栄を切った
のですが、実はすべて婦人任せで、自分は子育てにかかわっていなかったことが夫
人の口からばれてしまったのです。

しかも、婦人は首相が家庭では「聞く耳を持たない」ことも暴露しています(注2)。

これまでの、育児支援とは別に、2023年1月31日の衆院予算員会で、立憲民主党
の長妻昭氏は、自公政権の少子化対策はこの10年、「小粒で的外れ」というしかな
い、と批判しました。

「的外れ」という点は、少子化の最大の要因でもある未婚の増加を直視した対応を
取らなかったことを意味します。

というのも、結婚したカップルから生まれる子どもの平均は、2.2人(1977年)か
ら44年を経て、1.9人(2021年)と減少しましたが、激減ではありませんでした。

それでも、子どもの出生数が激減しているのは、そもそも結婚そのものが大きく
減少してきたからなのです。

結婚後、望めば子どもを持つことができる環境整備は急務すすが、長妻氏は、政
府には少子化のより大きな原因である、未婚の増加への対応が欠けていたことを
指摘しました(注3)。

子供を産むことが結婚とセットになっている日本では、未婚の増加はただちに産
まれる子ども減少につながります。

この必然の帰結として、人口全体が減少すれば、子供を産む女性の数も減ります。

現在問題となっている出生数の減少は、今突然始まったわけではありません。今、
出産期を迎えている女性は30年前に生まれた人たちで、その時点ですでに出産
する女性の絶対数が減少していたことの必然的な結果なのです。

もし、30年前に少子化に備える施策を講じていれば、現在のような極端な事態
は緩和されたはずです。しかし、当時の政権は、少子化の問題を軽視していて、
真剣に取り組む姿勢は全くありませんでした。

次回以降、なぜ結婚が減少したのかをもう少し詳しく検討し、将来、日本の人口
がどうなってゆくのか、そして、日本はそれにどのように対応してゆくべきかを
検討してゆきたいと思います。


(注1)『毎日 プレミア』(電子版)2023年3月14日
     https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230313/pol/00m/010/0 05000c?utm_source=premier&utm_medium=
email&utm_campaign=mailhiru&utm_content=20230314
(注2)『朝日新聞』電子版(2023年2月1日 20時00分)https://www.asahi.com/articles/ASR216FJCR21UTFK01C.html;
    『文芸春秋 digital』(2022年2月25日08:00) https://bungeishunju.com/n/nc42ba5fa0f2d 1/31(火) 17:45;
(注3)『毎日 プレミア』(2023年2月21日)https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20230220/pol/00m/010/00500
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満開の紅白の桜。周囲の木々は新緑の衣に着替えています。                      初頭には枯葉が道を覆っていたのに、今は鮮やかな新緑が道を縁取っています。   
  

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